コンピレーションCD「夜ジャズ」シリーズをはじめ、数多くのアルバムをプロデュースする他、レコードにかける知識と情熱から“レコード番長”と称される須永辰緒。彼のDJ活動が今年で30周年を迎えた。
これを記念して、ソロ・プロジェクト名義では第5弾となるオリジナルアルバム「STE」が5月20日(水)に発売。最新アルバムの話を中心に、音楽そのものへの思いについて話を聞いた。
――DJ活動30周年、そしてアルバムの完成おめでとうございます。
実は32~33年目なんですけれどね(笑)。DJの先輩が、30周年記念で30時間DJパーティーというのをやっていたんですよ。地獄みたいなイベントだったので、自分は絶対やるまいと黙っていたんです。ですが後輩たちが気づいてしまって(笑)。次第に仲間たちの間で話が飛躍して、今回5年ぶり5作目となるアルバムを出すことになりました。
――1曲目が映画「犬神家の一族」のテーマ曲「愛のバラード」のジャズアレンジです。
「ルパン三世」に関するリミックス集などのプロデュースをやらせてもらったこともあります。大野雄二さんが僕のラジオ番組に出演した時、「犬神ジャズ」を作って下さい、みたいな話をしたんですが、一向に作る気配がなくて。だから自分で作ってしまえ、と勝手に作っちゃいました(笑)。
――すごく親しみやすい楽曲ですね。
ジャズは、そもそも開かれた音楽でした。今では権威を持って、新しい人が入りづらく「年配の人が聴く音楽」みたいになっていますが…。一方、最近は若い子たちが、自分たちのジャズシーンを作り出してもいる。つまり新しいジャズマンと昔から聴いている人との中間がいないのです。だからその間を縮めようと思い、僕は「夜ジャズ」シリーズや、このCDを作ったりしているのです。実は、このアルバム、ブルーノートレーベルから出るんですよ。名門がココまで堕ちたかと言われないように頑張らないといけないのですけれどね(笑)。
――「愛のバラード」は初出ですか?
いえ、2013年にアナログ啓蒙という意味で、クラウドファンディングのサイトでレコードの購入希望者を募り販売しました。その際はCD化はしていません。7曲目の「キエフの空」という曲も当初は配信のみで、その後、レコード化しましたがCDは初めてになります。この曲は福島第一原発の事故を目の当たりし、何かしなければと思い、形にした曲です。MUTE BEATがチェルノブイリをテーマにして作った反原発ソングを演奏して販売。売り上げを災害対策本部に寄付しました。
――アルバム全体が濃密で、聴き始めるとあっという間に時間が過ぎてしまいますね。
DJは、単に曲を並べてかけるのではなく、流れを大事にします。その時間の中で、ドラマや起承転結を作らなければならなくて、そうしないとお客さんが飽きてしまう。DJとして考えて、これ以外の曲順はないと思います。当初、このアルバムは12曲の予定でしたが、マスタリングの段階で、どうしても流れが悪いので、1曲削りました。
――9曲目「DIRTY30」は、Zeebraやスチャダラパーをはじめとした、そうそうたるメンバーがマイクを握っています。
僕はもともとヒップホップのDJだったんですけれど、それをみんなが先輩として立ててくれて。すごいメンバーだと言われるけど、昔から同じことやっている仲間なので、そういった感覚はないですね。
――渋谷とか宇田川町といった地名が歌詞に出てきます。仲間の空気感や密度が表現されていますね。
歌詞に僕の名前や30周年という言葉は入れないでと言ったところ、スチャダラパーが25周年、MURO君はカセットテープを作り始めて30周年と、みんなこの世界に長く生き残っているということで、自分たちを称える内容に落ち着きました。カッコつけたり、誰かに怒っているわけでもなく、淡々といつまでも同じことをやっているね、と。この曲はとても気に入っています。アナログ盤を120枚限定でクラウドファンディングを使って募ったところ、1枚1万円にも関わらず、2時間で完売しました。
――クラウドファンディングですか…その勢いはすごいですね!
最近は文化の啓蒙活動に関するものが多いですね。フェスもあります。いいことをやったとしても、お金がないとモチベーションにつながらないですから。クラウドファンディングは、作る方も買う方もハッピーになれるシステムだと思います。
――今後の活動予定を教えてください。
秋に新木場のageHaで、僕にゆかりのあるバンドやDJたちと一緒にイベントを行う予定です。もちろん30時間はやりませんよ(笑)。
――最後の質問です。須永さんはプロデューサーですか?DJですか?
アイデンティティは完全にDJです。今まで培ったものは、すべてDJから広がっています。だから、職業は?と聞かれたらDJと答えます。
【東京ウォーカー】