♪十一ぴきのネコ、十一ぴきのネコ、十一ぴきのネコが旅に出た~♪ テーマソングが今でも頭の中でリフレインする。着ぐるみじゃない、可愛いネコちゃんたちでもない、『キャッツ』みたいにリアルなネコでもない。12人のおっさんが、ネコ耳もネコヒゲも付けずに野良ネコたちを演じるのだ。北村有起哉、中村まこと、市川しんぺー、山内圭哉…。全員が芝居の達者な役者たちに違いないが、間違いなくおっさんたちだ。が、ネコに見えるんですよ、彼らが。
「???」と思って当然だよね。「あの井上ひさしが作ったファミリーミュージカル?」。いやいや、お子様ランチ的ファミリーミュージカルとイメージしているなら、違うんだな、これが。形態としては宇野誠一郎の音楽を、荻野清子が1人でピアノ演奏する、音楽劇だ。
2012年、井上ひさしが共に仕事をしたいと望んだ長塚圭史の演出で上演された前回は、開幕してから口コミで観客が増え、最後は完売御礼に。業界関係者の評判も高く、出演を望む俳優たちの声が多々あり…。で、今回、3年ぶりの再演となった。
最初はチケットの売れ行きがイマイチでも、口コミで観客動員が伸びる作品は本当にいい作品。「あ~、観てよかった」と思える作品です。これ、長年の経験から間違いなし。
【物語】
いつもおなかを空かせている野良ネコのにゃん太郎は、同じようにおなかを空かせた十匹のネコ仲間と出会い、ネズミ殺しのにゃん作老人に教えられた“大きな湖にいる途方もなく大きな魚”を求めて、十一匹のネコが大冒険の旅に出る…。
【長塚圭史、作品を語る】
「井上ひさしさんの日本語の言葉遊びがおもしろくて、優しくて、深い。そこには世の中への辛辣な批評の目があり、おもしろさと怖さがきちんと共存してる。いかに劇が自由で、観る側の想像力を使ってでていくか。いろんな発想を刺激してくれる作品だった」。ミュージカルを初めて手掛ける長塚は、子どもの反応を見たいと、山内圭哉の協力で70人の子どもたちと大人の前で試演した。「子どもたちに大ウケでした(笑)」。
「キャッキャ喜んでいる子どもの隣で、大人が複雑な気持ちになっていく。子どもにこんなものを見せていいのか?と。観劇後、子どもたちの疑問にどう答えるか、大人たちが試される。子どもとの大きな視野での対話ができる作品。自信あります!」。この作品は、長塚に子ども劇を書いてみたいと思わせるきっかけとなり、それは今年7月、新国立劇場の『かがみのかなたはたなかのなかに』で実現した。「再演は楽しみです。前回から3年を経て、井上戯曲の大きなうねりのなか、さらに現代の視点とからめ、スパイスを効かせて作っていきたい。今回は、もっと練って、もっといいものを作ります。また客席に飛び出すだろうけど、どういうことが起こるのか、楽しみです。ぜひ、子ども連れで劇場にいらしてください」。
【私と「十一ぴきのネコ」】
70年代、東京は池袋にある、暗い小さな小劇場でこの作品を初めて観た。サブタイトルは“子どもとその付添いのためのミュージカル”。「子ども向けじゃないの?」「それが違うんだ。とにかく1度観て。観たらわかる」と、ほぼ強引に誘われた。
ネコたちの冒険と友情と裏切りの物語。ネコ仲間には、“旅(どさ)廻りのにゃん蔵”もいれば、アメリカ軍基地の米兵にかわいがられていた“徴兵のがれのにゃん四郎”や“軍隊嫌いのにゃん吉”らも。泥沼化していたベトナム戦争など、当時の社会性が投影された音楽劇であり、ネコたちのドラマに人生の山谷が描かれる。そして、ラストは…。観終わって、思わずうなった。
劇団テアトル・エコーでの初演は1971年。その後、1989年に大幅に書き直された「決定版 十一ぴきのネコ」が、こまつ座で上演スタート。「十一匹のネコ」、実は台本が2つあるのだ。今回の作品は、エコー版。初演当時に演出、そして主役格のにゃん太郎を演じたのは熊倉一雄。『ゲゲゲの鬼太郎』の歌や、『名探偵ポワロ』の声などで知られる声優としても活躍し、この10月12日、惜しくも亡くなられた。合掌。
【取材・文=演劇ライター・はーこ】