東京とんかつ会議・殿堂入り店「たいよう」

東京ウォーカー

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おいしいとんかつを求めて、東京中のとんかつを食べ歩く3人の食いしん坊・山本益博、マッキー牧元、河田剛が同じ店をそれぞれ採点する「東京とんかつ会議」。そのなかでも、3人が太鼓判を押す店舗が「東京とんかつ会議・殿堂入り店」。審議の結果、第6回の殿堂入り店として選ばれたのは品川区小山にある「もち豚とんかつ たいよう」だ。

もち豚とんかつ たいよう「ロースカツ定食」(1650円)


もち豚とんかつ たいよう 「ロースカツ定食」


東京とんかつ会議メンバー3人による採点表


河田剛「この価格でこれほどのとんかつを出す店はそうはない」


ご主人と給仕を担当する女性の2人で店を回している。カウンターは8席と1人で目の届く範囲だが、以前出かけたときは休日のお昼時だったせいか、お客さんでごったがえしており、サービスが遅れがちだった。しかし、今回はピークタイムを外したせいか、落ち着いて食事することができた。

“一所懸命揚げていますのでどうかお待ちください”との貼り紙があるが、ご主人はその通り真剣なまなざしでとんかつを揚げている。

もち豚を使用しているロースカツ定食(1650円)の肉は繊維質に密度があり、旨味がしっかり引き出されている。ほのかなピンク色の断面が美しい。脂は口の中でさらりと消えていく。明るいきつね色の衣は、きめ細かいパン粉を使っているが、さくさくした食感で、油も非常に軽く感じられる。キャベツは適度な歯ごたえがあり、食べていて心地よい。ソースはすっきりと後味が良いが、このとんかつは塩だけで食べたほうがよさそうだ。

お新香は丁寧に漬けたものを出してくる。豚汁は前回よりも味噌の香りが立っていた。ご飯はてんこ盛りでやや柔らかい。ヒレカツ、串カツも試してみたが、ロースカツが一歩リードしているように思える。ランチは1100円である。他のメニューを含め、この価格でこれほどのとんかつを出す店はそうはないであろう。(河田)

マッキー牧元「肉を噛む喜びも与えてくれるとんかつ」


清潔感漂うカウンターに座ると、ご主人が黙々と仕事をしている姿が見える。そのリズムがいい。肉を冷蔵庫から取り出し、軽く叩き、塩をふり、衣をつける。油の様子をうかがう。肉を油に入れる。揚げ上がりをうかがう。それぞれの工程で無駄がなく、軽やかなリズムが合って、見ていて楽しくなる。特にヒレカツをにパン粉をつけ、両手で形を整えている姿は、すし職人の軽やかさと似ている。

揚げられたとんかつは、茶色の衣がピタリと肉に張り付き、断面を見れば、うっすらと脂で濡れて、輝いている。噛めば、カリリと衣に歯が当たって、肉にめり込んでいく。肉はは柔らかいが、ギシギシと音を立てて歯が入っていくようなきめ細かく、しっかりとした肉質である。そしてほの甘い豚肉の香りが流れる。脂の質も緩すぎずに、さらりと溶けていく。柔らかいだけではなく、肉を噛む喜びも与えてくれるとんかつである。

この肉とやや固めに揚がったパン粉とのバランスがいい。油切れもすこぶるよく、衣と肉の食感を存分に楽しめる。ただしキャノーラ油系だろうか。油の香りにコクがないのが、少し寂しい。

キャベツは乾燥気味だが、十分に甘く、ご飯、豚汁ともに質が高い。古漬け胡瓜と人参、大根の新香は、とんかつの合いの手として万全。

ソースはフルーティーで、後口の切れは良いが、やや甘い。だがその甘酸味を、カツの端の脂が多い部分にかけると、脂の食感とあいまって、おいしさが増す。

また串カツは、タマネギを使い、注文してから肉とタマネギを刺して揚げる。肉はやや小さいが、生の食感と加熱した甘みが共存するタマネギの揚げ具合がよく、おすすめである。(牧元)

山本益博「東京が誇っていい『飲食店』のお手本である」


これほど、豚肉に敬意を払い、誠実に「とんかつ」を作り上げる料理人が他にどれほどいるだろうか。

カウンター席に案内されると、自分が注文した「とんかつ」を目の前で調理してくれる様子を見守ることになる。今回「殿堂入り審議」のため3人一緒に出掛けたので、ロースカツ以外にヒレカツも串カツも頼んでみた。

例えば、串カツ。すでに豚肉と玉ねぎが串に刺さっていて、準備されているのかと思いきや、たまねぎを取り出し、包丁でちょうど良い寸法に切り出し、その後小ぶりに切り揃えられた豚肉を取り出し、用心深く丁寧に豚肉と玉ねぎの中心部に串を差し込んでいく。この様子を見ただけで、美味しい「串カツ」が揚がってくることは間違いないと確信できる。

すべての手順において、この誠実さがベースになっている。揚げる時間はストップウォッチで正確に測り、一つとして狂いがない。

少人数で仕切るため、自分たちの目の届く範囲以内での仕事に限定し、それを着実にこなしてゆく。こういう姿を見ると、並んでじっと待つのは、店の誠意に応える客のほんのわずかの感謝の気持ちに思えてくる。

御飯のみが時間帯によってムラが出来てしまうのは致し方なかろう。東京が誇っていい「飲食店」のお手本である。(山本)

【東京ウォーカー】

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