【WEB連載:はーこのSTAGEプラスVol.18】観劇ルポ華やかに京の年の瀬彩って今年も楽しむ「顔見世興行」

関西ウォーカー

2015年は新たな歌舞伎へのチャレンジが相次いだ。市川海老蔵と中村獅童の「六本木歌舞伎 地球投五郎宇宙荒事」、獅童の「あらしのよるに」、市川染五郎と中村勘九郎・七之助の「歌舞伎NEXT 阿弖流為(あてるい)」。そして東京で大人気だった市川猿之助の「ワンピース」が、来年3月、大阪松竹座で開幕する。その中で、脈々と歌舞伎の伝統を受け継ぐ、京都四條南座の「吉例顔見世興行」。南座の正面に役者の名前が勘亭流で書かれた看板“まねき”が上がると、京都に冬がやってくる。今年は11年ぶりに中村鴈治郎の“まねき”が上がった。四代目中村鴈治郎という上方歌舞伎の大名跡の襲名披露は、2014年12月の船乗り込みから2015年1月、大阪松竹座の「壽初春大歌舞伎」で開幕、東京、福岡など全国で襲名披露を催し、南座で最後を飾る。松竹創業120周年の記念の年、当代の人気役者がそろう東西の合同歌舞伎に襲名披露が重なった、おめでたい公演、ただいま絶賛上演中だ。

【「顔見世」ならではの華やかさ】

昼の部は、舞妓さんや芸妓さんら、きれいどころが劇場1階左右の桟敷席に座る。客席全体がパァッと明るく華やぐ。これは恒例の総見で、祇園・先斗町など地区別に日替りで団体観劇。南座への入場時に舞妓さんたちの姿を撮ろうと、カメラを構えた人たちが入口に集まり、観客や観光客らで玄関前はものすごい混雑! 劇場内では、舞妓さんたちが通路で「お母さん、お久しぶりどす」など、京言葉のごあいさつがあちこちで交わされ、携帯で写真を撮る人たちと、だらりの帯の間をすり抜けてロビーへ歩く。

ロビーには“竹馬”と呼ばれる、ごひいきの役者に宛てたご祝儀がズラリと美しく飾られる。通常の劇場の花輪とは違う歌舞伎ならではの風情があり、顔見世で襲名披露とあって、今回はその数も一段と多く、壮観だ。また、パンフレットには京都府知事や市長からの祝辞に加え、京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥教授が、襲名に向けてお祝いの言葉を寄せているのが印象的。

あと、今回行くなら、イヤホンガイドをぜひ借りよう。各演目の解説に加え、休憩時間には鴈治郎のインタビューも。初代から三代目鴈治郎のこと、襲名とこれからの意気込み、祝い幕についてなど興味深い。また、歌舞伎への愛にあふれ、絶妙のタイミングで解説をしてくれる頼もしい味方のイヤホンガイドも、なんと40周年。フリーペーパー「耳で観る」40周年感謝号は、1975年から始まったイヤホンガイドの歴史や解説員のプロフィールなどが紹介されており、今後のための保存版にしたい。

【襲名演目とプログラム】

昼の部のメインは「河庄(かわしょう)」。妻子がいながら河庄の遊女・小春への恋におぼれる紙屋・治兵衛の役は、代々の鴈治郎が演じてきた成駒家のお家芸と言える。頬かむり姿で花道からの出方がポイントで、治兵衛と小春の思いを描く心理描写と人間ドラマで男の未練を浮き彫りにする。ほかに玩辞楼(がんじろう)十二曲のひとつで、大石内蔵助の苦衷を描く「碁盤太平記」、歌舞伎舞踊「吉野山」、能を素材に千筋の蜘蛛の糸を繰り出す「土蜘」の全4本を、それぞれ休憩をはさんで10時半~16時までの上演。

夜の部は「土屋主悦(つちやちから)」。玩辞楼(がんじろう)十二曲のひとつで、実在の人物を初代鴈治郎にあてて書かれた明治時代の新作歌舞伎だ。時は赤穂浪士討ち入り当日の12月14日、場所は吉良邸の隣にある旗本・土屋の屋敷。赤穂浪士・大高源吾を軸に、俳句の一句を通して登場人物たちの思いを描き、観客の胸熱くする芝居だ。ほかに、川中島合戦を巡る上杉、武田両家の思惑を描いた「輝虎配膳」、出演者一同がズラリと居並ぶ襲名披露の「口上」、そして弁慶・市川海老蔵VS富樫・片岡愛之助の歌舞伎十八番「勧進帳」。16時45分~21時10分の上演で。

【祝い幕のこと】

普通の緞帳(どんちょう)や3色の歌舞伎幕とは違い、襲名披露のお祝いに贈られる幕。デザイン制作は、四代目鴈治郎が親交のある日本画家・森田りえ子画伯に依頼した。成駒家のシンボル雁・芒・月に、森田画伯得意の糸菊を配した構成。薄いブルーに白抜きで月を描いた「河庄」の頬かむりの手ぬぐいからのイメージだという。澄み渡る秋の夜空を月に向かって飛ぶ、4羽の雁。先頭を飛ぶ紅い雁に四代目鴈治郎、後ろの3羽を初代から三代目の鴈治郎を示す。贈られた特大の桐箱が、存在感を持ってロビーに飾られている。

京都四條南座の華やかな顔見世興行には、独特の雰囲気がある。江戸時代の元和(1615~23)年間から、400年を超えてなお歌舞伎を上演し続けている、日本最古の歴史を持つ劇場。その空間で催される吉例顔見世興行は、一生に一度は体験したい。

上演時間は長いが、各芝居は1時間ほど。休憩の間にお弁当を食べたり、おみやげグッズを買ったり…舞妓さんの写真も撮りたいし、トイレも行かないといけないし、忙しい。

先に新作歌舞伎から歌舞伎デビューし、好きな役者を追って古典作品をひとつずつ増やしていこう。着物だって着付けを習ったら、あとは着る回数で慣れていく。せっかくだから古典芸能に親しみたい。舞妓さんのように、楽しみながらお勉強お勉強。THE古典、その極みを目指して、ゆっくりと。

【取材・文=演劇ライター・はーこ】

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