ELワイヤーを使用したオリジナルの光るダンスで知られる、大阪拠点のダンスアーティスト集団レッキン・クルー・オーケストラ。そのダンスに目を付けた演出家・宮本亜門が、ヒップホップ界で活躍するKREVAをはじめ、ストリートダンス界の若い才能とともに、世界を目指す新しいノンバーバル(言葉のない)パフォーマンスを作り上げる。
物語はB級SF。タイトルの「SUPER LOSERZ SAVE THE EARTH」とは、地球を救う負け犬たち。「世間で相手にされないダメだと思われている奴らが、地球を救ってしまうという、ある意味バカバカしさと人間の可能性を盛り込んだもので、最後には誰でも変われるチャンスがあることを知ってもらえる感動作にしたいです」と、キャンペーンで来阪した宮本亜門。今、自らの作品を海外で発表するだけでなく、さまざまな若い才能や力のある集団を、世界に通じるエンタメに仕上げて送り出す仕事も。そのひとつとして、今回の作品がある。東京ではすでに開幕し、客席は大盛り上がり。レッキンの地元・大阪では、きっとそれ以上だろう。この舞台が海外で観られる日も、遠くない。
Q:今回の公演を手掛けるきっかけは?
レッキン・クルー・オーケストラは、ダンスでは伝説的な人たちですし、光るELワイヤーはネットで何万回も見られていて話題になっていたので知っていました。でもテレビの収録で、生で彼らを見た時、このカッコよさは映像どころではない、これはもう絶対ライブで見るべきだと確信して。そこにはライブならではの迫力、ライブでしか味わえない立体構成のおもしろさがあって、この不思議な世界観に吸い込まれるようなおもしろさを、今度は物語を入れて楽しんでもらいたいと考えていたんです。そうしたらその後、レッキンの代表の方から、新たな展開をしたい、エンターテインメントとしてひとつの形にした舞台を作りたい、手伝ってほしいとお話をいただき、実現化に向かって進んできました。
Q:どのような演出に?
これまでは1曲1曲ダンスナンバーを見せる、ショーのような形だったのを、そこに物語とドラマを入れ込み、彼らの魅力を入れ込みながら、ノンバーバル・ダンスエンターテインメント、つまりセリフはないが、感動あり涙あり笑いありという舞台ができないかと。東京でストリートダンスのダンス公演をいくつか見たことあるんですけど、レッキン・クルー・オーケストラのメンバーのちょっとした動きや、パントマイムのようなシーンで、お客さんが大笑いしているんですね。さすが大阪の人たちだと思いましたね。YOKOIさんや出演者の人たちも、笑わせて、オチがないと気がすまない。その徹底したエンターテイナー魂による楽しさと、ELワイヤーのカッコよさの両方を合わせて、物語に持っていったらおもしろそうだぞと。
それから、若い世代で時代を引っ張っている人たちを入れ込もうと、ラッパーでアーティストのKREVAさんを含め、ダンスの表現もずば抜けているw-inds.の千葉涼平さん、Leadの古屋敬多さんの2人。あと、「ウィズ~オズの魔法使い~」という舞台で振付けもしてくれた仲宗根梨乃も入れて、新たな座組みを組もうと。そして、新たなエンターテインメントがこんなふうに生まれ、いくらでも人を楽しませる可能性があるんだということを見せつけようぜ、観客をノックアウトしようっていう感じで始まりました。
今回、クリエイターたちの年齢層は30代以下じゃないかなというぐらい若いです。すごくいろんな才能を持ってる彼らとやっています。今回はいろいろなものを合わせながら、今までにない、新たな感覚のダンスエンターテインメントなんです。
Q:B級SFとは、なぜ?
レッキンのYOKOIさんたちは、アイドル風のイケメンじゃありません。むしろ、おっちゃんです(笑)。それも、カッコイイ今風のおっちゃんというよりは、いい意味でストリートダンスの人らしい、オレたちはどうせマイノリティだからみたいな感覚の自由人のユーモアを持っているんです。例えばベンチひとつで2人だけの動きが、まるで僕にはチャップリンだったり、バスター・キートンのように見えるんです。
それに、今の若い子たちは“昭和”に興味を持っていて、SNSが生活の中心になった分、かえってすごく人間性を求めている時期だと僕は思っていて。クールでただカッコイイだけじゃなく、あえて生臭い人間感みたいなものを出したいと思ったんです。
物語の舞台は、小さな町の電球工場。そこのお父さんがYOKOIさん、息子が千葉さんで、働いている人の中にオタク青年の古屋さんがいて。LEDがノーベル賞とって、玉電球が作れなくなるという設定にしました。驚いたのは、稽古の最終日近くに、政府が白熱灯は2020年をめどに製造中止にするというニュースを発表しましたが、タイムリーで驚きました。現実の世界でも、僕らは大きな時代の変わり目にいる。そんな中でも、不器用だけど一生懸命生きている、なんとも愛らしい人たちを主役にしようと思っていたんで。
そこに宇宙船が来て宇宙戦争が始まり、オタク青年の発明により、彼らはいつの間にか地球防衛団になって…まあ、こうやって物語を真剣に言えば言うほどバカバカしい話なんですが(笑)。でも、ただバカバカしいことやりたいというより、ちょっと肩の力を抜いてお客様と一緒におもしろがって今の時代に何が大切かを感じてもらえればと思います。
僕も映像やいろんな舞台を作っていますが、ただクールでカッコイイでは、さすがに肩が凝って、もっと人間味あふれる舞台にしたいというのが僕の企みです。なので、あえてB級SF。そのバカバカしさ、そのパロディ感も含めて楽しんでほしいと。それがきっとレッキンにも合うと思うし、むしろ今、政治や社会情勢含め未来に希望を見つけにくく、キリキリまじめに考えざるを得ない時代だからこそ、もっと人間という心の温かさに焦点を当て作りたいと思ったんですね。
人が生き生きしている、個性的こそが素晴らしい。だからちょっと昔の日本みたいな設定で作っています。
※その2(http://news.walkerplus.com/article/70459/)へ続く
【取材・文=高橋晴代】