クルマの安全性能を評価するJNCAPの“予防安全評価”で、スバルの全てのアイサイト搭載車が最高ランクを獲得した。そのアイサイトを知り尽くすスバル広報担当である吉田隆幸さんに、アイサイトの誕生、そして、その機能を活かしたおすすめのドライブルートを伺った。
―運転支援システム「アイサイト」が誕生について教えてください。
吉田隆幸(以下、吉田):スバルは安全技術に対して強いこだわりを持つメーカーです。スバル360を作った時から、当時は基準として存在しなかった衝突試験を自主的に行っていました。そして、現在に至るまで、安全について考えることが会社に根付いています。その中で、スバルとしてオールアラウンドセーフティという考えがあります。あらゆる視点から安全を追求するという考え方です。
まず、そもそも事故に遭わないクルマ作りを目指す「0次安全」。ここでは視界性能やドライビングポジションが安全に則しているかを考え開発されています。その次に、アイサイトが担当する分野であるプリクラッシュセーフティ(予防安全)、事故を回避できる性能「アクティブセーフティ」、万が一の際に乗員を守る「パッシブセーフティ」と続きます。
プリクラッシュセーフティを担当するアイサイトのステレオカメラは、もともとエンジンの燃焼を監視するものでした。当時の開発者がこれを安全のために使えないかと考えたのがきっかけです。
―その案は何年ごろに生まれたのですか?
吉田:1989年に応用しようと考えました。実際に実用化されたのが99年。当時では世界で初となるステレオカメラを使用した運転支援技術でした。当時は、まだ“ぶつからないクルマ”まではいかず、ADA(アクティブ・ドライビング・アシスト)という名前で、追従の機能や車間距離や車線逸脱警報を行うシステムでした。
―そのADAがアイサイトの起源だったのですね。
吉田:そうです。それを次世代化して、アイサイトという名前となりました。そして、テレビCMなどで見たことがあると思いますが、2010年に登場したアイサイト(ver.2)で“ぶつからないクルマ?”として発売。ver.3では、その機能を進化させて相対速度50km/h未満で完全停止できるクルマになりました。
―アイサイト開発の秘話や裏話はありますか?
吉田:今でこそ、自動ブレーキや運転支援システムは必要だという風潮になっていますが、開発当初は、そんな空気はありませんでした。アイサイトは1989年に開発してから、花が開くまで20年以上かかりました。どこの会社でもそうだと思いますが、20年以上も売れないものを開発し続けることは厳しいもので、社内では開発をやめたほうがいいという意見もありました。しかし、開発を担当していた少人数の技術者たちが、「安全技術は必要だ」と強く訴え、ステレオカメラを使えば、その技術を確立できると信じていました。社内でも本当に細々と開発する日々を過ごし、お手製の開発テストなどをしていました。でも、その強い意志があったからこそ、スバルを代表する技術が実現できたのです。現在のアイサイトの開発責任者は、その苦労時代を経験した人。そのことは会社としても誇らしいです。
―では、多様な運転支援システムがあるアイサイト搭載車では、どんなところに行ってみたいですか。
吉田:広報部の中で話していたら、秋田県の「飯坂温泉」や青森県「不老ふ死温泉」などの、東北地方の温泉巡りに行った人がいます。総距離にして約700kmです。
―気軽に行こうとは思えない距離ですね。
吉田:そうです。でも、ほとんど東北自動車道で行けるので、アイサイトの追従機能やレーンキープ機能などを活用しながら向かったみたいです。そうしたところ身体的にも楽で、距離を意識しないで行けたと驚いていました。アイサイトが、長距離運転をサポートしてくれるので、安心してドライブを楽しめたようです。私も今まで自分のクルマで行けなかったところに行きたいですね。(続く)
運転支援システム「アイサイト」の誕生を語ってくれた吉田さんの話は、まだまだ続きます。次回は、進化し続けるアイサイトの最終目標について伺います。【東京ウォーカー】