「どうして山に登るのか」男と男の熱いドラマが展開する 映画「エヴェレスト 神々の山嶺」平山秀幸監督に聞く

関西ウォーカー

3月12日(土)から「エヴェレスト 神々の山嶺」が公開される。角川映画40周年記念作品となる本作は、夢枕獏原作の骨太のドラマ。エヴェレストを巡る男と男の姿を、岡田准一と阿部寛が熱演する。公開に先立ち、平山秀幸監督に話を聞いた。

―本作を撮影することになったきっかけはあったのですか

平山 台湾のプロデューサーから「こんな話があるよ」って聞かされたのですが、それまで原作を読んでいなかったんです。表紙を見ると、山とか、寒いとか、肉体労働とか、僕の苦手なものが全部入っている。

でも、原作を読んだら、いやな気分よりも原作の方が強かった。これはやった方がいい、いや、やるはめになったというのが正しいかもしれませんね。最近、小説なども含めて、軟弱な活字が多いなか、この本は正面から「文句あるか!」というド直球を投げられた感じで、とてもゴツイ本だと感じました。

物語の構造としては冒険があって、ラブストーリーがある、古典的なタイプの物語ですが、それが奇妙にはまっていましたね。ただ、「すごいな」と思うことと、「やろうかな」と思うことと、やれるかなと思うことは頭の中では別の回路にあるんですよ。山登りは興味がなくてやったこともなくて、高山病だって具体的にどうなるかわからない。どうしたらいいの?ということが「ヨーイスタート」をかける前に山積みでした。

―にもかかわらず、あえてやってみたいと思ったのはなぜですか?

平山 それはやはり原作の強さです。で、やるとなったらセットで発泡スチロールの雪はやめよう。まずは現地に行こうと、プロデューサーと、シナリオライターと3人で、ネパールのナムチェバザールに行きました。高度は3800メートル。もしここで高山病などでつぶれたらもう、この企画は進められないと思ってました。でも、無事に帰ってこられたので、 今度は次の段階に進まなきゃいけない。

―現地での撮影の様子などをお聞かせください。

現地では高山病が一番怖いので、少しずつ上がったり下りたりしながら高度に順応させていきました。これが結果的によかったと思います。10日ぐらいの高度順応後、撮影に入ったので3週間ほど現地に滞在しました。役者さんも行きましたが、自然に顔が変化してあまり作らなくてもいい顔になっていきました。登山に関してはプロの登山家にサポートしてもらったので、小道具の使い方や登山家の心情、精神構造などは彼らに聞いてもらったりしました。

また、撮影についてこういうがけっぷちで撮りたいというと、登山家の人は、ここは危ないから絶対やめろ、こちらなら大丈夫と指定してくれるんです。それでロープで安全を確保して撮影し、あとからCGでロープを消す作業をしました。

役者さんたちは、ここへ映画を撮りに来ているので、カメラが回りだしたら怖がったりすることはなかったですね。映画作りではありますが、どこか大冒険のような側面もあって、この映画でなければ体験できないことがたくさんありました。

―山岳映画は山の撮影が中心になってしまうことがままありますが、本作はドラマ性も高いものでした。

原作をそのまま上映するとネパールの国情や政治、男と女の話など盛りだくさんで、6時間の話になってしまいます。その中からどれをドラマとしてクローズアップすべきかと考えれば、やはり「男と男」だったので、ほかの部分は全部捨てて行きました。

―その結果、羽生と深町の関係性という大きなテーマが浮かび上がってきたと思います

そうですね。それは僕も納得していることです。あとは「なんで山に登るのか」ですね。羽生は「俺がいるから」と答えましたが、僕にはわかりません 。答えはないと思っています。

―本作の撮影後、ネパールでは大きな地震がありました。

当初、ヒマラヤから撮影するか、日本から撮影するか、2つのプランを考えていました。もし、この時日本から撮影していたら、僕らはネパールで4月25日の大地震に出会っていただろうし、この映画はなくなっていたでしょう。お世話になった現地のスタッフ、シェルパ、ポーターなどにも相当数被害がありました。本作はネパールでも上映したいという話がありますが、まだ受け入れ態勢が整っていないといった問題があります。チャリティ試写会なども予定していますが、支援をお願いしたく思います。

あと、本作は全編、岡田准一、阿部寛本人たちが演じています。その部分もぜひ、楽しんでください。

【取材・文=ライター鳴川和代】

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