【インタビュー前編の続き:前編はhttp://news.walkerplus.com/article/89581/】
「ゆれる」、「ディア・ドクター」、「夢売るふたり」の西川美和監督が書き上げた小説を映画化した「永い言い訳」が、10月14日(金)より公開される。妻を亡くした男と、母を亡くした子供たちによる新しい家族の形が描かれる本作では、本木雅弘が他人の家族との交流を通し、人を愛する素晴らしさを実感していく主人公の人気作家・衣笠幸夫を演じ、妻を亡くし幼い兄妹を育てるトラック運転手の父親・大宮陽一をミュージシャンの竹原ピストルが演じている。身近な人の“死”と向き合い続けるの長い日々を、フィクションでありながら研ぎ澄まされた心理描写でリアルに映し出された本作で、本木と竹原が演じた役どころについて西川美和監督に聞いた。
―主人公・幸夫役の本木雅弘さんとの撮影はいかがでしたか?
西川監督「もともと思い描いていた本木さんは、ほころびも掴みどころもない、欠点の見えないどこか気難しい人かなと思っていました。しかし実際には、どちらかというと今回撮った幸夫くんに近い人なんですよね。いろいろな弱みを持っていて、しかも本木さんはそれを全く隠さない。だから、とても付き合いやすい人なんです。誰彼かまわず、自分の弱点をぶちまけてしまうので、そこが非常にチャーミングで誰からも好かれる。この人の弱さであるとか混乱ぶりであるとか、それを嫌われない人柄がそのまま出せれば、理想的な幸夫像になってくれるなと思いながら撮影しました」
―人気作家である幸夫とは、西川監督も物書きという点でリンクする部分は多かったのでしょうか?
西川監督「そこは私自身の性格や弱さもよく出ていたと思います。物書きの人がそうであるという風には思わないですが、私自身はどこか"自分のやっていることは、世の中に必要なことなんだろうか"という常に怯えのようなものがあります。どこか虚業にすぎないというコンプレックスがあるんです。特に、大きな震災などが起きた時に、なんの貢献もできないじゃないかと。そういう部分で非常に卑屈になっている部分もありますし、裏腹に何か作品を発表すれば取材をしていただいたり、表舞台に立ってなんだかちやほやしていただけて、あたかもそれなりの人物のように取り扱ってもらえることも部分もある。本当の自分は全く自信が無いので、そういう評価をいただける一方で、ある意味で自分が思うままにやっている社会性の低い幼稚な人間であるとも思えます。それでも書くことでしか生きていけないし、書かなければいけないんだと自分に思わせることで、なんとか生きる理由を…、それこそ"言い訳"なんですけど、自分に"生きる言い訳"を立てている。そういう気持ちでこの作品を書いていたので、自分の職業柄から考えるコンプレックスみたいなものは多分に幸夫には重ねていたり、私自信の寄る辺なさみたいなものも背負わせています」
― 一方で、竹原ピストルさん演じる陽一は、幸夫と違ってよく泣いたり怒ったりと感情をまっすぐに出す人間らしさがあり、何も言わずに立っているだけで今にも殴られるんじゃないかとヒリヒリする怖さもありました。
西川監督「私はああいうタイプではないから、ある羨ましさも込めて陽一については書いていますね。幸夫が持っていないリアルな身体性を持っているキャラクターを想定していたので、本木さんと対極的な存在感であり、実際の生き方自体も本木さんとは違う人がいいなと思って竹原さんにお願いしました。本当はとても優しい人なので、いま仰ったような怖さや暴力性みたいなものはないんですけど、やはり元々ボクシングをされていただけあって、どこか体の芯に強い身体性をもった動きだったり張りのようなものが残っているので、そういうところが薄っすらとでも匂うといいなと思っていました。ご本人のキャラクターで陽一と近いところといえば、本当に真っすぐな人で、好きなものは好きになって、良いと思ったら良いと言うことに躊躇がないところです。そこが私とか本木さんのように内面が屈折した観念的な人間とは少し違う部分があって、そこもうまく出してもらいつつ撮影していきました」
―ミュージシャンである竹原さんの音楽も人間臭かったり、とにかく真っすぐに気持ちをぶつけるようにして歌われていますよね。
西川監督「そうですよね。魂の叫びという感じだし、社会に対する違和感を敏感に察知されていたり、本当に嘘がないですよね。みんなが黙って言わないことを、竹原さんが言っているということもある。何も背負わずに身ひとつで勝負をかけて、これしかないんだと思ってやっているところは本当に素敵だし、私もひとりの物づくりをしている人間として、竹原さんのそういうところには共感が持てます。作っている物の畑は違うけれども、どこか物づくりにおいては同士感を持っています」
―ありがとうございます。最後に、これから映画をご覧になられる方へメッセージをお願いします。
西川監督「丁寧に映画を作りたいので、手抜きを一切していない映画になりました。実は映画以外のところでも細々といろいろなチャレンジをしています。日本映画の作り方の定石だったりフォーマットに乗るのではなくて、自分がこの映画にとって最良のやり方をとってみようという自分の中での挑戦ですね。例えば、ポスターにしても、主演格の俳優たちの顔がドンと並ぶレイアウトが今では一般的ですけれど、それよりもこの作品にとって最良の世界観を、ポスタービジュアルとして、宣伝物としての美しさ、映画本編とは別の作品として作れたらすごくかっこいいなと思って作りました。ポスターだけでも貼っておきたい映画ってたくさんありましたよね。私はそういう時代の映画が好きだったので、そういう良い物づくりをもう一度やってみたいなということで、写真家の上田義彦さんに撮り下ろしていただきました。そして、劇場版のパンフレットもとても充実した内容になっています。特別寄稿は、同じ40代の作家・長嶋有さん、本木さんの奥様である内田也哉子さん、さらに劇中劇のアニメ「ちゃぷちゃぷローリー」の完全版脚本が収録されている上に、本木さんが幸夫に扮してインタビューに答える“幸夫に関して本木が知っている2、3の事情”という特別DVDも付いて…、1000円でございます!(笑)。宣伝というより、本当にいいものなので買って帰ってほしいですね」
映画「永い言い訳」は、10月14日よりTOHOシネマズ梅田ほか全国の上映劇場にて公開中。
【関西ウォーカー編集部】
大西健斗