【独占インタビュー】小林可夢偉、WEC富士6時間耐久レースで「優勝目指す」

東京ウォーカー(全国版)

2016年10月14日〜16日にかけて富士スピードウェイで開催される世界耐久選手権(World Endurance Championship=WEC)。日本人ドライバーとしてWECに参戦する小林可夢偉選手にWECへの想いを語ってもらった。

富士スピードウェイで行われるWECへの意気込みを語る小林可夢偉選手(C)夏目圭一郎


――世界耐久選手権(World Endurance Championship=WEC)とは? 一般の方ではまだ知らない方も少なくないと思いますが、小林可夢偉選手から見て、WECとはどういう存在ですか?

「その名前の通り、車の耐久レースで、たとえば6時間耐久であれば、6時間の中でいかに速く走れるか、24時間耐久であれば24時間をいかに速く走れるか、そういうレースになるんですが、当然、車にも負担がかかるし、ドライバーにもすごく負担がある、長丁場のレースです。一般の方からすれば『6時間? 長すぎる』とか『24時間、長すぎでしょう』となるかもしれないですけど(笑)、僕たちも『ずっと観てくれ』と言うつもりはなくて、どういう流れでこうなったのかという意味では、ハイライトを見るだけでも楽しさがあると思いますし、興味があれば6時間観戦しても楽しめるもの。そういうレースだと思います」

――見どころはたくさんあると。

「車を使った“技術的なマラソン”でもあるので、車の技術面の楽しさだったり、ドライバーの体力面だったり、レースなのでアクシデントもあったりと、いろいろな要素があるので、展開が最後まで読めないレースです。24時間の最後の3分で車が故障してしまうこともあるスポーツなので、そういうところもこのレースの楽しさかなと思います」

――F1と違う部分としてはどんなところですか?

「少し極端な話ですけど、正直、F1の場合、スタートしたら、だいたい『この人が勝つんだろうな』とか、スタートする前から『この人が速いんだな』といったことがわかってしまうんですが、この耐久レースは裏切られます(笑)。いい意味で予選の結果からだいぶ裏切られます(笑)。サプライズもあるし、そこが楽しさでもあるかなと。実際、僕らでも『こんなにいけたんだ』ということがあるし、本当にやってみないとわからないレースですね」

――楽しめるポイントがたくさんありそうですね。

「そうですね。F1との違いで言うと、F1だとパドックなんて絶対入れないんですよ。スポンサーの方でも入れるか入れないか、というのが現状だったりするんですけど、WECは簡単に入れます(笑)。パドックパスが1万円ちょっとで買えます(※当日パドックパスが1万2400円)。ドライバーともすれ違えますし、距離感がすごく近い。以前、フェラーリにいたときにファンの方が普通にガレージに入ってきて、僕も『この人誰なのかな?』ということがありました(笑)。WECは、それくらいオープンです。ドライバーサイン会も、F1だと10分くらいなのですが、WECは1時間あります。すごくドライバーに近いレースですし、いろいろな意味でファン重視のレースだと思います。あとは公式アプリがすごく充実しています。順位、タイムとかいろいろわかるんです。気になる人のオンボードも見られるので、本当に楽しいですよ。僕も走っていないときはアプリを見ながら楽しんでいます(笑)」

――公式アプリにだいぶはまっていますね(笑)。では、富士スピードウェイで開催されるWECへの意気込みを教えてください。

「ホームレースということで、過去もいい成績を残せていますし、今年の車のパフォーマンスからすると優勝を争えると思うので、すごくいいレースにできるチャンスだと思っています。ぜひ、このレースを観に来てほしいですね」

――富士を走るということに特別な想いはありますか?

「富士に限らないのですが、日本のファンの前で走れることに特別なものを感じます。世界選手権なので、普段は海外で戦っていますが、どちらかというと冷たい目線で見られているので……」

――アウェー感、ありますか?

「やっぱり、ヨーロッパだと、日本メーカーよりも、ヨーロッパブランド、ポルシェやアウディじゃないですか。そういうところで戦っていると、『やっとホームに帰ってこれたな』と。ホームくらい、ポルシェやアウディに『俺たちアウェーだな』と感じさせてほしいなと思います。野球でもホームとアウェーではかなり違うっていうじゃないですか。モータースポーツでもそれくらいの雰囲気を作ってほしいし、僕らも一年に一度、帰ってこられるレースなので、そういう雰囲気にしてほしいなという、これは僕からのお願いですね」

――WECを初めて日本で観る方へのメッセージはいかがですか?

「一年に一回、この車が走るチャンスで、ドライバーとして何としてでも優勝したいと思いますし、いいチャンスだと考えています。応援してくれる人がいれば、喜びを分かち合えるチャンスなので、このチャンスを逃してほしくないなと。もしこのチャンスを逃すと、上海、バーレーン(ともに11月に開催)まで行かなければいけないので、バーレーンか富士かというと富士のほうが来やすいと思うので(笑)」

【写真を見る】WECとF1の違いを語る小林可夢偉選手(C)夏目圭一郎


――ウォーカーは「おでかけ情報」のメディアとなります。おでかけ先としていろいろな選択肢があるなかで、WECやモータースポーツの魅力はどんなところにあると思いますか?

「当日の朝に家を出てレースを観戦して帰るのは疲れるかもしれないので、前の日に箱根とか周辺で楽しんでもらってからレースを観に来てもらうとかもいいかなと思います。レースを最後まで観なくてもいいですし、さくっと観て、『もうちょっと観たいな』と思ったら観てもらって、『これ勝てるんじゃないかな』と思ったら最後までいてもらって、『勝てなさそうだな』と思ったら帰ってもらってもいい。渋滞もあるかもしれませんから、それくらいの気持ちで、気軽に観に来てほしいと思います。温泉旅行の延長でもいいので、それくらいの気持ちで来てもらえればいいかなと僕は考えています。子どもが見ても楽しめると思いますから、パパだけこそっとくるのではなく(笑)、家族で来ても楽しめると思います」

――可夢偉選手個人としては、普段のおでかけ先で好きなところはどんなところですか?

「実は、けっこう多趣味で、気になったことは何でもやってしまう人間です(笑)。行き先でいうと、職業柄いろいろな国に行くことが多いです。、逆に行きすぎて、海外では特に行きたいところがなくて、金沢とか京都とか、モータースポーツではあまり関われないところに行きたいと思っています。17歳からずっとヨーロッパに住んでいたので、日本の文化にあまり触れられていなくて、帰ってきてからそば打ちをやってみたりしました。あとは有田焼とか、そういうものも作ってみたいし、触れ合いたいなという想いがあります。京都まで器を買いに行ったりとかしていますし、あとは、お米ですね。新米を刈りに行ったりとか、時間があればそういうことをやっています」

――有田焼と言えば、今年2016年は有田焼創業400周年で、僕もこの夏に有田焼づくりを体験しました。

「有田焼、すごいですよね。僕は写真を撮るのも好きで、どんな料理を載せてもきれいに写るお皿ってアートの世界だと思うので、そういうものってやっぱりすごいなと思うし、着物とかもそうですよね。人間の感覚、五感で感じるところがあると思うので、日本は日本なりの、たとえば、そばの“深さ”とかも面白いですよね。美味しいそば屋は、だいたい頑固おじさんがやっていて、なんで頑固おじさんしか美味しいそばって作れないんだろうなとか、そこは日本の奥深さだったり、職人が必要な国なので、そういう人がいることで日本はここまで成長できたんだろうなと思うので、そういう気持ちを忘れないでいたいなと考えてますし、できるだけ、そういうものに触れていたいと思っています」

――レーシングドライバーとしてのこれからのビジョン、抱負を教えてください。

「目の前のレースを勝ちにいくことがすごく大事だと思うし、同時にレースで速く走るだけでなく、車の開発とかにもしっかりと携わって、ひとつでも自分の経験したことが一般の車にも反映できれば、「いいクルマづくり」に貢献できればと思います。日本は自動車産業で大きくなった国でもあるし、これからも、いいクルマをつくり続けて海外に負けないようにしなければいけないと思うし、僕たちの仕事は、広い視野で見ればそこまで影響すると考えているので、そこに貢献できればと思います。あとは、僕らもずっと20代、30代で過ごせるわけではないので、これからの若いレーシングドライバーに経験を、僕らと同じ経験ではなく少しでも近道ができるように、日本人ドライバーの技術の底上げにも協力していければと思います」

「優勝したときは一緒に嬉しさとか、喜びを共有できたら最高です」と小林可夢偉選手(C)夏目圭一郎


――では最後に、来場者へメッセージをお願いします。

「まずは、レースなので、もちろん優勝を目指して戦っています。6時間という長丁場のレースなので、最後まであきらめずにやることが大事ですし、『車に乗っている“運転手”って楽でしょ』というイメージがあるかもしれませんが、レーシングカーってすごくハードなんです。、コンマ1秒、コンマ2秒を削るために一生懸命、汗だくになっている姿とか、メカニックの人がピットストップで正確にスピーディーにタイヤを交換したり、ガソリンを給油してレーサーを送り出すところとか、そういう部分も観てもらえれば、モータースポーツの意外な一面を知ることもできると思います。そして、優勝したときは一緒に嬉しさとか、喜びを共有できたら最高ですね」【ウォーカープラス編集部/浅野祐介】

浅野祐介

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