「スタバ×鳥取」コラボが始動!?地元密着プロジェクトの全貌

東京ウォーカー(全国版)

「限定」という言葉に惹かれる人は少なくない。ことそれがスターバックスの手がけたプロダクトで、しかもそれがごく限られた店舗でしか買えないアイテムだとしたら、スターバックスファンならずとも、思わず手が伸びてしまうはず。

そんな魅力的なプロダクトを生み出す一大プロジェクトが、スターバックス 「JIMOTO made」である。これは日本の各地に残る魅力的な伝統技術を取り入れた商品開発を行い、地元の店舗のみで販売、そしてプロダクトを通じて、その土地の産業や人々のことを知ってもらう機会を作るプロジェクトだ。

「コーヒーアロママグSakyu」のモチーフになった鳥取砂丘と海をバックに。デザイン・カラーリングともに風景とシンクロしている


「JIMOTO made」の担当で、スターバックス コーヒー ジャパンのプロダクトマネージャーを務める濱田和史さんはこう語る。「今年はスターバックス日本1号店がオープンしてちょうど20年目に当たる節目の年。そこで日本において、それぞれの店舗がこれまで以上に愛されていくためにはどうすればいいのかを考えた結果、“地元”と密接に関わる活動をするという結論にたどり着きました」。

スターバックス コーヒー ジャパンのプロダクトマネージャーを務める濱田和史さん。芝原さんと二人三脚で今回のコラボマグを完成させた


「JIMOTO made」第2弾は鳥取の陶芸家とのコラボレーション


【写真を見る】「コーヒーアロママグSakyu」のモチーフになった鳥取砂丘も必見。鳥取には誇るべきスポットがたくさんある


第1弾となった東京名物「江戸切子」のオリジナルグラスに続き、10月20日(木)に発売されるのが、鳥取発の「コーヒーアロママグSakyu」。もともと民藝運動が盛んだった鳥取は、因州中井窯をはじめ、山根窯や延興寺窯など、名窯を擁する陶芸の盛んな土地である。個人の窯も多く、今回取材した鳥取市の「玄瑞窯」もそのひとつ。

レトロな雰囲気が漂う玄瑞窯。入口に看板が掲げられている


玄瑞窯の看板。芝原さんは鳥取県内の陶芸家のもとで6年間の修行ののち独立。窯の名は幕末の志士・久坂玄瑞に由来する


取材に訪れたウォーカープラス編集部スタッフを窯主の芝原信也さんは心を込めてもてなしてくれた。陶芸家としては若手といえる30代ながら、すでに作品は地元の百貨店や器のセレクトショップで取り扱われ、好評を博している気鋭の作家だ。

工房でマグカップの魅力を話してくれた芝原さん。現在は日本だけでなく、海外からのオーダーも増えているそうだ


工房の2階に設けられたギャラリー。大きな壺から小さなぐい呑みまでさまざまな作品が棚に並ぶ


手作りの工房の棚には、芝原さんが手がけた作品が並ぶ。てらいのないシンプルなデザインが特徴で、色味もナチュラル。温もりを感じさせる風合いが印象的だ。「日々の暮らしの中で、私の器を使った方々がほっこりとした幸せな気持ちになれたらいい」。芝原さんのモノ作りの信条である。

「コーヒーアロママグSakyu」に込めた思いを語る芝原さん。何種類ものプロトタイプを作ったうえで、この形に辿りついた


早速、「コーヒーアロママグSakyu」を見せてもらうことに。工房の奥に整然と並べられたマグカップを見た途端、取材スタッフは思わず息をのんだ。

マグカップというキャンバスに鳥取の雄大な自然を描き出す


焼成前のマグカップとの比較。窯で焼成した際に焼きしまり、寸法が縮むため、この誤差も計算する必要がある


構想から完成まで一年半という期間を経て完成したデザインは、鳥取の自然をモチーフにしている。「カップや取っ手の柔らかい曲線は鳥取の穏やかな景色を表現しています。口径を絞ったワイングラスのような独特の形は、コーヒーのアロマを包み込むためのもので、香りを存分に楽しむことができます」。

釉薬の配合ももちろん芝原さん独自のもの。「夏海」は釉薬の段階では淡いグレー。窯で焼くと鮮やかなブルーに変化する


そんな美しいフォルムもさることながら、取材スタッフが目を奪われたのは透明感のあるブルー。「夏海(なつうみ)と呼んでいるブルーです。幼い頃から、鳥取にある岩美という土地の海が大好きで、その海の色をイメージして、この色を作りました。夏の終わりごろになると海がこういう色になります。ベージュは鳥取のシンボルである鳥取砂丘の色です」。

「夏海」は伝統的な藍色のなまこ釉をベースにさまざまな釉薬をブレンドして作ったオリジナルカラー。晩夏の海を思わせる、緑がかった穏やかなブルーを見ていると、気分がゆったりと落ち着く。素焼きの風合いを残した底は、上品なベージュといい、さらさらとした肌ざわりといい、鳥取砂丘の砂がしっかりと表現されている。

窯に入る直前の「コーヒーアロママグSakyu」。焼成されるとマットなグレー色の釉薬が鮮やかブルーに変化する


最大の見どころは、手作業でたっぷりかけられた釉薬が溜まりをつくっている部分。緩やかなカーブを描くブルーの釉薬と乾いたベージュが描き出す模様は、砂浜に打ち寄せるメローな波を彷彿させる。もちろん、波の形は異なるため、一点一点が世界でひとつだけのマグカップとなる。

地元の人々に恩返しを――。熱い思いがモノ作りのエネルギーに


作品を並べてある棚も芝原さんのお手製。工房にはほかにも手作りの家具が。ハンドメイドへの強いこだわりが感じられる


型抜きではなく、一点一点ろくろで作るのが最大のポイント。しっかりと土をこねて、カップの形へと成型していく


製作風景にも驚きが満ちていた。工房で働いているのは芝原さんただひとり。芝原さんは慣れた手つきでろくろを回しマグカップを造形していく。「本当は量産には型を使って成型したほうが早いのですが、仕上がったときの味わいや丈夫さを考えれば、やはりろくろ引きに限ります」。

ろくろを使って形を整える。手の感覚だけでほとんど同じ形・重さのマグカップを作っていく


芝原さんが焼成に使うのは電気窯。温度のコントロールがしやすいため、イメージ通りに焼きあがるという


何度も窯に足を運び、このマグカップの開発から完成までを見届けた前出の濱田さんも驚きとともに語る。「定規や重量計をほとんど使っていないにもかかわらず、サイズや重さが同じに仕上がる。さらに焼き物は窯で焼成した際に、焼きしまるため寸法が縮みます。造形する際、その分も計算する必要があるわけで…。芝原さんは感覚と経験だけを頼りに、スターバックスの品質基準をクリアする手作りのマグカップを作っています」。

スターバックスからオファーを受けた際、「なぜ私に?」との驚きを隠せなかったそう。この企画に込められた思いに賛同して仕事を引き受けた


試作段階で、マグカップの厚さをチェック。細かな作業の積み重ねで「コーヒーアロママグSakyu」が出来上がった


たしかに棚に並ぶ完成品を確認すると、それぞれ口径や高さ、取っ手のバランスまでほとんど狂いがない。設計図と誤差があったり、わずかでもキズがあったりすると、商品にはならない。「作るのはたいへんですが、やりがいはあります。このプロジェクトに関わる以前から、いつか鳥取に恩返しをしたいという気持ちが強くありました。小学校3年生のときに大阪から転校してきた僕を優しく受け入れてくれ、現在も陶芸家として温かく見守ってくれる故郷に少しでも恩返しがしたいのです。このマグカップには、地元の人々や自然への愛情を込めました。買っていただいた方に、少しでも鳥取の魅力を感じてもらえれば、これほど嬉しいことはありません」。

マグカップの底のロゴは、昔ながらの銅板紙を使って刻印する。手間はかかるが、素朴で温かみのある雰囲気を出すのはこの手法に限るという


芝原さんの思いは、「JIMOTO made」にかけるスターバックスの思いと見事にシンクロしている。そのことを象徴するように、マグカップの底には「STARBACKS」と「GENZUIGAMA」、「TOTTORI」の刻印が並んでいる。スターバックスの数あるアイテムのなかでも、コラボレーションを表に出したデザインは極めて珍しい。

マグカップの景色に触発され、鳥取の名所巡りへ


鳥取を代表する観光名所の鳥取砂丘。目に映るのは透き通るように青い空と風紋が美しい砂だけ。神秘的な光景だ


「コーヒーアロママグSakyu」を見たせいなのか、このマグカップを生んだ土地のことをもっと知りたい気持ちが強くなってきた。そこで窯を後にした取材スタッフは、鳥取市内の名所を巡ることに。まずは、山陰海岸ジオパークの鳥取砂丘エリアに位置する南北2.4km、東西16kmに及ぶ日本最大級の砂丘「鳥取砂丘」へ。海から吹く風と砂丘の砂が作り出す風紋は、まさに自然が作り出すアートである。ちょっとしたビルほどの高さの砂の丘を歩いて超えると、砂浜と日本海が広がっていた。眼前に広がるこの雄大な景色こそが「コーヒーアロママグSakyu」のインスピレーションの源。

滝マニアの間では有名な「雨滝」。岩を打つ落水による水しぶきがカメラのレンズを濡らす。深呼吸すると心身が洗われるよう


パワースポットとしても知られている「鳥取東照宮」。非日常というべき静謐な空間が都会で疲れた心を癒してくれる


それ以外にも「日本の滝100選」にも選定されている「雨滝」(国府町)や、慶安3年(1650年)に鳥取藩初代藩主によって建てられた「鳥取東照宮」(上町)など、鳥取市には歴史を感じさせる魅力的なスポットが溢れている。

限定マグカップが買えるのは世界中で鳥取市内の店舗だけ


2015年にオープンしたスターバックスコーヒー シャミネ鳥取店。シアトルの邸宅を思わせる店舗には、グリーンもいっぱい。まさに癒しの空間だ


まだまだ訪れたい名所はあったが、飛行機の時間が迫ってきた。旅のシメは、JR鳥取駅の南側にあるスターバックスコーヒー シャミネ鳥取店でのコーヒータイム。2015年5月にオープンした同店は、店内に50席、テラスに20席が設けられた店舗。瀟洒な雰囲気が漂うウッディな店舗には、地域とのつながりを大切にするため、建材の一部に鳥取県の木材が使用されているという。

開放感のある店内は、一部に鳥取県産の木材を使用した温かみのある空間。アイランド型のクッションでくつろぎながらコーヒーを楽しめる


シャミネ鳥取店のディスプレイ。「コーヒーアロママグSakyu」はこの棚に並ぶ


この店を訪れた理由はほかでもない。今回取材した「コーヒーアロママグSakyu」がまず販売されるのはこの店だから。世界中いたるところにスターバックスはあるが、このマグカップが買えるのは鳥取市内の店舗だけだ。※10月20日(木)にシャミネ鳥取店で発売

「鳥取はスターバックスの進出が47都道府県の中でもっとも遅かった県ですが、シャミネ鳥取店は、平日休日を問わず、開店から閉店までお客様でにぎわっています。数あるスターバックスのなかでも、地元の人たちからの愛情がひしひしと感じられる特別なお店です」と濱田さんは熱っぽく語る。そう、「コーヒーアロママグSakyu」は、スターバックスと地元の絆を象徴するアイテムなのだ。

店頭に立つスタッフもほとんどが地元出身。鳥取のコーヒー文化の発展を担う重要な仕事。スタッフの士気も高い


「JIMOTO made」は、スターバックスが地元に対しての愛着や誇りを持つことの素晴らしを伝えるプロジェクト。グローバル企業がそれぞれの店舗の“地元”にかける思いを体感しに、次の休みは、マグカップを買いに行きがてら鳥取を旅してはいかがだろう?【ウォーカープラス編集部/取材・文=押条良太、写真=杉山節夫】

押条良太

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