【シン・ゴジラ連載Vol.8】「我らがゴジラは永遠に不滅の大スター」

東京ウォーカー

現時点で2016年の日本映画における実写興行収入首位となった「シン・ゴジラ」。本作のヒットを支えるのが、観客層の幅広さだ。若者はもちろん、年配の方までが劇場に訪れる、その秘密は往年の大作日本映画にあった!?

「ゴジラ初体験世代」と「ゴジラを懐かしむ世代」


映画「シン・ゴジラ」よりTM&(C)TOHO CO., LTD.


困った。実に困った。困ったけどうれしい、楽しい…そんな想いが「シン・ゴジラ」を観た率直な感想だ。だってゴジラだぜ。カンガルーキックしようが、吹き出しで喋ろうが、全身磁石になろうが、アメリカ産だろうが、それでもゴジラを好きで今まで生きてきたゴジラ博愛主義者にとっては満を持しての最新作だ。どんな姿であれ、どんな世界観であれ、ゴジラはゴジラだ。これは実に喜ばしい。「シン・ゴジラ」も大満足の出来栄え、百点満点で一億点付けたいぐらいだった。

しかし困った。まさかここまで盛り上がるとは思ってもいなかった。個人的には2年前のギャレス・エドワーズ版「GODZILLA」に並ぶか、ちょっと追い越すかぐらいの話題性、興行成績で終わるかと思っていた。それが今までゴジラを観たこともない層までも取り込み、いまだに上映中、さらにはまさかの発声上映、女性限定上映という謎イベントまで起きる異常事態。これは旧来のゴジラファンには考えられなかったうれしい不意打ちではないだろうか。あまりにも想定外の出来事に整理するのが大変なのです。「果たして俺が観たのはシン・ゴジラだったのか?」と思い、確認作業のように何度も映画館に足を運んだ。これも庵野秀明総監督、樋口真嗣監督のなせる技、しかるに、この物語はぜい肉をそぎ落としたシンプルな作りが…というのは、あちらこちらでさんざん言われていることなのでここでは(以下、中略)とさせていただく。

思うに、今回の超がつくほどの大ヒットは、先に書いたゴジラを観ていなかった層や従来のファン層以外に、高齢者の動員も大きかったのではないか、と思うのです。連日の猛暑の中、涼を求めてやってきた映画館。どれもカタカナタイトルばかりでわからないなー、そうだ、ゴジラやってるぞ、ゴジラ。懐かしいなー、どれ見てみようか…てな具合で「かつてゴジラをなんとなく観ていた層」が大挙して映画館に足を運んだのではないかと思うのだ。彼らの知ってるスターたちはすでに雲の上の人、でもゴジラは不滅、永遠のスター。だから、そんな客層がいるから、ゴジラのライバル映画はアニメではなくリメイク版の「ターザン」だと思っていた。ちょっと年齢層が上か。

でも、今回の「シン・ゴジラ」は突然変異的な大ヒットなのではなく、これまでの62年にわたる長い道のりがあったからこそ、というのは忘れないでほしいもの。「これまでがあって、今がある」。しかし、今回の作品にしても、これから続編が製作されるアメリカ版やらアニメ版やら、還暦を過ぎてからの方が、ゴジラは自由にのびのびやってる感じがする。

観る人の感性や世代によって違う映画となる「シン・ゴジラ」


【写真を見る】映画「シン・ゴジラ」よりTM&(C)TOHO CO., LTD.


そんなこんなで大ヒット、もはやすでに大勢の方々が「俺の観たシン・ゴジラ」について語っておられる状況の中、自分ごときが何を書けばいいのか?これもまた困った。いや待てよ、待て待て。この「シン・ゴジラ」という作品、見る人によって目の付け所が違う映画なのだ。ある人はゴジラを、いや今やマスコットキャラ化しつつある第2、第3形態を楽しみに観ていたかもしれない。ある人は巨災対と呼ばれる対ゴジラチームの個性的なメンバーを楽しんでいたのかもしれない、またあるいは無人新幹線爆弾を…かように、今回のゴジラ映画は観る人によって、くるくる景色が変わる万華鏡のような、あるいは人によって解釈が違うロールシャッハテストのような印象を受ける映画だろう。シンプルであるが故につけ入る隙の多い映画、または劇中のそこら中に仕掛けられたフックの引っかかりどころが、見る人の感性によって違う映画と言ってもいいかもしれない。

そんな中で「「シン・ゴジラ」とはこうだ!」と決めつけてしまうのは非常に困難。とはいっても基本は大怪獣映画なのだ。個人的にはそうだと思いたい。今までにありそうでなかったゴジラ映画。オールスターキャストの物々しくどストレートに進む物語は「ぶれないゴジラ」「迷いのないゴジラ」というふうに感じた。でもすべてが新しいのではない、それは何だろう?堂々たる大作映画の風格、でもそれは洋画ではなく、幼少期に「なんだかすごいのがやってくる」と思わせてくれた、かつての日本映画の大作のような匂いがする。気のせいかもしれないけど。

例えば「八甲田山」や「日本沈没」のような森谷司郎作品、または「皇帝のいない八月」や「新幹線大爆破」、「ノストラダムスの大予言」のような、角川映画が登場する前後の、邦画各社が2本立て興行から1本立てに代わりつつあった、大宣伝を打って、オールスターキャストをそろえた70年代邦画大作のような雰囲気。長時間のスペクタクル群像劇とでも言えばよいのか、そういえば今回の「シン・ゴジラ」には岡本喜八監督「日本のいちばん長い日」「激動の昭和史沖縄決戦」のエッセンスも入っていると聞くし、登場人物の名前が「白い巨塔」から引用されているとも聞いた。いずれにしても、かつての邦画大作の雰囲気を確信犯的に盛り込んでいるのは間違いだろう。

そういえば、「メカゴジラの逆襲」から9年ぶりに復活し、原点に戻った84年版「ゴジラ」にもその雰囲気はあった。ド派手な特撮シーンには満足したものの、硬質なドラマ運びは子供心には物足りなかった。しかし、今見返すとゴジラ出現に対するマスコミの対応、会議に会議を重ねる閣僚、さらにはアメリカ、ソ連の干渉。これは確実に今回の「シン・ゴジラ」にも活用されているのではないか?ということはすでに誰かが指摘しているかもしれない。そういえば84年のゴジラあたりから、邦画のそういった大作は徐々にその本数が少なくなっていき、小規模な作品が増えていったような気がする。

かつて斜陽期ともいわれた日本映画界が、生き残りをかけて打ち上げた大輪の花火、70年代の邦画大作にはそんな印象がある。「シン・ゴジラ」は怪獣王の復活と同時に、そんなかつての邦画大作をも蘇らせたのではないだろうか。「シン・ゴジラ」を支えた高齢者の観客たちは、そういった雰囲気をどこかで感じ取っていたのかもしれない。今では少なくなったオールスター大作の日本映画、主役はもちろん、永遠の大スター、いつか見たゴジラだ。今回の大ヒットには、まさに映画の内容と同じように様々な年齢層の人たちが一致団結してゴジラを応援してくれたからだ、と思いたい。そして次世代にそれが受け継がれていってほしいと切に願うばかりである。ゴジラは不滅だ。おじいちゃん、おばあちゃんと一緒にゴジラを見た孫の世代がどんな反応を示したのか、楽しみでもある。

【文/馬場卓也(ばばたくや)●作家、介護職。ラノベ「真田十勇姫!」「バカと戦車で守(や)ってみる!」、ゲームシナリオ、ゲームノベライズ、雑誌記事等。「シン・ゴジラWalker」執筆や、関西怪獣イベントでもお手伝いを少々】

編集部

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