WEB連載「はーこのSTAGEプラス」Vol.34は、舞台「あの大鴉、さえも」を紹介!
男が3人で汗だくになって、ガラスを運んでいる。でも、運ぶ先の家が見つからない…。ガラスは舞台上に存在しない。見えないガラスを、ただ運ぶ。それだけの芝居なんだけど、これがおもしろい。
6年ぶりの舞台となる小林聡美、強烈な個性の片桐はいり、身体表現に秀でたパフォーマー・藤田桃子の3人が、男役で出演。80年代に書かれた竹内銃一郎のシュールな代表作を、「カンパニーデラシネラ」主宰の小野寺修二が得意の独創的な身体表現でアプローチ、演じる側も観る側も、とても自由な楽しさに満ちたナンセンス・コメディの世界を作り上げた。
9月末の東京公演からスタート、水戸、三重と巡演中の小林と片桐が来阪、大阪公演を楽しみにしている2人が、その不思議なおもしろさを伝えてくれた。
【出演の理由】
「おじさんを女の人がやるのはおもしろいなと。それと、聡美さんの男役、見たい見たい!って(笑)」(片桐)。「おじさん役で、3人しか出てなくて、はいりさんが出られて、小野寺さんの演出。6年ぶりの舞台という不安以上に、おもしろい要素がたくさんあり過ぎるので、挑戦しようと」(小林)。
映画「かもめ食堂」の共演が印象に残るふたりが、起承転結のない独創的な舞台で初共演だ。「人情喜劇じゃないって、書いといてください(笑)」と片桐。
【小野寺修二の世界】
その舞台はダンスでもなく、パントマイムでもない。言葉を上回るほどの身体表現は、エチュードを積み重ねて作っていくような稽古だそう。その「自由な気風がおもしろい」という片桐は、小野寺の「カンパニーデラシネラ」にも客演し、見事に鍛えた体で舞台に立つ。「私は体育が2だったんですけど、動くのがすごく好きで。動く楽しさ、自由さを、是非お伝えしたい。演劇でもダンスでもない、第3の道が見えてきました」。そして、体育は5だった小林は「小野寺さんは、どうやったらその人が魅力的に表現できるかに焦点を当てて振りや動きを考えてくれるので、安心してやれました」。
【お客さんの反応】
会場は、息を止めてシーンとしている。ずっと笑っている。同じ場所でも、毎回違う反応だそう。「そんなに固唾を飲んで見守られても何も起きません!と言いたい時もあれば、何がどうスイッチが入るのか、そこまで笑う?というぐらいの時もあって」と2人。
「気取って観ようと思えば観れるし、笑おうと思えばとことん笑える。自由度が高い分、演る方も観る方も、どっちにころがるかわからない」(片桐)。「言葉の意味に囚われず、目の前に広がる照明や音楽、動きや影とか、そういう出来事を感覚的に楽しんでもらえれば」(小林)。
ガラスは何を象徴しているのか、とか、そんなことは、考えても考えなくてもいい。おもしろさはまさに自由、受け取り手にゆだねられる。どうせなら、笑って観た方が楽しいに決まってる。「そのまま一緒に遊んでもらえれば」(2人)。
【大阪公演への期待】
「東京で観た人が、大阪で観たいなって言ってました。大阪の人って、そこにないものでも突いて食べてくださるっていう印象が強いので、楽しんでくださると思うんですけど、どうでしょうか。演る私たちの方が、大阪のお客さんの反応を楽しみにしているんです(笑)」(片桐)。
ABCホールという小空間で繰り広げられる3人の舞台。「ダンスでも演劇でもない、第三の道が見えてきた」と片桐が言う、新たなおもしろさを体感しに行こう!
【取材・文=演劇ライター・はーこ】
演劇ライター・はーこ