9月に開幕したBリーグ。紆余曲折を経て誕生した日本バスケットボール界の統一プロリーグについて、Bリーグ誕生の立役者と言える川淵三郎さん、同リーグの特命広報部長を務める前園真聖さんに話を聞いた。
――9月22日にBリーグが開幕しました。お二人とも会場で開幕戦を見届けましたが、開幕戦の印象と、開幕を受けてどのようなことを感じたかそれぞれ教えてください。
川淵「Bリーグ開幕まで、どう盛り上げていくか、というのは、Jリーグ開幕時もそうだったように、『メディアへの露出度がいかに大きいか』というのが勝負を決める。そういう意味では、時間的な制約があったのと、キーになるスター選手がJリーグのようにはいなかったことが、メディアとしては取り扱いにくいところだったかなと思います。今日(このインタビューに)は前園が来てくれているけど、フジテレビが熊本ヴォルターズを中心にPRしてくれて、その影響はとても大きかったと思うよ。熊本ヴォルターズの開幕戦は満員だったし、僕も選手の名前を覚えたからね(笑)」
――そうなんですね。
川淵「テレビに呼ばれた時に、選手名やチーム名の意味を話せるように覚えたからね(笑)。開幕戦がどの程度の盛り上がりになるかを気にしていたんだけど、Jリーグの時ほどまではいかないだろうけども、多くの人から期待してもらっているなと」
――開幕戦の印象はいかがでしたか?
川淵「開幕戦では、全面LEDコートを使った演出だね。僕もびっくりして、NBAアジアの人も来ていたんだけど、あれを見てびっくりしていたよ。『日本の体育館にはみんなこれがあるのか?』って(笑)。NBAアジアの責任者ですら驚いていたんだから、あれはあれで値打ちのあることでね。関係者が本当にいい仕事をやってくれたと思います。心配していたチケットは前売り完売ではあったんだけど、一番大切なのは、あくまで試合の中身。どれだけ盛り上がっても、試合自体が良くなければ後に続かないし、3点シュートや、少なくとも80点以上は入って欲しいと思っていました。そしたらまあ、いろいろ失敗はあったかもしれないけど、3点シュートも入ったし、80点以上入って(※アルバルク東京が琉球ゴールデンキングスに80-75で勝利)、いっとき琉球ゴールデンキングスは点差を付けられたんだけど、そこから追いついて、右からの3点シュートがもし入って同点になっていたら、『ひょっとして逆転があるかな?』というところまでいって、とても盛り上がる試合内容だった。僕としては、今、考えられる開幕戦としては最高の出来だったなと思いますね」
――試合後の会見では、前園さんから「今日の開幕戦を採点してください」という質問も飛びましたね。
前園「質問してくれと言われたので(笑)」
――前園さんは開幕戦を会場で見ていかがでしたか?
前園「川淵さんがおっしゃったように、始まる前は『どういう雰囲気になるのかな?』という気持ちでした。ただ、会場も満員になって、LEDコートの演出もありましたし、サッカーとの単純な比較はできないですけど、クォーターごとやハーフタイムの演出はサッカーにはないことなので、すごく盛り上がっていましたし、何より、試合内容が良かった。バスケの場合、点差が開いてしまうと最後のほうは観客の気持ちが試合から離れていってしまいがちなんですが、一時、10点以上の差がついて、第4クォーターで3点差ほどになって、あのタイミングから試合もピリッと締まりましたね。後ろの席に浦和レッズの槙野(智章選手)と宇賀神(友弥選手)がいたんですけど、彼らと一緒に盛り上がりながら、なんというか、周りの人すべてが試合に“入っちゃって”いましたし。サッカーももちろんそうですけど、数あるスポーツの中でも、バスケは実際に会場で見て楽しむものなんだなと感じましたね」
――バスケはエンターテインメント要素を取り入れやすい部分がありますよね。
川淵「そう、タイムアウトの時にすぐチアガールが出るでしょう。あとは何といっても音楽がリズミカルで、サッカーではああいうのはないからね。毎回、すべての試合であるわけではないけど、MCも会場を盛り上げて、若い人には受けがいいかもしれない。騒がしく感じる年代の方もいるかもしれないけど、僕はこれで盛り上がるならいいと思う」
――よく聞かれる質問かと思いますが、Jリーグ開幕の時と比べていかがですか?
川淵「それは、比較にならないな。同じような質問もよく受けるけど、比較するほうがナンセンス。Jリーグの時と比べて、というのはなくて、『Bリーグはどうやったらうまくスタートできるか』、それだけを考えていましたね」
――Bリーグができた意義について、お二人はどうお考えですか? 日本のバスケットボール界、スポーツ界にとってどんな意味を持ちますか?
川淵「今までは、はっきり言って、露出がなかった。たとえば、僕のとっている新聞はNBL、bjリーグの試合結果すら出なかったんだよね。それは他の新聞社も似たようなもので、出たとしても、試合結果しか出ない。中身とか、試合に関する記事はゼロ。スポーツ紙も全く同じような状態で、一般的にスポーツを扱う欄で、バスケットボールのことを書いてもらうことは皆無だったかな。そういう意味で、選手としては恵まれていないんだよね。それは仕方がない面もあって、リーグが二つに分裂した結果、メディアもどっちにどう対応していいかわからない。しかも、bjリーグはどんどんチームが増えていくわけだし。さらに、日本代表はオリンピックに40年間出場できていない。日本バスケットボールそのものの位置付けは、世界的に見ても低くて、これでは誰も関心を持たない。『日本には63万人以上もの競技登録者がいるんですよ』と言ったことで、『本当かな?』という印象をみなさんは持ったんじゃないかな。自分が一番感じたのは、バスケ専任記者がいないということ。専任がいないということは、その新聞社の中で記事にならないということだからね。そこを増やすことが大事だなと考えました。今日の新聞記事で、川村卓也選手(横浜ビー・コルセアーズ所属)は、1試合平均得点が4年間連続で一番高かったとあり、僕はそういうことも知らなかった。元日本代表選手で、“オフェンスマシーン”というニックネームがついていたということを記事を見て初めて知って、こんな選手がいるんだな、と。それから、レバンガ北海道に折茂武彦という選手がいて、彼は今、46歳でチームのオーナーもやっている。選手生活24年目、キャリア通算の総得点は8000点を超えているんだ。サッカーでは、カズ(三浦知良選手)が49歳。スキージャンプの葛西紀明選手は44歳で、そしてイチローも43歳。折茂選手は彼らと並び称されてもいい存在なのに、バスケ人気がなかったがゆえに世間に知られていない。カズに負けずにやってもらえば、『1万点まであと残り何点』なんて記事になるじゃない。こういう可能性を、Bリーグの選手はたくさん持っているので、それをいかに我々がメディアの人に発信していくか、それが大切なんだよね。今日みたいにインタビューを受けることになって、『何を話そうか』と思ったけど、『こんなにいっぱいあるじゃないか』って。材料は、たくさんある。それがなにゆえ表に出なかったかと言えば、人気がなかったから。メディアが、そんなのものを扱っても仕方がないと考えてしまうような状態だったからね」
――結果だけしか取り扱われないと。
川淵「そうです。63万人以上の競技登録者がいるということは、バスケットボールをやってきた人がたくさんいて、興味を持つ人がたくさんいるってこと。可能性があるってことなんだよね。だから、僕はBリーグが間違いなく発展していくと思ってる。と、……ちょっとしゃべりすぎだね(笑)。熱が入っちゃったね。あとは前園さんに(笑)」
――ではその流れを受けて、前園さんはいかがですか(笑)。
前園「川淵さんがだいぶ話してくださったんですが(笑)、昔、Jリーグが始まったころも、そういった専任記者や専門メディア、サッカー専門なんて今ほど多くなかったと思うんです」
川淵「そう、全然いなかったんだから(苦笑)」
前園「それが盛り上がってきて、オリンピックやワールドカップに出場したりするなかで、当然選手も意識が変わってきて、人気が出てきて、メディアや記者の方でも『サッカー専門』が職業として成り立っていったと思うので、バスケもそうなってほしいと思います。先ほど川淵さんもおっしゃったように、世界的な知名度の外国人選手はまだいませんが、日本人だと田臥(勇太)選手がいて、彼がいままで日本のバスケをずっと引っ張ってきて、新しいスターもこれからどんどん出てきて、逆に海外の選手たちが日本のBリーグの盛り上がりを見て、『来たい』と思ってくれれば、さらに盛り上がっていくと思いますね」
――海外からそういう目線で見られるリーグになる、それも一つの成長の証ですね。
川淵「はじめは『コービー(・ブライアント)を呼んでくれ』ってとある企業系のチームに頼んだんだよね。でも『現役を引退するから』って。乗り気で進めてくれていたんだけどね。コービーが来ていたら、またインパクトが大きく違ったと思うし、こういうふうに大企業がバックアップしてくれているというのも大きいですね。」
――Bリーグの見どころを、お二人はそれぞれどう考えていますか?
川淵「前園は最初に見てどうだった? バスケは僕よりやっていたというか、知っていたんじゃないかな?」
前園「いやいや(笑)。でも、サッカーと同じく、ゴールが2つで、24秒ルールの中で攻守の切り替えがすごく早いのと、サッカーよりも点が決まるまでの時間が短いので、集中して見ていられると思うんです。ドリブルで入っていって、中からダメだったら外からスリーポイントで攻めたり、というのは誰が見ても結構わかりやすい。細かいルールはありますが、初心者の人が見ても見やすいんじゃないかと思いますね。加えて、先ほど話に出たように、演出もありますし。チームごとに、DJの盛り上げ方や演出の仕方が違っていて、それぞれのチームが盛り上がる方法を考えてやっているので、そこも面白いですよね」
――観客も一体になって応援しやすい空気というのはありますね。
川淵「それは、あるよね。応援しているチームが守る時は観客も“ディフェンス、ディフェンス”って言うでしょ。サッカーと違って攻守がとてもはっきりしている。そういった意味での一体感があるよね。今回、ふたつのリーグが統合したことによって、刺激を受けて大きく変わっていくと思う。極端に言えば、開幕戦の時の琉球ゴールデンキングスとアルバルク東京のチアガールを見ていると、派手さが全然違うじゃない。『もうちょっと派手にやってくれよ!』って思っちゃう(笑)。東京も『もう少しやり方を変えなきゃいけないな』と思ってくれたんじゃないかな。プレーだったり、演出だったりいろいろと良い方向に変化が起こってくれると考えてる」
――確かに、相手チームを見てそれぞれ変わっていくところもありそうですね。
川淵「Jリーグができた時、サッカーを初めて見た人にとって何が問題になるかというと、オフサイドがわからないことだった。でも、オフサイドなんて選手もわからない時があるんだよね(笑)。審判が笛を吹いたからオフサイド、みたいに。バスケットボールの場合、たとえば3点シュート、場所によって点数が多く入る、というのは変わっているところだし、ファウルにしても、『なぜ今ホイッスルが鳴ったのか』というところが少しわかりづらいかもしれない。でも、それは見る側にとって大きな障害にはならないと思う。スリーポイントラインの外から入れたら3点とか、シュートを打つ際にファウルを受けて得点したらもう一度、フリースローのチャンスがもらえるとか、その辺はすぐ覚えられると思うんですよ。それくらいのルールを把握していたら、ダブルドリブルやトラベリングというところまで知らなくても、見ていればそのうち覚えてくる。細かく気にせず見られるスポーツだと思うね。」
前園「あとは必ずシュートで終わりますしね。それも、わかりやすい」
川淵「そう、それが一番わかりやすい。24秒以内にとにかくシュートを打たなきゃいけないというルールが、バスケを一番面白くしているね。『5』、『4』、『3』とカウントダウンして『早くシュートを打て!』とファンが声を出すから、そこが面白い」
――あれをサッカーにも持ち込んだら選手は嫌ですよね(笑)。
前園「残り3分頃から? それは嫌ですね(笑)」
川淵「今の日本代表にはそれくらいやったほうがいいかもしれないよ(笑)」
前園「積極性は出るかもしれないですね(笑)」
話が尽きない2人の対談インタビュー。後編もお楽しみに。【ウォーカープラス編集部/浅野祐介】
浅野祐介