アニメ「3月のライオン」の舞台“佃島・月島”

東京ウォーカー

【連載】聖地巡礼さんぽ~あの作品の街を歩く~Vol.24

漫画や映画、ドラマなど、人気作品の舞台となった街を散策し、“住みたい街”としての魅力を深堀していく本連載。ここからみんなの“住みたい街”が見つかるかも?

幼いころに家族を失くし、心に深い孤独を抱えるプロ棋士の桐山零。彼は川本3姉妹と出会い、次第に心を開いていく(C)羽海野チカ・白泉社/「3月のライオン」アニメ製作委員会


第24回は、17年3・4月に実写映画の公開も決定している、現在放送中のアニメ「3月のライオン」(NHK総合)の舞台となった佃島・月島エリアをピックアップ。

「ハチミツとクローバー」などで知られる、羽海野チカのコミックが原作。幼いころに事故で家族を失った、17歳のプロ将棋棋士、桐山零。心に深い孤独を抱える彼は、ひょんなことから、あかり、ひなた、モモの川本3姉妹と出会い、彼女たちや棋士の仲間と関わることで、少しずつ心を開いていくというヒューマンドラマ。そんな、ハートウォーミングな物語の舞台“三月町”として描かれている佃島・月島のスポットとともに、街の魅力を紹介する。

【写真を見る】倒れていたところを助けてもらったことから、零は川本3姉妹と交流していく(C)羽海野チカ・白泉社/「3月のライオン」アニメ製作委員会


「住吉神社」


第1話で、夕食をごちそうになるため、零が川本家へ向かう途中に描かれていた神社がここ。大阪にある田蓑神社を由緒とし、1646年に創建された歴史ある神社で、佃島の人々の氏神としてはもちろん、海が近い佃島の海上安全や渡航安全の守り神として信仰を集めている。

手を清めるための水盤が置かれた水盤舎の欄間は、小舟や渡しなどかつての佃島周辺を表現した浮彫が配され、当時の人々が海の安全を願う様子が感じられる。そのほかにも鳥居の陶でできた額など、神社内にはさまざまな文化財がある。また、毎年8月に行われる例祭は、3年に一度、本祭が開催。その本祭では、中央区の無形民俗文化財に指定されている“獅子頭の宮出し”が行われるなど、佃島が多くの人でにぎわう。

将棋会館での対局が終わり、夕食を食べに川本家へ向かう途中のシーンで描かれている (「住吉神社」)(C)羽海野チカ・白泉社/「3月のライオン」アニメ製作委員会


鳥居の中央にかかるのは、「陶製 住吉神社扁額」と言われる陶でできた額で、1882年に寄進されたもの (「住吉神社」)


参拝者が手を清めるための水盤を置いた水盤舎(「住吉神社」)


住吉三神や徳川家康の御神霊などが祭られている (「住吉神社」)


「つくだに 丸久」


川本3姉妹の祖父・相米二(そめじ)が経営し、あかり、ひなたが手伝う和菓子店「三日月堂」があるのが、「つくだに丸久」が建つこの場所だ。第1話で、零が店を訪れ、お菓子の箱詰めを手伝うシーンで登場している。

もともとは漁師をしており、女将さんたちが出荷できない貝などを保存食として佃煮にしていた。1869年に、その佃煮を販売し始めたのが「つくだに丸久」の始まりだ。以来、この地で営業を続け、現在の店主で7代目という歴史のある店で、当時からの技術を受け継ぎ、手作りにこだわっている佃煮は常時10種前後が店頭に並ぶ。

「かつて佃島は、東京湾での漁の最前として多くの漁師が住んでおり、その流れで、いまでも仲買いや佃煮店を営む人が多い。しかも、どこも5代、6代と続くところばかりなので、昔からの馴染みで住民同士の結びつきが強く、アットホームな雰囲気がある町だと思います」(店長の小林健児さん)。

現在の店主で7代目という歴史のある「つくだに 丸久」


伝統的な技術を用いつつ、現代の人の味覚に合わせて手作りした佃煮が並ぶ(「つくだに 丸久」)


生まれも育ちも佃島という店主の小林さんは「いまでは薄れてしまった、人とのつながりが感じられるのがこの町の魅力」と話してくれた(「つくだに 丸久」)


「佃小橋」


隅田川からの支流の佃川支川にある佃堀の手前にかかっており、真っ赤な欄干(手すり)が目を引く「佃小橋」。劇中でも鮮やかな色づかいの欄干はそのまま。橋の近くにある川本家に行く際や、喜びや戸惑いなど零の心の動きがあったシーンで描かれている、印象的な場所だ。

佃堀には、佃島漁業協同組合などの漁船が停泊しているほか、佃小橋の先にある銭湯、日の出湯との風景は、古き良き昭和の景色がそのまま残っている。また、この堀には、住吉神社の例祭で本祭の時に使われる、大幟の柱や抱木が、腐食防止のために埋設されている。

零とひなたの買い物帰りをはじめ、川本家へ向かうシーンなどで登場する(「佃小橋」)(C)羽海野チカ・白泉社/「3月のライオン」アニメ製作委員会


昭和のころのような趣のある景色が今なお残る「佃小橋」


佃島への入口ともいえる「佃小橋」


「佃公園」


第1話で対局が終わったあとの零が、あかりやひなたからのメールを受け取ったシーンや、第4話で、ひなたが意中の男の子に手作りのお弁当を渡せずに、捨てようとしていた場面で描かれていた公園がここ。

隅田川沿いの佃大橋と中央大橋の間にあり、アニメで描かれていたのは佃小橋の近くにあるエリア。ここには滑り台やブランコなどの遊具が設置されており、取材に訪れたこの日は、地元の子供たちのにぎやかな声が響いていた。また、隅田川沿いにはテラスが整備されており、桜の季節にはそのきれいな景色を楽しむ多くの人たちが訪れる。

さまざまな遊具があり、地元の子供が元気よく遊ぶ (「佃公園」)


第5話で零がモモと一緒に歩いていた「佃公園」近くの隅田川(C)羽海野チカ・白泉社/「3月のライオン」アニメ製作委員会


きれいに整備された隅田川沿いの歩道(「佃公園」)


「月島もんじゃストリートのいろは 本店」


第4話で、零がライバル棋士の二海堂と一緒に歩いていた時に、川本3姉妹と遭遇したシーンで描かれていたのが「月島もんじゃストリート」。月島にもんじゃ焼き専門店が初めて誕生したのは昭和30年代。その後、昭和40年代に一度、もんじゃ焼き店が増え始め、東京メトロ有楽町線の月島駅ができたころに一気にもんじゃ焼き店が増え、今では約70軒ものもんじゃ焼き専門店が軒を連ねる。

そんな「月島もんじゃストリート」の老舗のひとつが「いろは 本店」。創業から60年以上続く名店で、ダシを使わずに、揚げ玉やさきイカ、サクラエビなどから旨味を出すもんじゃ焼きが特徴。もんじゃ焼きだけで30種あり、そのほかにも一品料理などが充実している。

社長の朴 哲秀さんは「月島のもんじゃ焼き店は、どの店もお互いがライバルであり、仲間だと思い、それぞれが切磋琢磨している。それに、今の形のもんじゃ焼き発祥の地という自負があるので、どの店でもおいしいんだと思います」と話してくれた。

全国的な観光地としても知られるようになった「月島もんじゃストリート」


「月島もんじゃストリート」の中でも、初期に誕生した老舗のひとつ「いろは 本店」


明太子やチーズ、もちなど人気のトッピングが入った「明太もちチーズもんじゃ」1630円(「いろは 本店」)


東京駅からも近く、周りには高層マンションや複合施設などが立ち並びながらも、昭和の時代を感じさせるような街並みが残り、人と人のつながりが強い街、佃島・月島。街を歩けば静かでありながらも、お店の人たちと話せば、人の温もりにほっこりでき、周辺には隅田川、沿岸は緑にあふれている。

そんな心和む街の雰囲気は、川本3姉妹をはじめとした街の人たちと関わりながら、主人公の桐山零が心の傷を再生していく様子を描いているこの物語にはぴったりなのかもしれない。

「3月のライオン」に登場したスポットを巡りつつ、下町の温もりに触れてみてはいかが。【東京ウォーカー/小松孝裕】

第25弾は12月上旬配信予定

「3月のライオン」Blu-ray&DVD第1巻(Blu-ray:12960円、DVD10800円)が17年1月25日に発売 ※写真はイメージ(C)羽海野チカ・白泉社/「3月のライオン」アニメ製作委員会


小松孝裕

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