11月26日(土)より京都にて先行上映、12月3日(土)より全国公開される映画「古都」の京都プレミアイベントが、11月16日にウエスティン都ホテル京都で行われた。同イベントには、本作の主演を務める松雪泰子のほか、エンディング曲「糸」を歌った新山詩織、Yuki Saito監督らが登壇。
川端康成の同名長編小説をもとに、舞台を現代に置き換えて映画化した本作。京都で代々続く呉服店を営む千重子と、北山杉の里で働く苗子の生き別れた双子の姉妹を、松雪泰子が一人二役で演じ、それぞれの娘を橋本愛と成海璃子が演じる。大きく移ろう時代の中で、受け継いできた伝統の継承に葛藤する母と子の物語だ。メガホンをとったのは、ハリウッドで映画を学び、帰国後にはアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の「バベル」ほか、名匠の撮影現場に参加してきた経歴を持つYuki Saito監督。
会場には、裏千家今日庵から本作でも使用されている貴重なお茶道具、本作に支援し本編にも出演している華道家元池坊 次期家元 池坊専好によるお華と、書画家の小林芙蓉による本作の題字、五代 田畑喜八によるお着物、松栄堂によるお香道具、さらに京都の杉で制作された台座には、TEIJINによる最新技術で制作された浴衣が飾られた。
イベントは、今作の題字を手がけ本編への出演も果たした書画家の小林芙蓉が、「縁」の文字をしたためるパフォーマンスで幕開け。
Saito監督は、「2年間、取材を重ね自分自身が“京都”を体感しながら、松雪さんをはじめ、キャスト陣、そしてスタッフが一丸となって本作と向き合い撮影をしてきました。産声を上げたばかりの本作をまず最初に、京都の皆様に観ていただけ感無量です」と挨拶。
また、本作で使用されている着物や茶道、華道、書道など、日本文化を色濃く映し出す貴重な“ほんまもん”のお道具について、「全て“ほんまもん”にこだわったのは、そこに宿っている魂や代々受け継がれてきたストーリーは、見立てではなかなか表現できないなと思ったので、多くの方にご協力いただき撮影させていただくことになりました」と語る。
松雪は、「私は京都に暮らしているわけではないからこそ、撮影に入る前から、外からみた京都、そして役を通して京都に生きるということがどういうことなのかを、着付けや京ことばなど様々なお稽古を通して学びました。この土地に存在して生きている女性を、俳優として自分の感覚と身体、表現を通してしっかりと体現したいという思いで臨みました」と、役を演じるにあたっての想いを語った。
続けて、川端康成の原作を現代版にアレンジした意義について、Saito監督は「なにより先ず映画「古都」は、偉大な大先輩である中村登監督、そして市川崑監督によってすでに名作としてあります。僕も京都に住んではいないので、原作が書かれた50年前の世界をそのまま焼き回しするのではなく、現代の京都に移し替え、外からの新しい視点を加えることであれば、自分にも撮れるのではないかと思いました。川端康成財団の理事を務める川端香男里さんからは、現代版として描くことについて、『あなたのように、アメリカにいて日本に興味を持った若者が「古都」を撮るということが面白いと思ったので、自由にやりなさい。ただひとつ、約束してほしいことは川端文学にある精神がなんなのか、監督として小説と向き合って、今の京都をしっかりと描いて、精神をしっかりと受け継ぐように』とお言葉をいただきました。なので特に精神性を大事にしながら、本作では主人公が娘の若い世代に伝統を継承して、バトンタッチしていくようなアプローチで現代版「古都」に挑戦させていただきました。また、ロケハンで撮影で使いたい町屋の住所をメモしていたのですが、いざカメラを回す段階になった時には何軒もの町屋がなくなってしまっていたりすると、『今の京都を撮らないと、残さないといけない』という気持ちになりましたね。これは、川端先生が小説を書かれた時の気持ちと近いのかなと自分なりに感じたりもしました」と、真摯な想いと決意を明かした。
松雪は、「本作に関わるにあたり、小説を読み返してみると、京都の文化の奥深さや自然の美しさが、言葉による表現ですけれども、ページをめくるごとに絵画のように目の前に広がっていく素晴らしさを改めて感じました。私はかつての名作『古都』の時代に生きている女性の20年後を演じ、子を育み、背負ってきた宿命や受け継いできたものを渡していかなければいけないという精神を、しっかりと引き継ぎながら表現したいと思いました。継承すると言っても、簡単にできることではない、歴史の重みと難しさを改めて感じましたし、母と娘が同じ時間軸で葛藤しながら、お互いが学び、成長し、そしてどのように未来へと繋げていくべきかを役を通して向き合いました。そのあたりは監督とどういう風に表現すれば伝わるのかを沢山ディスカッションしていきましたし、現場でも若いスタッフの方々とセッションをしながら作品を高めていくという日々を過ごしました。なので、一生忘れられないほど、濃密な時間を京都で過ごすことができました。そんな想いも感じていただけたらありがたいなと思います」と、想いの丈を伝えた。
ここで、門川大作京都市長より映画の完成を祝して花束が贈呈される場面も。最後に松雪は「深く、静かに、丁寧に時間が進んでいく作品です。映画館に足を運んで、自分自身と対話しながら観る作品が今では少なくなっていると思うので、そういう意味でも本作はすごく豊かな時間を過ごしていただけるはずです。ぜひ劇場に足を運んでいただけたら幸いです」とメッセージをおくった。
その後、出演している妙心寺退蔵院の松山大耕副住職と書画家・小林芙蓉による本作の魅力や撮影開始前のエピソードが語られ、最後は映画のエンディング曲「糸」を新山詩織が弾き語りで披露してイベントの幕を閉じた。
映画「古都」は、11月26日(土)より京都にて先行上映、12月3日(土)より全国公開される。【関西ウォーカー編集部】
大西健斗