農業との兼業ライフスタイル“半農半X”「今は農業が始めやすい時代」

東京ウォーカー(全国版)

“半農半X”は、塩見直紀氏が提唱してきたライフスタイル


「半農半X」という言葉をご存知だろうか。戦国時代や江戸時代には「半農半士」と呼ばれる、農民でありながら武士でもある、という生き方を選んだ人たちがいた。その呼び名になぞらえた現代社会のライフスタイルが半農半Xだ。半農半X研究所代表・塩見直紀さんに、そのコンセプトや実践ノウハウについて聞いた。

農作業の空き時間を利用して、仕事のアイディアを練る


半農半Xを簡単に説明すると、農業をやりながら別の仕事も続けていく兼業のライフスタイル。“農”は都会で生活している人たちにとっては縁遠いものに感じるかもしれないが、“農”に取り組む姿勢は人それぞれで異なっていていい、と塩見さんは話す。

「自宅のベランダや庭にある家庭菜園も“農”です。週に1回ほど市民農園に通うことでもいいし、郊外で広い畑を持つのももちろんありです。面積や規模、どのくらい時間を費やすかというのは関係なく、いろんな形の“農”があると思います」

同様に、半Xの“X”も十人十色だ。

「フルタイムでもいいしパートタイムでもいい。職種もなんでもよくて、看護師とか新聞記者とか、ベンチャーでもボランティアでもいい。自分の仕事じゃなくても、人の仕事や周囲を応援したり、サポートすることでもいいんです」

人それぞれのできる範囲で構わない。そんなふうにハードルを低めに設定することで、半農半Xに共感する人が増えたら、という思いも塩見さんの中にはある。

「僕は20代の頃に環境問題に出会いました。バブル景気の真っ只中です。環境問題について考えれば考えるほど、これからの僕たちは暮らし方、生き方、働き方を変える必要があると感じたんです。つまり、世の中を変える必要がある。いろんな人たちが参加してくれないと、世の中は変わっていきません。だから、できるだけハードルを低くして、半農半Xに参加してくれる人が増えたらいいなと」

台湾での講演の様子


半農半Xの生活は朝方になることが多い。朝や夕方の涼しい時間帯を活用して農作業を行うためだ。

「夏は朝夕を農作業のメインにするとか、冬は農業を休んで春に向けた試行錯誤に充てるとか、自然の摂理になじむのが半農半Xのライフスタイルです。僕もそうですが、夏場はちゃんと昼寝をしたり、朝は早起きして農作業を朝のうちにやって、その後は自分のための“X”に時間を充てて、また夕方から農作業を再開する。そんなふうに、農業や自然の摂理に合わせて自分の仕事をコントロールできるのが理想的な姿ですね」

半農半Xのベースにあるのは、自然環境と共生しながら(=半農)生きがいを持って仕事や社会貢献に取り組む(=半X)という考え方だ。

「半農半Xについて考える時、現在は2つのポイントをクローズアップできます。1つめは社会の生きづらさです。都会に住みにくさを感じるようになったり、人間らしさや人間そのものが疎外されるのが現代社会ですから。2つめは農家がどうやって生きていくか。食糧問題は無視できない課題ですが、にもかかわらず、資本主義の発展の弊害として、農家もまた生きづらい。この2つの流れの先にあるのが半農半Xだと思います」

台湾での活動


“農”を始めようと思ってもどこから手をつけていいのかわからない、という人も多いはず。そんな人は地方に目を向けてみては、と塩見さんはアドバイスする。

「農業に“敷居が高い”というイメージを持ってる人でも、気軽に参加できる方法があります。それは地方で農業を教わること。田舎には“農”を教えてくれる人、“農”の師匠と呼べるような人がたくさんいると思うんです。例えば、農業に従事しているおばあちゃんは種まきの時期やコツを知っているし、聞いたら嫌な顔をせずに教えてくれるはず。それに、今は耕作放棄地が増えているのが実情です。農地を無料で借りることもできるかもしれない。借りること自体が地元の人たちに喜ばれる場合もあるだろうし、そういう意味では農業を始めやすい時代かもしれません」

農業を始めるために都会から地方へ移住する、というと一大決心が必要なもののように感じてしまう。だが、ハードルの低い半農半Xであれば、より現実的に未来像を描きやすい。人によっては、現在の生き方の延長線上で“移住”について考えを巡らせることができるかもしれない。

「半農半Xを実践する際には、故郷へ移り住むということを誰もが最初に検討すると思います。故郷以外の候補地としておすすめなのは、祖父母の故郷へ移住する“孫ターン”。結婚している夫婦なら相手側も入れて親が4人、祖父母は8人になります。8人分の故郷という候補地の中には、きっと気に入る土地もあるだろうし、空き家が見つかる可能性も高いはずです。そういうふうにルーツをたどっていったり、友人や知人がすでに移住している土地などを検討してみるのがいいと思います」【東京ウォーカー】

石福文博

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