キリリとした端正な顔立ち、艶のある声。歌舞伎のみならず、テレビにミュージカルに活躍する尾上松也。「イケメンと呼ばれていかが?」と聞くと「もう言われませんよ、若手がたくさんいますから」と笑う、その笑顔もやはりイケメン。一昨年の南座「三月花形歌舞伎」に続き、今回は大阪松竹座の「二月花形歌舞伎」でリーダー的な立場を務める。大先輩の中村又五郎のほか、23才の中村種之助から31才の松也を最年長に、歌舞伎の次代を担う若手たち7名が中心となる話題の公演だ。
1/9、東京で二部制の取材会が行われた。一部には中村歌昇、中村壱太郎、坂東新悟、中村種之助が出席。「同世代で刺激を受けることも多くうれしいが、同時に責任も感じる。足りないものを補い合い、一致団結して頑張りたい」(歌昇)、「同世代で楽しく素敵な公演にできたら」(壱太郎)、「昼夜で大役、チャンスを生かせるよう気を引き締めて」(新悟)、「関西でこのメンバーでできること、本当にうれしい! 一番年下ですが、精一杯やりたい」(種之助)と、抱負を述べた。取材会第二部には松也、中村梅枝、尾上右近が参加。「若手ならではのフレッシュな雰囲気で。“雪姫”を一生かけてやっていくつもりで挑みます」(梅枝)、「松也の兄さんと2度目の『連獅子』、年が近いからはつらつと。歌舞伎が好きだという思いが伝われば」(右近)と語った。松也のコメントは個別取材と合わせて紹介しよう。
Q:今回の抱負と若手のリーダーを務めることについて。
「また関西で僕たちの世代に一座をお任せいただけることを非常にありがたく思っています。東京の『新春浅草歌舞伎』に引き続いての『花形歌舞伎』で、自分の立ち位置、責任感という意味でも大きいものがあります。今は『浅草』の公演中ですが、たくさんのお客さまにお越しいただいておりますので、来月の松竹座でもこの流れを汲んでお客さまにお越しいただきたいと思っていますがその思いは引き継ぎつつも、もう一度ゼロからのつもりで、危機感を持って勤めていきたいと思っています」
Q:役について。
「今回、午前の部では『義経千本桜 渡海屋・大物浦』で知盛をさせていただきます。僕は20代半ばぐらいまで女方を中心に勉強させていただいておりましたが、ここ数年は自分が予想もしてなかったようなお役に挑戦させていただき、また今回は松竹座という大きな劇場で勤めさせていただけて、非常にうれしく思っております。
最初は渡海屋銀平で出て、最終的には新中納言知盛という正体をあらわす。『義経千本桜』の中でも、平家の思いがとてもよく表現されている場だと思います。自分なりに平家に関わる人々の怨念や執念といった思いを、きっちりと知盛を通してお客さまに考えていただけるようなお芝居につくりあげれたらいいなと思っております」
Q:午後の部の『連獅子』について
「『連獅子』では、親獅子を勤めさせていただきます。右近くんとは、以前に子供歌舞伎でさせていただいていますので、実質2回目となります。こうしてまた1か月勉強させていただく機会をいただきましたので、今回はきちんと親獅子と仔獅子という関係性を、右近くんと一緒に噛みしめながら、しっかり踊り、最後は2人で元気よく、お客さまに爽快な気分でお帰りいただけるよう、お稽古を積んで準備したいと思っております」
Q:大阪松竹座新築開場20周年記念公演です。松竹座の思い出は?
「僕は、20年前(1997年3月)の柿葺落(こけらおとし)に(『盛綱陣屋』の)仁左衛門さんの盛綱で、12歳の時に“小四郎”を勤めさせていただいていたんです。新築開場からのご縁です。僕の人生初めての大阪公演だったこともあり、よく覚えています。大阪って食べ物がおいしいんだなって(笑)。関西はお好み焼きとか、子どもが好きな食べ物も多いじゃないですか。父(六世尾上松助)も一緒に出ていたので、よく一緒にご飯を食べに行きました。父は行きつけのバーにも連れて行ってくれて、そのお店には今も大阪公演の際には行っています。松竹座は、懐かしい思い出がたくさんある劇場ですね」
Q:同じ世代の人たちへのメッセージを
「僕たち以下の世代の皆さんに歌舞伎をどうしたら観に来ていただけるかが、今後大きな課題になってくると思います。今は多種多様な娯楽があるなかで、若い方たちに興味をもっていただくことは並大抵のことではないと思います。ですが、私自身すぐ近くに歌舞伎の存在があったとはいえ、これほどまでに歌舞伎を好きになれたのは、心を揺さぶられる底知れない魅力が歌舞伎にはあったからです。歌舞伎のみならず、日本の音楽や文化に触れると心に響くものが必ずあると思います。ですので、歌舞伎は敷居が高いというイメージや、価格や上演時間などで若い方たちが足を運びづらくなっているのかもしれませんが、来月の『二月花形歌舞伎』のように、最近は若手が中心となる公演も増えています。このような公演をさせていただくことによって、少しでも興味をもっていただけましたら幸いです。歌舞伎は総合芸術ともいわれますので、役者だけではなく、音楽や美術、衣裳をはじめ、見どころがたくさんあります。まずは肩の力を抜いて劇場に足を運んでいただきたいです」
Q:歌舞伎とそれ以外の仕事について
「俳優として演じるということでは、歌舞伎も映像もミュージカルも根本は同じですが、ジャンルが違えば表現方法も異なりますので、お仕事によって切り替えるようにしています。歌舞伎で培ったことが生かせる内容であれば活用しますし、必要がないのであればそのジャンルに沿った表現になるよう心がけています。ですが、どの現場に行っても自分が今こうしてあるのも歌舞伎で培った基盤があるからだと思います。歌舞伎以外のお仕事をさせていただく時には、歌舞伎を観たことのない方に劇場に足を運んでいただけるきっかけになれればいいなと、常に考えています。
メディアが中心となっている今、チャンスをいただけるのであれば積極的にメディアにも出演することによって裾を広げていきたい。歌舞伎界のためにも、自分のためにも。歌舞伎界の先人たちは今のようなメディアがなかった時代から、その時々に対応して伝統をつないできた。時代の変化に応じて歌舞伎界も歌舞伎俳優も、積極的にアプローチをしていくことが必要だと思っています。
今はありがたいことに1年間を通して歌舞伎が毎月上演されていますが、そうでなかった時代もありました。最近では歌舞伎をご覧になられる若い方が増えてはおりますが、もっと沢山の方に観ていただきたいと僕は思っています。今年は、NHKの大河ドラマにも出演させていただきます。舞台が中心ですので、年間を通して出演することが難しいのですが、今年は可能なかぎりテレビなどのメディアを通じて見ていただける機会を増やし、少しでも劇場にお越しいただくきっかけとなる1年にしたいなと思っています」
Q:歌舞伎の楽しみ方について
「歌舞伎は人それぞれの楽しみ方をみつけられる演劇だと思います。俳優を見るだけではなく、たくさんの見どころがありますよ。例えば『金閣寺』にしても、イヤホンガイドがあれば解説してくれるのでよくわかりますし、歌舞伎のプログラム(番附)には、あらすじが書いてあります。難しい演目もありますけど、少しでもわかりやすく観ていただけるように工夫されています」
Q:大阪に来た時、必ず行く店、必ずすることは?
「子供のころからの楽しみのひとつが、父親に連れて行ってもらった今でもなじみのバーです。当時、僕が松竹座の柿葺落に出ていた時は小学生ですので、もちろんお酒は飲めません。すごく大人なバーで、父親と隣同士に座って。父親はお酒を飲んでいましたが、僕はフレッシュオレンジジュース。その場でマスターが作ってくれて、市販されているオレンジジュースが飲めなくなるのではと思うくらいおいしかったのを覚えています。大人になってからも、そのバーに行って、お酒ではなくてそのフレッシュオレンジジュースを飲むのが楽しみなんです。もうお酒を飲める年齢ですけど、それが飲みたくて(笑)」
高橋晴代