2015年11月、流通大手のアマゾンが、本拠地であるシアトルにリアル書店「Amazon Books」をオープンさせた。“客と対面して紙の本を販売する”実店舗とは正反対の手法で急成長を遂げたアマゾンが、あえて今提案するリアル書店の正体とは?
「Amazon Books」は、ワシントン州シアトル、サウスレイクユニオン地区のアマゾン本社から6kmほど離れた、高級ショッピングモール「ユニバーシティ・ビレッジ」の入口にある。
英語で“ブリック&モルタル(レンガと漆喰)”と言えば“実店舗”を意味する。最近の書店にしてはコンパクトな同店も、外壁がレンガ造りとなっている。店頭の本は表紙が見えるように展示してあるため、約5000~6000冊と控えめだが、「Amazon.com」でのレーティングや売上などのデータを考慮しながら、専任のキュレーターが選ぶので、少数精鋭の充実したセレクトになっているのが特徴だ。
店内の棚は一般的なカテゴリ分けの他、「オンラインストアで星4.8個以上の本」「ウイッシュリストで人気」といった、ビッグデータとリンクしたレコメンドを充実させているのがアマゾンらしい。
本の価格はオンラインショップと同じで、スマートフォンを表紙にかざすと、アマゾンのページにジャンプして、さらに詳しいデータにアクセスできる。
アマゾン製ガジェットも大きくフィーチャー
店のもう1つの大きな特徴が、タブレット「Fire」や電子書籍リーダー「Kindle」、AI接続スピーカー「Echo」など、アマゾン製ガジェットの多くを手にとって試すことができる点だ。通販に加え、音楽や映画の配信サービスと連携するアマゾン・エコシステムの使い勝手を購入前に体感できるとあって、多くの女性にも注目されていた。
支払いはクレジットカードのみで、通販決済用と同じカードなら、アカウントに購入履歴が反映される。実際に書籍を購入し、すぐにスマホで確認すると、今買ったばかりの本が瞬時に反映され、レコメンドまで表示されたのには驚かされた。(現時点ではアメリカ国内アカウントのみ)
「『Amazon Books』を楽しんでもらえましたか?」と声をかけてくれたスタッフに「シアトルに魅力的な本屋がまた1つ増えましたね」と答えると、「“レイン・シティ”と呼ばれるほど雨が多い街だから、私たちには屋内で楽しむ良質な本との出会いがたくさん必要なんです」と笑顔で話してくれた。
シアトルには、全米最大の書店チェーン「バーンズ・アンド・ノーブル」をはじめ、独立系の「エリオット・ベイ・ブックカンパニー」など、魅力的な書店が多く、読書家から支持されているが、「Amazon Books」にも多くの人が詰めかけ、ゆったりと書架の間を歩きながら大切な1冊との出会いを楽しんでいた。
本好きにとって、書店で過ごす時間は、読書そのものに匹敵する魅力を持つ。「Amazon Books」のスタイルがシアトルの読書家に認められれば、近い将来日本にもやってくるはず。今からその日を楽しみに待ちたい。【東京ウォーカー/取材・文=杉山元洋、撮影=恩田拓治】