フィギュアスケート 今季注目のジュニア男子選手【前編】

東京ウォーカー(全国版)

ジュニアグランプリシリーズが開幕し、早速日本の若手選手達が活躍を見せている。そして新横浜にてジュニアグランプリ日本大会も開催。いよいよフィギュアスケートシーズの到来だ。

今回は8月に滋賀県立アイスアリーナにて開催されたサマーカップから、今季の活躍が期待される選手達を紹介したい。この大会は2012年に創設された新しい大会だが、現在では新プログラムのテストと調整を目的に、西日本の有望選手が多数参加する大会として定着している。まずはジュニア選手権男子から取り上げよう。

「世界を意識し始めた」友野一希


友野一希、ショートプログラムの演技


昨シーズン、ジュニアでは山本草太に続く存在として注目を集めた友野一希。全日本選手権では振るわず、世界ジュニアへの切符を逃したかに思われたが、山本草太の負傷により急遽の出場が決まったのだ。この経験は彼にとって大きなものとなったようだ。

「世界ジュニア出場はとても刺激になりました。スケートに取り組む意識が180度変わったんです。世界を意識し始めて、今まで以上にしっかりスケートに打ち込めています。世界ジュニアの結果には悔しさはありましたが、急遽出場が決まったあの状況で頑張れた、という満足感もありました」

そして今季の話になると、以前とは別人のような強気なコメントを聞かせてくれた。

「今年ももちろんあの舞台に立ちたい。今度は挑戦ではなく、トップを目指して、ジュニアのトップスケーター達と同じレベルで戦っていきたいんです」

トップの選手達に比べてまだまだ劣っていることが多いと自覚している彼は、だからこそひとつひとつの試合を大切にし、弱点をひとつひとつ克服していきたいと語る。

「以前よりも堂々と演技できるようになったと感じています。自信を持って、向上心を持って、目標を高く掲げて、自分にプレッシャーをかけてやっていきたい」

例年、スロースターターの印象がある友野選手。しかし今年はシーズン序盤から順調な仕上がりを見せているようだ。それでも本人は全く満足していない。ショートプログラムの演技後には、「正直、悔しい。これで満足していたら駄目です」と自らを叱咤するコメントを続けた。ただ同時に、失敗した割には点数が出たことを、「伸びしろがあるのだと、前向きに捉えたい」とも語った。

翌日のフリープログラム、ここでもミスが出たことに対し、悔しさを露わにする彼の姿があった。

「ミスのあった割に点数は出ましたが、つなぎの部分、ジャンプの質など、まだまだ調整不足です。ひとつひとつ修正していきたい」

内容には満足していなかった彼だが、それでもパーソナルベストのスコアを獲得することが出来た。これが自信につながり、前向きな気持ちになれたという。

会場が一体となって声援を送っていた。友野一希も笑顔の絶えない演技だった


今回の試合で特筆すべき点として、トリプルアクセルのクオリティの高さがあった。昨シーズンと比べて明らかに進化している。友野選手本人も、「加点のもらえるジャンプになった」との手応えを掴んでいるようだ。得点源として計算の立つエレメンツへと仕上がった印象だ。一方、4回転サルコウはまだ不安定で、今回のミスの原因を「勢いがありませんでした。迷いがあって、思い切って跳べませんでした」と分析する。高難度の技だが、世界の舞台で戦うためには避けて通れない課題だ。次の試合は、新横浜でのジュニアグランプリ日本大会だ。

「去年のジュニアグランプリでは本当に悔しい思いをしました。今年は2試合への派遣をいただいているので、伸び伸びとプレッシャーを感じずに滑りたい」

元々コミカルな表現力で人気の選手だったが、その表現面でも大きく向上した印象だ。

「昨年までは勢いで演技していましたが、今季は今までとは違う自分、大人の演技を見せたい。感情を込めて演じることを目指しています」

表現に関しては、尊敬する町田樹を意識し、演じているという。コーチからも「樹君が見えるようだ」と言われるとのこと。「少しでも近づいて、追い越せるように頑張りたい」と語る友野選手、今季の躍進を大いに期待したい。

この1年で一気に才能が開花した壷井達也


壷井達也、ショートプログラムの演技


昨年の夏までダブルアクセルすら跳べなかった選手だと、いったい誰が信じるだろう。壷井達也、今、最も日の出の勢いを感じさせる選手だ。

今季からジュニアに昇格した彼にとって、今回戦うメンバーは格上の先輩ばかり。ショートプログラムの演技が始まる前は、「凄いメンバーで緊張した」というが、演技が始まってからは自分のやるべきことが出来たそうだ。

「先生から、今日は3フリップ+3トウループで行け、と言われて挑戦しました。試合で決まったのは初めてです」

昨年の夏に初めてダブルアクセルを降りられるようになって、わずか1年でここまで成長できたのは極めて稀なことだ。その理由として、同じクラブの佐々木晴也と競い合ってきたことを挙げる。急成長の陰には、身近に良きライバルがいることが大きく影響したようだ。そして、クラブの先輩、山本草太に少しでも近づくことを目標にしているという。ジャンプが跳べるようになる以前から、スケーティングや表現力には力を入れて練習していた選手だ。そこにジャンプの力が加わったことで一気に才能が開花した印象だ。

翌日のフリープログラムでは悔しい思いをすることになった。「自分のやるべきことを出せませんでした。練習ではノーミスが出来ていたのに、本番で発揮できなかったことが悔しいです」

ただ決して下を向くことなく、次なる目標を聞かせてくれた。「今年中にトリプルアクセルを降りたい」

まだ練習でも成功していないが、本人の意識の中では成功の目途が立っているようだ。

「去年ダブルアクセルが跳べるようになってから、ジャンプのコツが分かってきました。今年中にトリプルアクセルを跳べるようになると感じているし、仮に駄目だとしても来季までには完成させたい」

フリーではタンゴに挑戦する


今季の成績面での大きな目標は、全日本ジュニアで6位以内に入ってシニアの全日本に出場することだ。ジュニア昇格初年度としては難しい目標にも思えるが、彼の現在の充実ぶりを見るに、十分に実現可能な目標に思える。

この夏に出演した THE ICEの練習では、アダム・リッポンが壷井選手の“マンボ”をいたく気に入り、声援を送っていたシーンが印象的だった。

「凄い人達と一緒に練習できるのはとてもいい経験になります。世界のトップ選手は体の使い方、見せ方が全然違います。とても勉強になりました」

様々な経験から貪欲に学ぶ壷井選手の成長を、期待を込めて見守りたい。<後編に続く>【東京ウォーカー/取材・文=中村康一(Image Works)】

編集部

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