ギフトにもなる防災備蓄食。岩手の缶詰工場が手掛けるリゾット缶「Gift&Stock」って知ってる?

東京ウォーカー(全国版)

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地震や水害といった災害の発生を受け、防災意識の高まりから“備蓄”を行う家庭が増加している昨今、ポップなデザインが施された、ある缶詰が注目を集め話題となっている。それが、広告代理店の博報堂とデザイン・イノベーション・ファームのTakramが、社会課題解決の新しいきっかけ作りを目指した企画「みやげ備食プロジェクト」から誕生したブランド缶詰「Gift&Stock」だ。「大切な人にあげたくなる、部屋にもおきたくなる、おいしい備蓄」というコンセプトで、岩手県の缶詰会社・岩手缶詰が製造を担当。三陸の海で捕れた魚介と東北産のひとめぼれの玄米を食材に使用するなど、地産地消にも重きが置かれ、現在は「サバのカレーリゾット」、「イカのクリームリゾット」、「イナダのトマトリゾット」の全3種をラインナップしている。

昨年11月に開催された、第9回新東北みやげコンテストで最優秀賞を受賞し、6月1日のクラウドファンディング開始から11月までに、合計約1万缶を販売したという「Gift&Stock」について、製造・販売を行う岩手缶詰の営業部課長・阿部常之さんにお話を伺った。

「土産×備蓄食」というコンセプトで誕生した、ありそうでなかった缶詰

「みやげ備食プロジェクト」の一環として生まれた、ブランド缶詰「Gift&Stock」【画像提供=岩手缶詰株式会社】

現在は「サバのカレーリゾット」、「イカのクリームリゾット」、「イナダのトマトリゾット」の全3種をラインナップ【画像提供=岩手缶詰株式会社】

従来の魚の缶詰とは一線を画す、思わず手に取りたくなるポップなデザインが特徴【画像提供=岩手缶詰株式会社】


ーー「みやげ備食プロジェクト」に参画する以前から、商品の構想があったそうですね。
【阿部常之】そうなんです。東日本大震災が開発のひとつのきっかけになっているのですが、当時弊社の工場は岩手県の沿岸地区にあり、倉庫などが津波で全部流されて、缶詰が海岸に散乱していたそうです。しばらくして地元の方から、「岩手缶詰さんの缶詰を食べて生き延びたよ」という声を聞いたんです。それがヒントとなり、「災害時の食事として役立つような、主食になる製品が欲しいよね」ということで、商品の開発自体は5年ほど前からスタートしていました。

ーー博報堂さんからお話があったのはいつ頃だったのですか?
【阿部常之】2021年12月です。弊社の缶詰はサバやサンマ、イワシに特化しており、味噌煮や水煮、蒲焼といった商品が中心でした。先ほどお話したように、「お米を使った商品を作りたいね」と主食になる缶詰の商品化に向けて進めていたところだったので、タイミングよく声をかけていただきました。

ーー最初このお話を聞かれたときは、どのように感じましたか?
【阿部常之】「Gift&Stock」は、災害に備えて長期保存できるのはもちろん、地域の特産を使った日頃から食べられるおいしい缶詰。しかも、大切な人にお土産やギフトとして贈りたくなる、これまでにない備蓄食なんですよ。これまでの私どもの商品では、日常食と備蓄とお土産をそれぞれ切り離して考えていたので、それらを融合するという発想はなかったんですね。初めてこの企画を聞いたとき、「なるほどな」と気づきを得ることができ、非常におもしろい企画だと感じました。

ーーどのあたりがおもしろいと思われたのでしょうか?
【阿部常之】外出制限などがあると、やはり「備蓄=缶詰」という意識があるので一時的に需要は高まる傾向にあります。一方で、購入動機の多くが備蓄目的なので、それ以外の動機を創出する必要性を感じていました。そういう状況のなかで、缶詰をギフトとして提案する「Gift&Stock」という斬新なアイデアに非常に興味をひかれました。ギフトとして考えたときに、お世話になった人や大切な方にお土産を渡すと思います。そして、もらった方の備蓄にもなる。これをきっかけに缶詰の魅力と備蓄食の認知を広げていくことができるのではないかと考えたんです。

「サバのカレーリゾット」は、ちょっぴりスパイシーなカレーにサバがマッチ【画像提供=岩手缶詰株式会社】

ーー主食になる備蓄食の開発にあたって、どのような点にこだわりましたか?
【阿部常之】3つのラインナップに関しては、弊社商品開発室のメンバー5名のアイデアで決めました。ネーミングから想像がつくような味にしたかったので、日本人好みのポピュラーな味付けになっています。あまり奇抜にならないよう、万人に受け入れられる味を目指しました。もちろん温めるとより一層おいしく食べることができますが、冷めたままでもおいしく食べられるのが備蓄食として目指すところです。

【阿部常之】そのほかにも、食欲がそそられる見た目や味付けの工夫を施しています。例えば、イカのクリームリゾットの場合は、赤ピーマンを入れて色味をプラスする、サバのカレーリゾットの場合は、サバの生臭さが気にならないようにスパイスを多めに入れるといった調整を行いました。

「イナダのトマトリゾット」は、ゴロっとしたイナダのブロックと、トロトロのトマトのコンビ【画像提供=岩手缶詰株式会社】

ーーそういえば、缶詰って全体的に濃い味付けのものが多いイメージですね。
【阿部常之】地域性に影響される部分もあるとは思いますが、缶詰に関しては、濃い味が好まれやすい傾向にあるのかなと感じています。

ーー商品の完成までに、苦労された点や失敗談はありますか?

「イカのクリームリゾット」は、濃厚でまろやかなクリームソースにスルメイカの風味を閉じ込めた味わい【画像提供=岩手缶詰株式会社】

【阿部常之】最初は、白米を生米のまま詰めて水を入れて缶詰にしたり、アルファ米(非常食などで用いられる、お湯や水を注ぐだけで食べられる米)を使ったりしました。ただお米は、冷めるとベータ化(デンプンが老化すること)して固くなってしまうんですよ。それを改善するために、水分の量を増やしたり、おかゆにしたり、炊き込みご飯にしたりといろいろ試したんですが、やっぱりうまくいかなくて…。「おいしいか?」と言われるとそうでもないんです。そこで、玄米を使うことによって、冷めても固くならずお米の食感を残すことができました。仮に真冬の深夜に冷たい缶詰を食べたとしても、おいしくなければならないという備蓄食の役割を考えたときに、導き出した答えがリゾットでした。

東北産食材にこだわり、缶詰作りを通して地域産業の復興にも一役

三陸産のサバやイナダなどの魚介が手軽に味わえるのも魅力【画像提供=岩手缶詰株式会社】

ーー使っている魚は三陸産の魚なんですよね?ちょっとプレミアム感があるような気がしますが。
【阿部常之】プレミアム感を感じていただけるとうれしいですが、とにかく三陸の魚介類を食材に使うというコンセプトのもと、具材を選定しました。近年は捕れる魚の種類も変わってきて、ここ数年はイナダ(成長前のブリ)が岩手で水揚げされるようになってきたんです。三陸の食材を使うことによって、漁業関係者や加工業者など水産関係の復興支援にもつながればと思っているので、安い外国産の原料ではなく、三陸産のものを使おうと決めました。

【阿部常之】同様に、お米も東北地方で作られたものを使用することで、東北の生産者の力になれたらと考えています。

ーーちなみに、備蓄が前提ですが、賞味期限はどう設定されているのですか?
【阿部常之】缶詰の賞味期限は、業界内で統一されています。缶詰は大体3年が多いですね。

ーー缶詰会社だからこそ言える、備蓄の仕方を教えてください。
【阿部常之】弊社としては、定期的に備蓄食を食べて、食べたら買い足すことを繰り返し、常に新しい非常食を備蓄しておく「ローリングストック」という方法をおすすめしています。長期間保存していると、どこに置いたか忘れてしまうこともあるかと思いますが、例えば1年に1回、缶詰を食べていただくことで、備蓄食の食べ方(調理方法)についてあらためて学んでもらうきっかけにもなるのではないかと考えます。

【阿部常之】ちなみに、缶詰は基本的に常温で長期保存が可能なので、パッケージに保存方法が書かれていないものも多いです。塩素系洗剤が近くにある場所や高温多湿な場所に保管していると缶が腐食しやすくなるので、このような場所は避けたほうがいいですね。

目の届く場所に飾っておきたくなる、オシャレなデザイン【画像提供=岩手缶詰株式会社】

ーー日常的に食べるのもおすすめとのことですが、「Gift&Stock」のアレンジメニューはありますか?
【阿部常之】社内で、「とけるチーズをのせて、レンジで温めるとおいしいよ」という声は聞きました。また、これはアレンジメニューではないですが、釣りに持って行って食べているという社員もいますね。火を使わずに食べられるというメリットがあるので、キャンプなどのアウトドアシーンでもおいしく召し上がっていただけます。

ーー貴社の通販サイト以外では、どこで購入できますか?
【阿部常之】東京都内ですと、岩手のアンテナショップ「いわて銀河プラザ」の特設コーナーや缶詰専門ショップ「カンダフル」に置いてあります。あとは、一般的な魚の缶詰とは異なるポップなデザインということもあり、盛岡駅の売店ではお土産としての人気も高いですね。ポンと出しておいても様になるオシャレな缶詰なので、普段から目に付く場所に置いていただくことで防災意識が高まり、気軽に食べていただけるようになればと思います。

岩手県釜石市に本社を構える岩手缶詰株式会社【画像提供=岩手缶詰株式会社】


ーー「Gift&Stock」の今後の展望や、事業を通して成し遂げたいことはありますか。
【阿部常之】「Gift&Stock」の認知が広まっていけばいいなというのはありますし、何より東北の復興にもつながっていけばうれしいなと思います。また近年は“魚離れ”も課題になっているので、缶詰という形で解決に貢献していきたいですね。缶詰は、煮る、焼く、炊くというエネルギーを使わないので、調理するのが面倒なときでも魚を気軽に食べることができます。缶詰は、ただ開ければ食べられますから。皆さんに缶詰を食べていただくことで、水産業界にもポジティブな影響が広まり、業界全体が潤ってくるのではないでしょうか。「和風な味わいのものが欲しいです」という声もあるので、今後機会があれば、お客様のニーズに応えられる商品も開発していきたいですね。

この記事のひときわ #やくにたつ
・既存商品の役割を異なる視点から見直す
・消費者の声に耳を傾け、商品開発のヒントにする
・商品の利用シーンを具体的にイメージする
・商品をきっかけに、人々や社会にどんな影響を与えられるか吟味する

取材・文=北村康行

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