累計販売数10万冊突破。発達障害を持つ人の声から生まれたノート「mahora」が目指す未来とは

東京ウォーカー(全国版)

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“まほら”という言葉をご存知だろうか?素晴らしい場所、住みやすい場所を意味する大和言葉。この言葉を冠するノート「mahora」が注目を集めている。

作っているのは、大阪府にある大栗紙工株式会社。大手文具メーカーのノート製造を手がけるOEM(相手先ブランド製造)事業に長く携わってきた会社だが、2020年2月発売の「mahora」ノートをきっかけに自社ブランドの製造・販売に乗り出した。「mahora」の最大の特徴は「発達障害者の声をすくいあげて開発をした」こと。大栗紙工がなぜ自社ブランドを立ち上げたのか、発達障害者向けの製品がどのように生まれたのか、大栗紙工株式会社 取締役の大栗佳代子さんに話を聞いた。

発達障害のある人の困りごとを解決すべく生まれたノート「mahora」。いろいろな人に取って使い心地のよいノートと評判だ【画像提供=大栗紙工株式会社】

縁が重なって生まれた「mahora」ノート。誠実な仕事ぶりが縁をつなぐ

OEM事業においては「ほかの会社には負けない高品質なノートをきちっと納期を守って作ることを意識してきた」と語る大栗さん。しかし、OEM事業では大栗紙工の名前を出すことはできない。かねてから「いつか自分たちのノートを作ってみたい」という思いはあったのだそう。しかし、そこにはさまざまな壁があった。

大栗紙工がノートを作るときに使っているのロール紙。mahoraノートを作るロール紙の場合は1ロールで約3000冊が出来上がる【画像提供=大栗紙工株式会社】

「まず材料の調達が難関です。OEM事業のときはメーカーさんから原料となる紙が手配されるので、それを使うんですが、自社商品となると自分たちで紙を確保しなければなりません。ノートになる紙には2つタイプがあって、1つは平判(ひらばん)と呼ばれる大きな紙です。これは少ない冊数を作るときや、糸綴じのノートを作るのに適しています。もう1つがロール紙で、巨大な巻物の状態の紙です。私たちの会社で持っている機械はこのロール紙を使うんですが、これは一度に大量の冊数を作るのに適した紙なんです。自社でこの特殊なロール紙を確保するというのが一番の壁でした。また、紙の厚さにもよりますが、ロール紙からノートを作ると千単位でノートが出来上がってしまいます。『mahora』ノートの場合は厚めの紙を使っているので、1ロール紙につき約3000冊の仕上がりです。販路を全く持っていない私たちがその量のノートを売り捌けるのかというのも懸念材料でした」

販路を作るために宣伝・広告も重要になるが、予算も限られる。そこで考えたのがプレスリリースの活用だった。

「プレスリリースを配信して、それが目につけば取材していただけて、お金をかけずにPRができると考えたんです。いつか役に立てばいいな、という軽い気持ちでプレスリリースのセミナーに参加しました」

これが最初の大きな縁となった。講義終了後、セミナー講師の先生にあいさつをした際に「ノートを作っている会社なら」ということで発達障害の方の困りごとについて話を持ちかけられた。

「先生は発達障害の自助団体の支援をされてる方だったんです。発達障害の方は一般的なノートを使いづらく感じているから話を聞いてほしいということで、『一般社団法人UnBalance(アンバランス)』さんと引き合わせていただきました」

発達障害の人のなかには、視覚過敏のせいで白い紙をまぶしく感じてしまったり、ノートに印刷された日付欄が気になって集中できなかったり、書いているうちに行が変わってしまいまっすぐ文字を書けないといった悩みがあった。

「普通のノートを当たり前のものとして考えていましたから、ノートで不自由を感じている方が世の中にいるというのを全く知りませんでした。ノートでの困りごとを私たちが解決したい!という気持ちはすごく強かったんですが、お世話になっていたコンサルタントの方に『売れるかどうかわからないものに手を出すのは危険だ』と反対されたこともあり、会社で話し合った結果、予算の範囲内で制作して、売れなかったらすぐに止めるということになりました」

発達障害の人が使えるノートを。UnBalanceの協力も得て、当事者にアンケートを取りながら試作を重ねた。

情報が多いと辛く感じる人のためにシンプルな作りに。罫以外の印刷は省いた【画像提供=大栗紙工株式会社】

濃淡で行の区別をつける珍しいあみかけ横罫。書いている行がはっきりと識別でき、文字をまっすぐ書くことができるという【画像提供=大栗紙工株式会社】

「発達障害といっても特性は人それぞれ。それだけにまとめるのが難しかったですね。アンケートの結果もバラバラで、UnBalance代表の元村祐子さんにご助力いただきました。紙色は優しい色合いを13色用意したんですが、そのなかから支持の高かったラベンダー色とレモン色を採用することになりました。罫も幅や色をいろいろと提案して最終的にあみかけ横罫のものと太・細交互横罫を採用しています。情報を取捨選択せずにすべて受け取ってしまう特性の方は、情報が多いと疲れてしまうそうです。なので、シンプルなノートにしようということで、中面には罫以外は印刷していません。最初は紙の確保のこともありましたから、1色1種類で作ろうと思っていたんですが、人によって合う・合わないがあるので、レモン色は太・細交互横罫で、ラベンダー色はあみかけ横罫で作ろうということになりました」

当初、表紙のデザインも自分たちでやろうとしていたのだが、外部デザイナーに協力してもらった。

「販売するにあたってチラシを作りたいと思い、印刷会社さんにお話しをしたんです。そうしたら社長から『このノートはいいものだから、表紙を変えたほうがいい』とアドバイスをいただいて、その会社に所属されているデザイナーさんを紹介してくださったんです。デザイナーさんに入っていただいて本当によかったです。私たちが最初に考えていたものとは雲泥の差で。表紙の紙も少し特殊で、てからないような柔らかい手触りの紙なんですが、デザインでもそれが伝わるね、と会社のみんなで喜びました。それで、デザインが統一されていたほうがいいだろうということで、ECサイトのデザインなどもその方に依頼しました。今後の展開も見据えて自社ブランド『OGUNO』も立ち上げたのですが、そのロゴデザインもデザイナーさんによるものです。1930年創業の大栗紙工の歴史とノートの重なりをイメージしています」

自社ブランドの名前は「OGUNO(オグノ)」。“大栗のノート”からきているんだそう。ホームページの左上にはOGUNOのロゴを配置。会社の歴史、ノートを使い続けてほしいという思いを込めたデザインだ

これまで自社商品を持っていなかった大栗紙工では販路がない。そこで、自社ECサイトを用意。オンライン1本でmahoraノートの販売がスタートした。

「プレスリリースも配信したところ、関西圏の大手新聞社に取り上げていただけました。そのかいあって、ECサイトだけの販売でしたが、2月に発売して4月には増販することができたんです。あとは就労支援施設や特別支援学校に訪問したり、文具店にも紹介してもらったりしました。そうしたらある文具店さんが『いいノートだからもっと取り扱ってもらうほうがいい』と卸会社を紹介してくださったんです。そこから置いてくださる店が増えました」

デザイナー、卸会社と新たな縁を得て、mahoraノートは広まっていった。そして、発達障害ではない人からも支持を受けることになる。

「白内障の方や高次脳機能障害のある方が、mahoraなら文字が書けたという話をうかがっています。ハンディがなくとも、紙が厚めで滑りがよいので、疲れにくいということで使ってくださっている方もいます。mahoraノートが実店舗に置かれるとき、発達障害という文言を出さずに置いていることがほとんどなんです。それでも手に取ってくださっているのは、ハンディがある方に使えるものって誰にとっても使いやすいものになるからだと感じています」

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