「直観が確信に変わった」元Jリーガー経営者の目に映る、ダンスリーグ参入がもたらす可能性とは

東京ウォーカー(全国版)

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ブランド買取「なんぼや」の運営などを行うバリュエンスグループ。2023年2月に移転したばかりの、東京・南青山のオフィスを訪れると、真っ先に目に入るのは、壁の一部がガラス張りにされたダンススタジオだ。同グループは2022年、プロダンスチーム「Valuence INFINITIES(バリュエンス インフィニティーズ)」を結成。世界最高峰となるダンスのプロリーグ「D.LEAGUE(以下、Dリーグ)」に参入した。リユース事業を手掛ける同グループが、ダンスチームを運営するにいたった理由を、元プロサッカー選手でもある代表の嵜本(さきもと)晋輔さんに聞いた。その決断が「正しかったと証明されるのは数年後」なのだという。

バリュエンスグループ CEOの嵜本晋輔さん。高校卒業後、Jリーグ・ガンバ大阪に入団。その後、日本フットボールリーグのチームを経て2004年に現役引退。2011年12月にブランド品のリユース事業などを行う会社を設立した【撮影=三佐和隆士】

「これは来る」Dリーグ初観戦で感じた直観

――Dリーグに注目したきっかけを教えてください。
【嵜本晋輔】2021年に「KOSÉ 8ROCKS(コーセーエイトロックス)」というチームのスポンサーをさせていただいたことがきっかけで、開幕戦に招待いただきました。Dリーグのステージを初めて観たときに、衝撃を受けたんです。一人ひとりのストーリーや、人生をかける姿勢、パッションを、たった2分15秒のステージを通じて感じることができた。言葉にならない高揚感があって「これは来るな」と思いました。

【嵜本晋輔】ステージを観ながら、リスクを取って積極的に関わったほうが、自分たちの人生にも大きな意味があるのではと思いました。笑い話ですけど、開幕戦が終わってすぐに、一緒にいたスタッフに「Dリーグのチームを持つわ」と伝えました。

Dリーグの試合風景。「Valuence INFINITIES」は、ヒップホップとブレイキン(ブレイクダンス)の2ジャンルのダンサーがいるのが特徴(c)D.LEAGUE 22-23

――スポンサーとオーナーだとそれほど違うのですね。
【嵜本晋輔】スポンサーだと金銭的な支援はできても、チーム運営そのものにかかわるような体験はできません。(Jリーグの)ガンバ大阪は5、6年間スポンサーをしていて、たしかにPR効果は絶大でした。戦力外通告を受けたチームのスポンサーになるって珍しいことですしね。でも自分たちの成長という意味では、何も得られるものはありませんでした。

――ダンスチームを持つことに迷いや不安はありませんでしたか?
【嵜本晋輔】ありませんでしたね。やりたいという気持ちが強いタイプなんです。もちろん、その時点ではDリーグやダンスについて、理解していたわけではありません。でも、調べれば調べるほど、ダンスの持つポテンシャルが見えてきた。ダンスは言葉の壁がないし、それ自体がコミュニケーションと捉えられていて、間違いなく世界でも通用するコンテンツです。最初に抱いた直感は、どんどん確信に変わっていきました。

バリュエンスグループのオフィスに併設されたダンススタジオ【撮影=三佐和隆士】

スタジオを取り囲むように配置されたカメラ。あらゆる方向からパフォーマンスを撮影できる【撮影=三佐和隆士】

不可能とされていることをアクションで切り開く

――そこからどのように動き出したのでしょうか?
【嵜本晋輔】「行動あるのみ」と思って、「Dリーグの上層部とつなげてほしい」と周囲に頼みました。DリーグCOOの神田勘太朗さんを紹介してもらい、Dリーグの本社に行き、チームを持ちたいと直談判したんです。そこで、22-23シーズンに1チームを公募することが決まっているのだと言われました。そこから急遽プロジェクトチームを社内で立ち上げて公募に臨みました。

バリュエンスが運営するブランド買取「なんぼや」グループは全国に130店舗以上を展開。アスリートのサイン入りアイテムなどを出品するスポーツチーム公認オークション「HATTRICK」の運営なども行う【撮影=三佐和隆士】

――普段からすぐに行動することを意識しているのですか?
【嵜本晋輔】僕の周りは行動力のある人が非常に多くて、不可能とされていることを、アクションによって切り開く姿を目の当たりにしてきました。彼らから影響を受けて、自分も行動を起こすと、その行動が広がり、うまくいくことがわかった。その成功体験があったので、Dリーグ参入も可能性は低いと思ったものの、できるだけのことはやろうと思えました。

――運営するうえで課題や難しさはありますか?
【嵜本晋輔】まぁ勝てない。勝てなかった。昨シーズンは開幕5連敗、サイファーラウンド(円を作ってフリースタイルでパフォーマンスを行う)があり、少しいい風が吹きかけたのに、その次の試合も負けて6連敗してしまった。自分たちは、今までのDリーグにはないチームを作るというコンセプトで臨んでいます。やりたいことを貫くというのは、聞こえがいいですし、大切にしないといけない軸ですが、一貫性が生む制限もあります。そこに観客目線、顧客目線というものがないと、勝利は引き寄せられない。この1年で僕も勉強させていただきました。

ダンスチーム運営の「裏テーマ」

――ダンスチームの運営は、ビジネスにどのような影響を与えますか?
【嵜本晋輔】2012年から中学校の授業でダンスが必修科目になり、2025年にはおそらくダンス人口が1000万人を突破するとされています。世代は10代から20代が大半。観客の平均年齢が20代前半というスポーツって非常に少ないんです。だから、これからの未来を担う若者への認知度向上という意味では非常にいいですね。

2021年には、地域リーグ関東1部の南葛SCの経営に参画した。南葛SCは東京23区で初のJリーグチームとなることを目標としている【撮影=三佐和隆士】

【嵜本晋輔】裏のテーマでいくと、これからは、何かひとつのことに夢中になれる人材が、より活躍する社会になると思っています。ダンサーは好きなことを職業にして、毎日たくさんの練習をしてステージに立っている。練習からアウトプットのプロセスを見られることは、働いている社員にとって、自分の仕事のあり方を再発見するきっかけになります。ダンサーにとっても常に緊張感を持った練習ができる。そんな相乗効果を狙ってオフィス内にスタジオを作りました。

【嵜本晋輔】オフィスに入ってすぐのところにスタジオを設けたのも戦略的にやっていて、来社したお客様の目に絶対に飛び込む設計にしています。すると「あれは何か」って絶対に聞きますよね。そうやってコミュニケーションが生まれることで、社員はダンスチームに対する思い入れが強まるし、ダンスチームを持っていると知っていただいたことがきっかけで、ビジネスに発展する可能性もあります。ダンスチームが与える影響は計りしれません。投資対効果というチープな話はしたくありませんが、投資している以上の影響はもたらしたいと思っています。

「Valuence INFINITIES」の練習風景【提供=Valuence INFINITIES】

――ダンスチームを持つとなったときの社内の反応は?
【嵜本晋輔】最初は本気にしていなかったみたいですね。みんな、なぜダンスチームを持つのかがわからなかった。僕だってわからない。でも、わからないもののほうが大きなインパクトを生み出す可能性があるわけです。過去の事業を振り返っても、会議で反対意見があるほうが伸びると実感しています。確実なものは身銭を稼ぎ出すためのひとつの事業であり、目先のリターンは大きいけれど、自分はそれだけだと満足できない。「なんかおもろいことをやりたい」っていうのが、僕の最大のモチベーションです。だからバリュエンス インフィニティーズを持ったことが正しかったと証明されるのは数年後。それを証明するために、今はアクションしているという感じです。

「自分の決断が置きにいっていないか、思考を俯瞰して見ることを意識している」と嵜本さん【撮影=三佐和隆士】

――ダンスチームのオーナーとして実現したい目標は何ですか?
【嵜本晋輔】優勝させてあげたいですね。Dリーグはどのチームも素晴らしくて、それぞれのカラーがあるなかで、僕たちは僕たちのスタンスやカルチャーを、観客やジャッジに認めてもらえるにはどうすればいいかということを考えていきたい。勝つためにやっているわけではないけど、勝たないと意味がないとも感じています。また、観客はもちろんのこと、チームのメンバーが「バリュエンスと関わってよかった」と思ってもらえることが、僕の一番の目標です。

社員一人ひとりの可能性を広げる

――スポーツ業界に多く関与しているのは、ご自身のキャリアから来るものですか?
【嵜本晋輔】そうですね、サッカーをしていたから、南葛SCの経営に携わるなど現在もサッカーと関わり、「スポーツって最高だな」とあらためて思いました。利益だけを求めて既存ビジネスを伸ばしていくことは、会社としてつまらない。だから利益の一部をスポーツだけではなく、社会やカルチャーに還元していきたいですね。いつかサッカーチームを持ちたいという思いもあります。

――バリュエンスグループが推進している、デュアルキャリア採用もアスリート支援の一環からでしょうか?
【嵜本晋輔】デュアルキャリア採用は、コロナ禍で大好きな競技を諦めなければならないアスリートの方々を、バリュエンスが雇用することで問題解決できるのではないかと思ったのがきっかけです。彼らが競技に専念する時間を確保しながら働ける環境を提供し、現在は約20名のアスリートが働いてくれています。

2020年からデュアルキャリア採用を開始。アスリートは競技の時間を確保しながら、買取業務やオークション業務を行う【撮影=三佐和隆士】

【嵜本晋輔】会社愛であったり働きがいであったりを調査してみると、ほかの社員よりもデュアルキャリアの社員のほうが、数値が高いんです。これは僕の予想どおり。アスリートはあらゆる改善能力が高く、ひとつのことに夢中になれる力もある。それをビジネスに転用すれば、間違いなく活躍できると確信していました。

【嵜本晋輔】アスリートは「私は社会のことは何もわからない」って言いがちです。でも、僕はスポーツからビジネス界に転身して、ビジネスのほうが向いていることがわかった。どうしてそうなったかというと、自分の可能性を信じたからです。

【嵜本晋輔】そういった意味では、既存の社員にもデュアルキャリアを展開すべきではないかと考え、新卒社員がいろいろな部署を渡り歩くジョブローテーションを制度として6月からスタートします。自分はこの仕事しかできないと考えていても、実際にほかの仕事をしたら、その仕事のおもしろさに気づくかもしれない。自分の可能性を閉ざしているのは、上司でも会社でも、社会でもなく自分自身です。制度化して彼らの背中を押すことで、一人ひとりの可能性を広げられるのではないかと考えています。

この記事のひときわ #やくにたつ
・行動が可能性を切り開く
・自分が貫きたいことと顧客目線を掛け合わせる
・大きなインパクトは不確実なものから生まれる

【プロフィール】嵜本晋輔
1982年生まれ、大阪府出身。バリュエンスグループCEO。高校卒業後、Jリーグ・ガンバ大阪への入団と同時に関西大学に進学。戦力外通告を受け引退後、父のリサイクルショップで経営のノウハウを学び、2007年にブランド買取専門店「なんぼや」をオープン。2011年には株式会社SOU(現バリュエンスホールディングス株式会社)を設立し、代表取締役に就任。

取材・文=伊藤めぐみ、撮影=三佐和隆士

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