自宅から企業受付の接客。アバター活用に好感触「サステナブルな接客モデルをつくりたい」SPSの想い

東京ウォーカー(全国版)

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企業や施設の入り口での受付業務をする接客サービスは、訪れた人を笑顔にしてくれる仕事だ。訪れるたびに相手の気持ちをアゲてくれるありがたい仕事の裏側は、常に人から見られる業務であり、感情の抑制を求められるなど精神的な負担が大きいとも言われる「感情労働」なのだそう。こうした課題を抱える受付業務の未来が、もしかしたら変わるかもしれない。

今年(2023年)6月に、アバターを活用した企業受付サービスの実証実験が、サントリー田町オフィスにて行われ、リモートワークができる柔軟な勤務形態の実現と従業員の心身の負担軽減による健康的な働き方が模索されたのだ。今回は、実証実験を行った、サントリーパブリシティサービス株式会社(以下SPS)事業推進本部の阪井イサクさんに、実証実験とアバターがもたらす効果や新たなサービスなどについてお話を伺った。

サントリーパブリシティサービス株式会社 事業推進本部 課長 阪井イサクさん【撮影=阿部昌也】


文化施設のパイオニア的な存在「SPS」が切り開く道

ーーはじめに、SPSがどんな会社なのか、これまでの歩みも含めて教えてください。
【阪井イサク】1963年に、サントリー株式会社(現サントリーホールディングス株式会社)初のビール工場、『サントリー武蔵野ビール工場』(現「サントリー〈天然水のビール工場〉東京・武蔵野」)が竣工したことがきっかけとなり、製造工程を紹介する工場見学の案内を始めたんです。工場見学によって自社のビールのファンを増やす・育てるといった取り組み方は、当時としては大変画期的だったそうです。

【写真】『サントリー武蔵野ビール工場』(現「サントリー〈天然水のビール工場〉東京・武蔵野」)での工場見学の案内がSPSの原点


【阪井イサク】そして、1983年には会社体制となり、工場見学や民間企業のサービスで成長を続け、1986年には、サントリーホールの開業と同時にホールサービスも手掛けることになりました。これも業界に先駆けて、サービス面の開発を行っています。その後、サントリー以外が運営するコンサートホールや美術館などの文化芸術施設のサービスも手掛け、2003年9月に指定管理者制度が施行されると、自治体の施設や美術館の運営にも民間としていち早く取り組みました。

2005年に、美術館では全国初の「指定管理者」として島根県立美術館の運営業務を受託


【阪井イサク】会社設立40周年となった今年(2023年)1月には、我々が所属する事業推進本部ができました。今回の『AVACOM』の実証実験のように、次の新しい接客業のビジネスを生み出す部署となっています。このようにSPSは、接客における新たな道を切り開きながら、歴史の中でチャレンジングなことをやってきた会社なんです。

ーー御社は、親会社のサントリーから独立していますが、どういった立ち位置にあるのですか?
【阪井イサク】独立していますが、もちろんサントリーの仕事もやっています。そのなかで、工場見学や広報イベントの運営、マーケティング支援や人材育成の支援、お客様センターなど、「お客様との接点でグループを支援している」という位置づけになります。

サントリー工場見学のガイドツアーにて「オーディオガイドアプリ」を活用し、多言語化のニーズを解決した実績もある


ーーそういうお客様との接点という部分で、今回の『AVACOM』を使ったサービスの実証実験に発展しているわけですね。『AVACOM』とは、どういったサービスなのでしょうか?
【阪井イサク】『AVACOM』は、AVITA株式会社が提供するアバターのシステムで、遠隔接客をするような仕組みのひとつです。アバターのシステムを提供している会社はいくつもありますが、この『AVACOM』は、高品質なアバターを使って接客ができる仕組みが強みのひとつで、操作するオペレーターの瞬き・手や口の動きなど、しぐさがちゃんとシンクロして再現されるんですよ。お客様とのコミュニケーションをとるうえで、ほかのアバターではできないきめ細かいニュアンスを伝えられるところが魅力だと感じています。

シチュエーションに合わせたアバターが選べる『AVACOM』は、ユーザー目線で使いやすいUIが特徴


ーー完全にAIがお客様と一対一で、独自に会話する仕組みなのですか?
【阪井イサク】『AVACOM』の仕組み自体は、生身の人間が離れた場所から会話をしているので、AIがお客様に接客するわけではないです。でも、いずれそういう時代が来るでしょうね。

ーー今回、『AVACOM』を使った受付のサービスを導入するにあたり、きっかけになった出来事はありますか?
【阪井イサク】背景として、接客業を取り巻く環境の変化が挙げられます。最低賃金がずっと上昇していますし、今でも厳しい労働人口ですが長期的に見るとさらに減ると言われています。そして、テレワークができない業種であることもコロナ禍で浮き彫りになりました。

「接客業を取り巻く労働環境の変化を、デジタル技術を採用して解決できれば」という考えで『AVACOM』の導入が検討されたそう【撮影=阿部昌也】


【阪井イサク】そんななか、昨年末に「この新たな事業推進本部でどういったことができ、新しいビジネス開発として何をしていくのか、何がうちの会社にとっていいのか」と構想を練っていたんですね。そこで、弊社の強みが接客なので、こうした社会課題を考えたときに、デジタル技術を使って何かいい方向にもっていけないかと考えたのがきっかけになっています。

実証実験で見えた、アバター接客がもたらす可能性

ーー実証実験は、どのようにして行われたのでしょうか?
【阪井イサク】サントリーの田町オフィスで行いました。3回目の実証実験では、2つある受付にモニターをそれぞれ置いて、ひとりのオペレーターが2つの窓口を離れた場所から対応しました。アバターを介して、社外のお客様の打ち合わせへの対応や、オフィスに関する質問などの受付業務を問題なく行うことができました。

【阪井イサク】そして、接客が終わったタイミングで、スタッフが「どうでしたか?」とお客様にヒアリングしてアンケートに回答いただくという方法で、50名以上の方から情報収集しました。来社されるお客様に対して個別に告知はしていないので、ほとんどの方が、受付で「あ、アバターがある」と初めて気がついたと思います。特に不具合もなく、無事に実験を終えることができました。逆に、だからこそ、実際に拠点に導入して使っていけると判断することができました。

モニターに映るアバターを介して受付業務を行う、『AVACOM』を採用した実証実験の模様


ーー構想から動き出しまで、すごく速いスピードで動かれていますね。すでに3回目の実証実験を行われているのは驚きです。『AVACOM』を導入することによる、メリットや働き方についての狙いを教えてください。
【阪井イサク】これまでの接客サービスは、リアルの場での対面接客しかありませんでした。やはりスタッフ側からすると、コロナ禍においてさまざまな面での負荷がかかっていたんです。例えば、テレワークができず通勤しなければならないこともそうですし、対面接客でストレスがかかる場面も多々ありました。ですから、遠隔接客が可能になると、接客業でもテレワークができるようになり心身の負担軽減になります。さらに、時間的な制約や体の不自由な方も壁を乗り越えて働くことができるようになります。将来的には、自宅から接客するという形で仕事ができるようになると、働きやすさもかなり改善すると思っています。こういう部分が、『AVACOM』を導入する大きなメリットだと思います。

ーーひとつの拠点から、複数の受付を同時対応できるんですよね?
【阪井イサク】そうですね。コールセンターをイメージしていただくとわかりやすいと思うんですけど、東京のオフィスから大阪や熊本、札幌の受付などで、モニターを通して接客することができます。そこが大きな違いであり魅力だと思います。

『AVACOM』を採用すると、ひとつの場所から複数の拠点の受付業務を同時にこなすことが可能となる


ーー“受付の業務は女性の仕事”というイメージが根強くあるかもしれませんが、アバターだったら性別関係なく対応できますよね。
【阪井イサク】そうですね。本来でしたら、男性が受付を担当したからといってサービスに違いはないはずなんですが、残念ながら、まだ日本社会にはそういう固定概念が残っています。でも、アバターを採用することで表向きの性別が関係なくなるので、受付業務を男性が担当しても問題ないはずです。

ーー実験を行うにあたり、議論を重ねた点など教えてください。
【阪井イサク】そもそも受付の業務は、アバターを導入する想定でオペレーションを構築していません。ですから、それをそのままアバターなど遠隔接客に置き換えようと思っても、どうしてもオペレーション上、そのまま置き換えられない制約があるんですよね。人に何か手渡しするなど、今まで実際の行為が伴っていたところを遠隔接客するうえでどうやって解消していくか議論しながら、仕事のやり方自体も変えるようにしました。それによって初めて、アバターによる接客を行うことができるようになったという感じです。

ーーどんなところに苦労されました?また、実験中に力を入れた部分はありますか?
【阪井イサク】まず「受付がどんな業務をしているのか」を理解するというプロセスがひとつありました。スタッフに対して、事前に「どういう目的でやるのか」をちゃんと説明して、実証実験前のテストで理解する場を設けました。そして、完成された既存の業務をアバター化するにあたり、事前に最適化する作業を行いました。そういった準備に一番労力と時間をかけましたね。

【阪井イサク】3回目の実証実験のテーマが、“離れた場所から、2つの窓口をひとりの人間で問題なく対応できるか”というところだったので、お客様をお待たせしてしまったり、不快な思いをさせたりせずに、高品質なサービス・オペレーションを実現できるかに重きを置いていました。

実証実験前のテストに時間を割いて、業務のアバター化における最適化を行った【撮影=阿部昌也】


ーー実験前は不安も感じていたと思いますが、意外と反応がよかった部分はありますか?
【阪井イサク】そもそも、企業受付のようなカッチりした場所で、アバターのようなキャラクターが窓口対応すること自体、受け入れてもらえるのか、「ふざけている」と受け取られないか、そういう未知の不安もありました。でも、アンケートの結果によると、86%の方に好感を持っていただけたようでしたので、アバターだからといって不満を持たれることがなかったことは安心できました。この結果からも、弊社が求める高品質なサービスの接客に、『AVACOM』のシステムがちゃんと対応できることがわかりました。

ーー対応するオペレーターが、実際どのように感じていたか感想などありました?
【阪井イサク】やはり「対面での接客と比べてリラックスして対応できた」という声がありました。実際、現場では制服を着たり、身だしなみを整えたり、姿勢を整える必要がありますよね。さらに、お客様にいろいろな方向から見られているので、アイドルタイムでさえ気が抜けないそうです。そういうストレスになるような要素が多い業務でしたが、モニターを通して対応することによって、そういったストレスから解放されるようですね。「安心して業務に集中することができた」と聞いています。

ーー3回目の実験も終えられて、いかがでしたか?
【阪井イサク】遠隔であっても、遠隔で2つの窓口をオペレーションしても、リアルの接客と変わらない好感度のある接客ができたと自負しています。2回目のときは、不測の事態に備えて同じオフィスの会議室からリモート接客をしていたのですが、3回目の今回は、自宅から接客を試みました。さらに、2回目の1つの窓口対応から、3回目は2つの窓口を同時対応するトライアルへステップアップさせています。すべての実験を終えて、ネットワーク上のトラブルもなく、単純に接客をすること自体にお客様の印象として、何ら問題ないと受け止めました。

【阪井イサク】気になる声としては、対象がアバターのキャラクターになるので、「どこに目を合わせたらいいか悩む」という声も数%ですがありました。でも、さすがに人間と同じようにはいかないので、そういうのも慣れなのかなと感じています。

トラブルもなく実験を終えることができ安堵したという阪井さん【撮影=阿部昌也】


ーーあと、何回ぐらい実験を続ける予定ですか?
【阪井イサク】『AVACOM』導入可否の実験は、一旦これで終了となりました。今後のフェーズとしては、実際に拠点に導入したときに、今あるリアルな仕事を、このアバターの接客に置き換えていけるのか、ニーズやペインの探索、どういった業務だったら仕事が置き換えられるのかなどを検証して、これから下半期に取り組んでいきたいと考えています。

ーーということは、近い将来には実用化も視野に入れていると。
【阪井イサク】そうですね。まず、弊社の文化施設などの受付や窓口に、来年中には導入していきたいと考えています。ほかの業界を見ていると、例えば、駅の券売機だって何十年も前から対人ではないですし、改札に人がいないからといって不自然に感じることはないですよね。それは、文化施設においても同じようなことが言えるのではないかなと。でも、文化施設のチケットはすでにタッチパネルだけで買えますが、やっぱりお困りになる方がそれなりにいらっしゃるんですよ。ですから、そういったところにアバターなどの遠隔接客を通してサポートしてあげるというのが、この『AVACOM』のいいところだなと思います。

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