日本初!国産雑穀100%『雑穀ミルク』を生んだ、ポッカサッポロ若手社員のディレクション術とは

東京ウォーカー(全国版)

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ロングセラー商品『ポッカレモン』でおなじみの、ポッカサッポロフード&ビバレッジ。同社では世界的にも急成長している植物性ミルク事業にも注力しており、2023年3月6日に国産雑穀を100%使用した『雑穀ミルク~milletmilk〜(以下、雑穀ミルク)』を発売した。新ブランドの立ち上げを担当した𥽜夏美(はぜ・なつみ)さんは入社5年目。2019年に新卒で入社し業務用のサポートを担う営業統括部 フードサービス企画グループを経て、2021年秋にマーケティング部門へ異動。

マーケティング未経験ながら、配属直後から商品担当としてコンセプト立案から味、パッケージデザイン、プロモーションまで一貫して手掛け、1年半で『雑穀ミルク』をリリース。𥽜さんがこの商品に込めた想いと、長い歴史を持つ同社で活躍する若手社員の仕事観を聞いた。

今回お話を伺ったポッカサッポロフード&ビバレッジ マーケティング本部の𥽜夏美(はぜ・なつみ)さん【撮影=三佐和隆士】


日本ならではの伝統的な食材を継承していきたい

――『雑穀ミルク』とはどのような商品なのでしょうか?
【𥽜夏美】豆乳やアーモンドミルク、オーツミルクなどの多種多様な植物性ミルクが登場しているなかで、初めて国産雑穀を100%使用した植物性ミルクがこちらの商品になっております。雑穀というといろいろ種類があるのですが、そのなかでタカキビ、ハトムギ、イナキビという3種類の品目をブレンドした雑穀糖化液を使用している植物性ミルクとなっています。その他多くの植物性ミルク同様に、乳製品不使用・コレステロールゼロとなっており、味わいとしては雑穀の香ばしい風味を活かしながら、すっきりとした甘さに仕上げています。

【𥽜夏美】今回こだわったのは、国産の雑穀を100%使用しているという点です。昨今、さまざまな植物性ミルクが増えてきていますが、なかなか国産の原料にフォーカスを当てた選択肢はありませんでした。アーモンドミルクですと、主にカリフォルニアのアーモンドが使用されており、オーツミルクに関してはヨーロッパ産が多く、植物性ミルク=“海外のもの”という印象がある方もいるのではないかと思います。今回、日本一の雑穀生産量を誇る岩手県産の雑穀のみを使用させていただいており、日本ならではの植物性ミルクを作りたいという想いから生まれたのがこの商品となっております。

【写真】2023年3月6日に発売した『雑穀ミルク』。中身は無着色で、薄い小豆色は原料のひとつである“タカキビ”由来の色。乳製品不使用・コレステロールゼロの新しい植物性ミルク【撮影=三佐和隆士】


――岩手県産のみという点もこだわりがあるのでしょうか?
【𥽜夏美】実は岩手県は国内の雑穀生産量の約6、7割を占めており、県内生産者・農協・行政が一体となって良質な雑穀の生産に積極的に取り組んでいるエリアです。今回、『雑穀ミルク』を開発するうえで岩手県のJA(農業協同組合)の方ともコミュニケーションを取らせていただいたのですが、お話を伺うなかで雑穀は非常に魅力的な食材であることを感じ、より多くの方々にその魅力を知ってもらう機会作りやPRの面でお力になれるのではないか、ぜひ何かお役立ちしたいと強く思いました。そこで“雑穀を飲む”という新しい魅せ方を通じ、全国の方に雑穀の魅力を知ってもらうきっかけになれば……という想いを込め、味やデザインなど商品作り一つひとつの要素にとてもこだわりました。雑穀というのは炊飯の手間が基本的にあるので「その手間がなく摂取できる、飲めるというのはおもしろいですね、発売が楽しみです」とのお言葉をいただき、3種の雑穀の選定などのアドバイスもいただきながら、出来上がった商品となっています。

【𥽜夏美】パッケージの側面にも日本一の雑穀生産量を誇ることを記載しているので、これまで以上に認知が広がればうれしいと思っております。また「NIPPON FOOD SHIFT」という、日本が抱える「食」「農」に関わる課題に対しもっと考えていこう、知っていこうという運動のマークもつけていて、生産者の方々含め日本の農業を応援したい、日本ならではの伝統的な食材を継承していきたいという想いも込めている商品です。

パッケージカラーはタカキビ由来の液色を取り入れ、商品名の白背景や、緑色のアイコンが岩手県の形になっているところもこだわりポイントだと言う【撮影=三佐和隆士】


味にデザイン、納得いくまで試作を繰り返し完成

――では、『雑穀ミルク』の開発にいたった背景を教えてください。
【𥽜夏美】豆乳やアーモンドミルクなどが広がってきてはいますが、海外と比べると日本の植物性ミルク市場の成長スピードはちょっと遅いんですね。それはなぜかと考えたときに、輸入品の印象を受けることが手を伸ばす際のハードルを上げている可能性が少なからずあるのではないかと捉えました。同時に「国産」を訴求した商品やサービスが伸長しているという市場動向のトレンド感をつかんだときに、植物性ミルクのなかにも国産という選択肢があると、日本では意外と受け入れられるかもしれないと思ったというのが背景としてあります。

【𥽜夏美】そこで、日本ならではの食材で植物性ミルクにできるものはないだろうかとリサーチを始めたのが2、3年ほど前で、私が着任する前から開発部門が動き出していたものになります。やっと原料の調達や商品化といったところが見えてきた段階で、ありがたいことにタイミングよく現職に異動となり、そこからのコンセプト作りやパッケージデザイン、味作りなどゼロベースから担当しました。

【𥽜夏美】昨年の6月に一度、現地(岩手県)訪問はできたのですがコロナ禍でなかなか行けなかったこともあり、自分なりに雑穀を調べたり、岩手県のサイトから情報を拾ったり、あとはSNSで雑穀について調べたり……ということを積極的に行って、コンセプトを固めていきました。ただ、やはり実際に自分の目で現地を見たり、現地の方と対話した感覚が、商品イメージを具体化する肝になったと感じます。

【𥽜夏美】味付けに関しては、同期の開発部員とタッグを組み、雑穀の風味を生かしつつ、とはいえオーツミルクでもライスミルクでもない、雑穀ならではの味わいを引き出せるよう何度も試飲比較しながら作りました。またパッケージデザインに関しても、デザイン担当者と納得できるまで試作を繰り返しましたね。世の中にない商品なので、商品の魅力やおもしろさが伝わるよう検討を重ね何回も試行錯誤して完成したのが『雑穀ミルク』です。

すっきりとした甘さにほんのりとした香ばしさが特長の、食事の邪魔をしない味わい。納得のいく味になるまで、10回以上試飲比較したという。𥽜さんは「朝食のパンと合わせるのがお気に入り」とのこと【撮影=三佐和隆士】


――商品のコンセプトについて詳しく教えてください。
【𥽜夏美】中身のスペックとしてビタミンB1、B6、食物繊維入りで栄養成分的にも健康にお役立ちできる商品となっていることと、これを飲むことで岩手県の雑穀消費を応援することにもつながるという点がコンセプトのポイントです。この商品をきっかけに、日本の抱える食料自給率や農業人口の減少など、そういった部分にあらためて目を向けてもらえる機会の創出につなげられればと思っています。

【𥽜夏美】また、パッケージにはトレンドであるニューレトロのデザインを採用し、フォントや色などもどこか懐かしさを感じるような仕上がりにしています。古くから日本人の食生活を支えてきた雑穀を新しいカタチで楽しめるという素材の観点と、ニューレトロなデザインがマッチすると考えました。植物性ミルクはまだまだ若年層の認知が低く飲用している人も少ないため、そういう方に知ってもらうきっかけとして「デザインがよくてパケ買いした」という方が増えたらいいなと思いこのようなパッケージが完成しました。頑張りすぎずに健康を気遣ってほしいという想いから、ゆるいイラストを取り入れているところもポイントです。

自分自身の経験が仕事の軸になっている

――今回、メインのターゲットを若年層に設定したのはなぜですか?
【𥽜夏美】私も含めて、ミレニアル世代と言われる世代ですが学生のころからSDGsや環境配慮などの持続可能な社会の実現に関する学習をしていることもあり、応援消費で日本の農業を考えたり、植物性ミルク自体が動物性のものと比較して環境負荷が少なくサステナブル的な素材と言われているので、そういった環境への意識が高い若年層には共感を得られるのではないかと考えました。

――実際に、𥽜さんと同年代の周りの方もSDGsなどに対する興味・関心が高いと感じますか?
【𥽜夏美】そうですね、自分自身もそうなのですが、例えば着なくなった洋服をただ捨てるのではなく誰かに譲ったり、フリマアプリなどで販売したり、またはリメイクやリサイクルを積極的にするなど、日々の生活のなかで自然と意識している方が多いのではと感じます。なので、植物性ミルクを知り・飲んでもらうきっかけとして、SDGs的な視点でのコンセプトを備えた「雑穀ミルク」のようなアプローチは効果的なのではと考えました。学校での授業などもそうですし、文化祭での発表テーマが社会問題を取り入れる内容であったり、私の場合は栄養学を専攻していたこともあり、管理栄養士の国家試験の中でも環境問題や食品ロス削減といった情報に触れる機会が多かったので、関心が高いほうなのかもしれません。

――𥽜さんは学生のころから食品関係のお仕事をしようと考えられていたのですか?
【𥽜夏美】自分自身が昔からスポーツが好きで毎日のようにテニススクールに通っていたのですが、小学生のころに貧血症状に悩まされてテニスを我慢しなければならない時期があり、自分の好きなコトができないつらさを体験した際、健康や食の大切さを実感しました。そこから栄養学に興味を持ち、将来は食品メーカーなどで健康の役に立てる商品を提供したいと考えるようになり、就職活動でも食品関係に絞って探していました。

――では、入社後のご経歴について教えてください。
【𥽜夏美】新卒から2年ほどは営業統括部フードサービス企画グループで外食など業務用営業をサポートする部隊で営業担当者が商談等に使用する資料を作成したり、営業戦略を考えたり、ということをしておりました。2021年秋からマーケティング部門へ異動して、すぐ『雑穀ミルク』の開発に着手しました。

――すごいスピード感ですが、大変ではなかったですか?
【𥽜夏美】「マーケティングとは?」「市場や競合の分析方法」「ターゲティングとは?」といったことを、着任時のマーケティング研修で学びながらそのまま実践できたので、大変ではありましたが逆に良かったのかもしれません。いずれは商品開発に挑戦してみたいと思って入社しましたが、まさか3年目で実現するとは思わなかったので驚きました。研修やチームのサポートなどもありますし、社歴に関わらず挑戦させてもらえるのは有り難いですね。

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