50代は「一番大きな変化に最も近い」。明治がシニアのキャリア開発支援を始めた理由

東京ウォーカー(全国版)

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「人生100年時代」と言われる時代、50歳はちょうど人生の中間地点だ。食品大手の株式会社 明治は2022年10月、「『今さら』ではなく『今から』」という掛け声のもと、シニアのキャリア開発支援を50代の社員を対象にスタートした。どんな狙いがあるのか、50代は今後のキャリアをどう考えればいいのか、同社人財開発部の齋藤明敏さんと上田五郎さんに話を聞いた。

株式会社 明治の人財開発部D&I推進グループ専任課長の齋藤明敏さん(左)と人財開発部人財開発グループ専任課長の上田五郎さん(右)【撮影=三佐和隆士】


活き活きと活躍できる60代に向けて

――シニアのキャリア開発支援について、どのような取り組みか教えてください。
【齋藤明敏】キャリアデザイン研修、人事部員・人財開発部員とのキャリアデザイン面談、リスキリングの支援を、50代後半の社員400人以上を対象に行いました。従業員がシニア(60歳以上)となったあとも、活き活きと活躍していただくことは、会社や社会にとっても重要です。人生100年時代、活き活きと活躍できる60代に向けて社内外を問わず活躍していくためのアクションプランを立てる支援をしています。

【画像】シニアのキャリア開発支援は同社が進めるDIAMONDプロジェクトの一環。全社員の個性が輝き、多様な人財の融合から大きなイノベーションの創出を目指す【画像提供=株式会社 明治】


――具体的にはどのような支援をするのでしょうか?
【上田五郎】研修では、たとえば明治を卒業する日をイメージしてもらいます。そのとき自分がどうなっていたいか、60代はどんなことをしていたいか、そしてそれを実現するには50代で何をしたらいいのか。「バックキャスティング」という手法を取り入れて、アクションプランを立てる支援を行いました。研修受講後に行う面談では傾聴を基本にして、まずは本人の考えや希望を聞きます。そのうえで、当社の人財開発体系のなかで準備した、たとえば自己啓発系の通信教育や、動画で学習するコンテンツを、その人に合わせて提案することもあります。

人事部員・人財開発部員15人が3カ月ほどで400人の面談を担当。研修で立てたアクションプランのイメージが頭に残っている間に面談ができるよう、スピード感も大切にしていた【撮影=三佐和隆士】


――どんなスキルを身につけたいという人が多いのでしょうか?
【上田五郎】語学をもう少し頑張りたいという人は多いですね。あとは、資格取得のための勉強もありますが、PC関係のスキルアップやコミュニケーションスキルを高めたいという希望も比較的多かったです。

【齋藤明敏】この面談は基本的には1回ですが、2023年4月から「50代以上のキャリア相談窓口」を新たに設置し、さらなる面談の希望にフォローできる体制を確立しています。

研修や面談はすべてオンラインで実施し、北海道や沖縄、海外からもオンライン参加した【撮影=三佐和隆士】


――キャリア開発を積極的に勧めるというより、自分のキャリアについて考えることを促すという感じなのですね。
【齋藤明敏】そうですね。私たちは「キャリア自律」とよく言っていまして、自分のなかに答えがある、もしくは自分で答えを見出すことが、本人のキャリアプラン、ライフプランにとって重要なことだと思っております。たとえばプログラミングをやりなさいとか、DXをやりなさいと言ったほうが、成果があったかなかったかを判断するという点では、わかりやすいのかもしれません。しかし、自分のなかに答えがあるなら、「その答えを見つけ出す支援をすること」が重要ではないでしょうか。

施策後に50代のセミナー受講者が急増

――社会に出ると、キャリアについてじっくり考える機会は少ないかもしれませんね。
【齋藤明敏】特に50代の方たちは、長年会社に貢献していただいておりますので、やはりご自身のキャリアについて考えることは、優先度が下がっているかもしれません。

【上田五郎】私も齋藤も50代です。入社したころは正直言って「会社に入れば、あとは安心」「目の前の仕事をしっかりやっていこう」という考えの方がほとんどでした。今後、定年後の再雇用で会社に60代以上の層が増えると、必ずしも自分が望むような仕事を今後も続けていけるのかどうかわかりません。そういった背景もあり、「会社から与えられた仕事だけをやっていて本当に幸せなのか」「自分のキャリアをしっかり考えないと」と、おそらくみんなが研修を受けながら感じたのではないでしょうか。

定年後の役割が特に大きく変わる管理職には、一般社員よりも時間をかけて研修を実施したという【撮影=三佐和隆士】


【齋藤明敏】50代というと60代の一歩手前です。60歳で再雇用となれば、雇用形態が大きく変わります。また、役割や会社での立ち位置も変わっていきます。ある意味で一番大きな変化に最も近いのが50代ということで、支援をする必要があると感じております。

――支援をスタートしてから間もなく1年。どのような効果を感じていますか?
【齋藤明敏】今までは、会社に仕事をアサインされていた人たちが、自分のキャリアについて考えるとなると、けっこう大変なことです。研修や面談を受けたことで、「自分のやりたいことを言語化できたことが大きかった」「何をしたいか、すべきなのかを考えるきっかけになった」と言っている方が多かったですね。この施策の実施後は、社外の動画で学習するコンテンツの受講者における50代の構成比が、前年と比べて2倍以上に増えていました。また、自分のキャリアについて考える時間を持ったことで、頭のなかで漠然とモヤモヤとしていたことが明確化していったという声も、事後アンケートで寄せられております。

――どのような「モヤモヤ」を抱える人が多いのでしょうか?
【上田五郎】たとえば親の介護をしながら、どういうふうに仕事を続ければいいのか、という悩みはけっこうありました。せっかく人事部員が面談を担当しているので、「支援制度についてわからないことがあれば、何でも聞いてください」と伝えると喜んでいただけました。せっかくさまざまな制度があっても、それを知らずに悩み、退職にいたるとしたら本当にもったいないことです。今後も積極的に情報提供をしていきたいと思います。

上田さんは、菓子工場の事務方の責任者として働いていたころ、本社の人事担当者とやりとりした経験が、現在に活かされているという【撮影=三佐和隆士】


――シニアのキャリアというと、早期退職もよく話題に上がりますね。
【上田五郎】「早期退職」については、私たちは必ずしもマイナスのイメージを持っているわけではありません。たとえばこの会社を離れて事業を起こしたいとか、別の会社で頑張りたいと考える方には、手挙げ式の「ネクストキャリア支援制度」を用意しており、次の新しいキャリアに向けて支援しています。今回のキャリア開発支援では、会社に残る以外の選択肢を持つ人でも、磨きたいスキルがあれば支援しており、自分が納得できる形で、キャリア開発を進められるように支援を行っています。

――働き方が変化をしている時代において、今の20代、30代はどのようなことに取り組めばいいでしょうか?
【齋藤明敏】50代に比べると、20代、30代の方はキャリアに対する意識は高いと思います。大層なことはしなくてもいいので、たとえばお風呂に入ったとき、ひとりでお酒を飲んだとき、通勤電車のなかで、自分のキャリアで大事なことは何だろうと考える習慣をつけてみたらよいのではないでしょうか。

――何が大事かわかると、時代が変わっても迷わずに済みそうですね。
【齋藤明敏】何があっても捨てられない価値観を「キャリア・アンカー」といい、それが何かを探すことが大事なのかもしれませんね。

キャリア開発は「最適解」を探す

――今回の施策に関して、今後の展望をお聞かせください。
【齋藤明敏】昨年(2022年)は55歳以上の社員が対象でした。今年度(2023年度)は53~55歳の社員に対して、同じようにキャリア開発支援を行い、以降は、50代になる人すべてにこのキャリア開発支援ができるように進めていきたいと思います。

齋藤さんは、入社後、研究開発に15年携わり、その後特許やサステナビリティ推進の部署にも所属。現在はD&I推進に携わり「さまざまな部署で得た経験が自分の今の価値観に結びついているとあらためて実感した」と話す【撮影=三佐和隆士】


【齋藤明敏】受講者の負担を減らすにはどうすればいいか、研修でもっと気づきを得られるにはどうすればいいのかということは、昨年から議論をして、マイナーチェンジを重ねながら進めてきました。今後も実効性をより上げるためのマイナーチェンジは続けていきたいと思っております。大事なのは、完璧ではなくても、そのときにできる範囲のことを常にやっていくということです。キャリア開発支援には正解はない。でもそのときの最適解はどこかにある。その最適解が何なのかを常に考えながら進めています。

この記事のひときわ #やくにたつ
・訪れる変化に備えてプランを立てる
・キャリアについて考え、言葉にする習慣をつける
・自分の中で譲れない価値観を探す

取材=山本晴菜、撮影=三佐和隆士

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