上皇后様の使用も話題に!宮内庁御用の高級ビニール傘、「相合傘のできない傘は作りたくない」江戸時代から続く老舗傘メーカーのこだわり

東京ウォーカー(全国版)

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世界で最初にビニール傘を開発したのは日本の老舗傘メーカー「ホワイトローズ」だった。世界初のビニール傘を生み出し、現在唯一の国産ビニール傘製造メーカー・ホワイトローズは東京・浅草に会社を構える。カラフルな佇まいが特徴のホワイトローズの実店舗を訪ね、代表取締役の須藤宰さんに老舗傘店ならではの仕事観や、ビニール傘の性能や機能性について話を伺った。さらに、ビニール傘を皇室に献上するきっかけとなった、上皇后陛下からのリクエストに関するエピソードも披露してもらった。

享保6年創業のホワイトローズ。現在の代表取締役は10代目の須藤宰さん【撮影=オオノマコト】


使用感を追い求めるホワイトローズの仕事観と、唯一の国産ビニール傘が誇る高い機能性

――貴社の傘作りに対する想いを教えてください。
【須藤宰】空から降ってくるものから人間を守る道具といえば昔から傘なんですよね。いまだに人間は無防備なのです。現在は地下や屋根のある場所に避難するなど、比較的簡単に雨を避ける手段がありますが、場所によってはやはり傘が必要になります。特に日本人は傘を非常によく使う民族です。ですから、その傘がどこまで進化できるか、使用感や人を守る性能をどこまで追求できるか。これが私たちの仕事だと思っています。ただ、それだけであるなら、使い捨ての傘で十分かもしれません。

使用感や人を守る機能を追求し続ける姿勢こそが、傘職人として大切なことだそう【撮影=オオノマコト】


【須藤宰】しかし、私たちは、豪雨や豪雪、強風の中でも、それでも外出せざるを得ない方を守る方法を追求しているのです。そのために、深く傘をさしても視界が確保できる透明な素材で、完全防水で素材がよいということ、そして簡単に壊れてはいけないという考えがあるのです。壊れない傘を作ることはできませんが、完全にバラバラに壊れないよう工夫し、もし壊れた場合は修理できるようにしています。このような傘を作ることが私たちの考え方なのです。

――製品に備えられたホワイトローズならではの特徴について教えてください。
【須藤宰】うちのほとんどの傘には、逆支弁と呼ばれる穴が開いています。たとえば「カテール70 PRO」という大きな70センチの傘は、内部からの風が吹き抜けやすく、外からの雨が入りにくい構造になっています。通常、風が吹くと傘を斜めに持って歩くと思いますが、穴が開いていることで異なる方向からの風が来ても傘が暴れることはありません。傘がその状態を保つために風が通るように設計されています。

傘にかかる風圧を逃しつつ雨の侵入を防ぐ機能を持つ逆支弁は、すでに特許を取得済み【撮影=オオノマコト】


――それは空気力学的な研究所などで試験を実施されたりしたのでしょうか?
【須藤宰】安全試験所では本来、風速15mまでしかテストを行わないそうです。なぜ15mなのかというと、ほとんどの傘は15m以上の風速では壊れてしまうからだそうです。しかし、弊社では風速20mでテストを行っています。私たちの傘はその出力でのテストを受けて合格しているのです。

台風並みの強風にも耐えることができるビニール傘【撮影=オオノマコト】


――なるほど。台風では風速15m以上で強風域と呼ばれるので、台風の中でも壊れないということなんですね。
【須藤宰】そうですね。ですから、テレビの台風中継では、どの局も当社の傘を使用しないでしょうね。風の強さが伝わりづらいですから(笑)。

――実際にどれだけ耐えられるのかは、使ってみないとわからないですよね。
【須藤宰】その通りです。実際に使用してみないと、その耐久性は確かめられません。とにかく安心して外出していただくためのツールですね。

――商品のネーミングが、「カテール」とか「縁結」とか、すごくおもしろいなと思ったのですが、それらは須藤様が考えられたんですか?
【須藤宰】いえ、社内のみんなで検討しています。実は傘に名前をつけるっていうのは、業界では珍しいんですよ。一般的には記号や数字の品番で呼ばれていますから。うちの場合は新しいタイプができると、基本的に日本語の名前をつけて展開しています。これはもちろん、傘に対する愛着もあるんですけど、ネットで認知してもらうためのアイデアでもあるんです。1万円ぐらいする傘をこうやっってみなさんにお使いいただけるようになった大きなきっかけは、やっぱりインターネットなんですよ。

インターネットの普及も、国産ビニール傘の売り上げに貢献したそう【撮影=オオノマコト】


【須藤宰】うちの傘なんかは、この周囲5キロとか10キロの方に、どれだけ必要とされているか正直わからないです。恐らく1人か2人ぐらいしか欲しい人がいないんじゃないかと思うんですが、日本中ということになれば、もし一つの県に5、6人欲しい人がいれば「×47都道府県」の需要になるわけです。我々みたいな小さい傘メーカーでしたら、それはそれでロットになるわけです。これが実現できたのは、やっぱりインターネットのおかげです。もちろん首都圏や大都市に人口が集中している事実はあるので、顧客層で言えば東京、大阪、名古屋の方が多いことは事実です。でも、北海道でも九州でもお買い求めいただいているんです。そういうところの極めて小さいパイのお客様が支えてくださっているということですよね。

近くで大量に売れなくても、ネットを通じて各県で数本ずつ売れれば、それに匹敵する売り上げになるという【撮影=オオノマコト】


【須藤宰】そこで、インターネットの場合は、商品に名前がついているほうが検索しやすいわけです。ビニール傘で検索するとものすごい量の商品がヒットするじゃないですか。その中からホワイトローズの商品を見つけるのは非常に困難です。ですから、ホワイトローズの商品を検索の上位に表示するためには、戦略的に「縁結」とか「カテール」といった商品名があったほうがいいと考えたんです。ホワイトローズと検索しても化粧品や花が出てきますし(苦笑)。

――なるほど!一番売れ筋商品は、「カテール」になるんですかね?
【須藤宰】現在、最も売れている商品は「カテール16桜」と「十六夜桜」と呼ばれる16本骨のタイプですが、ただし地域によって異なります。たとえば首都圏では、折りたたみ透明傘「アメマチ シリーズ」という傘が非常によく売れていますね。

ハンドルに桜の木を用いた『かてーる16桜』(1万1000円)は、エレガントな雰囲気【撮影=オオノマコト】


――現在の生産量はどれぐらいですか?
【須藤宰】現在は、年間で1万本から1万1000本ぐらいですね。そのため、それがすべて売れてしまうと商品がなくなってしまう可能性があります。雨の日が少ない年は残りますが、首都圏などで雨が降ると急に売れることもあります。1年分を一度に作るのではなく、月ごとに1000本から1200本ずつ作っていくので、その年の状況で調整しています。

修理を経て進化する、ホワイトローズの堅実な品質革命

――1万円前後の高級なビニール傘ですが、修理も可能なのでしょうか?
【須藤宰】うちは修理を積極的に行っていますが、普通の傘屋さんよりも修理件数は少ないです。それは、丈夫な傘として作っているため、修理が必要なケースが少ないのです。一般的に傘は骨が壊れやすいのですが、うちの傘は骨が頑丈なため、骨の修理はほとんどありません。透明なカバーの部分は長く使用すると小さな傷がつき、白っぽくなることがありますので、その意味でもカバーの交換を行っています。通常の傘ではカバーの部分を交換することはありませんが、うちの傘は骨が丈夫なため、使い切るまで使ってもらいたいという考え方です。それに、お客様がいろいろな使い方をされると思わぬ形で壊れる可能性があるんですよね。そういう壊れ方は、修理をしないと傘の弱点がわからないので、修理を通してその傘の改善点を見つけ、次回作るときに反映しています。

ホワイトローズでは、修理から傘の弱点を学び、傘のアップデートに役立てているそう【撮影=オオノマコト】


――修理を通して、具体的に何か新しい発見がありましたか?
【須藤宰】傘のビニール素材についてありました。塩化ビニールの問題点に対するお客様の声を反映し、ポリエチレン系の多層フィルムに切り替えました。また、新素材に合わせて骨やその他の部分も見直す必要があったので改良しています。特に大きな傘は風の影響を受けやすいため、骨の補強なども必要になってくるんですよ。例えば、選挙用の大きな傘は風の強い状況下で使われることが多いため、修理を行うと骨の部分の補強が必要だとわかります。お客様には修理箇所はわからないかもしれませんが、私たちは修理を通じて傘全体を見直しています。

――常に研究されているんですね。
【須藤宰】うちの傘は売ることよりも、使ってもらうことを考えた傘なので、一般的な傘と比べると販売条件を満たしていません。傘を買う際の条件には、色や柄、価格が挙げられますが、うちの傘には色や柄もなく値段も高いので、これらの要素は無視しています。リピーターの方が愛用してくださっているのは、雨や嵐の際にも安全に外出できたからだと思います。そういったご自身の経験から、贈り物として利用されたり、新しいものを購入していただいたりしています。

皇室との交流から生まれたアイデアで誕生した、日本の文化を体現したビニール傘

――ビニール傘を当時の皇后(現・上皇后)様がお使いになって話題となったそうですが、いつのことですか?
【須藤宰】平成22年ですね。かなり驚きのある出来事だったので、多くの宮内庁ウォッチャーのメディアに取り上げられました。「なぜ美智子様がビニール傘を使用されたのか」というストーリーに、どのメディアも非常に興味があったようですね。使い捨てでゴミになりやすく、環境に負荷をかけるイメージが強い傘を、老舗傘店が特別に作ったというエピソードは注目を浴びるチャンスとなりました。実際に美智子様がそのような傘をご希望されているという内容が記されたFAXが、宮内庁から届きました。

――傘のご希望に関するやり取りは何回ぐらい?
【須藤宰】実際に美智子様と直接お会いしたわけではなく、すべて宮内庁を通じたやりとりですが、写真やFAXを受け取り、それを基に試作品を作って確認してもらい実物を提供しました。実際には1本か2本のやり取りだったと記憶しています。そして、5年後にもまたリピートでお作りすることになりました。ただ、うちにとっては、美智子様がお使いになってくださろうが、一般のユーザーの方が使おうが、誰が使うのかが重要なのではなく、傘を手にした人が濡れずに安心して外出できるようにすることが大切なのです。

【写真】園遊会で美智子様がビニール傘を利用されている写真は、店で見ることができる【撮影=オオノマコト】


【須藤宰】美智子様がビニール傘をお使いになりたいと思われたのは、お車から降りられる場合に多くのギャラリーの方がお待ちになっているような場面が多いからです。車から降りた段階から見られる状況になるので、通常の傘をさしていると、お顔が隠れてしまう可能性があるとお考えになられたのだと思います。一種のサービス精神のようなものですね。プライベートでは布製の傘をご使用になられていますが、メディアやある種のイベント、または園遊会など、みなさまがお待ちになるような場面では、可能な限り360度見渡せる状態が必要だと思われたと聞いています。それでビニール傘をご所望と伝えられ、「どんなものですか?」とお伺いしたところ、雑誌のグラビアなどから切り抜かれた恐らくフルトン社のビニール傘の写真が添えられてきました。きっと海外に行かれた時に「バードケージ」をご覧になったのでしょう。それが頭の中に残っていらっしゃったのだろうと思いました。

――貴社で生まれたビニール傘が、アメリカからヨーロッパに渡り、巡り巡って戻ってきた感じですね。
【須藤宰】そうですね。ただ、弊社が開発した傘ではあるんですが僕は「バードケージ」が嫌いなのでもう作っていないんですよね。理由は「この傘は相合傘ができないから(笑)」。僕は相合傘のできない傘は絶対に作りたくないんです。「バードケージ」は個人主義の傘で、ひとりの人間が自分だけ雨から濡れないようにするための傘なので、情緒がなくてつまらないじゃないですか。なので過去に私たちが製作した「バードケージ」をそのまま再現するのではなく、中途半端に深い傘をデザインしてお渡しさせていただきました。すると、今度はご退位の際に偶然雨が降り、上皇陛下が美智子様と相合傘でご案内されている写真を見かけたんです。上皇陛下は、美智子様を気遣われて半身びしょ濡れでした。でも、その上皇陛下が美智子様を濡らさないように傘を差し出す光景が、私にとって「これこそ日本の文化」だと思えたんです。あの形でよかったと安心しました。

上皇様が優しくビニール傘を差し出すシーンを紹介した記事【撮影=オオノマコト】


【須藤宰】実は、傘に穴が開いているという特徴は、この傘を作る際に宮内庁の方からの指摘に基づいて開発されたものだったんです。美智子様が肩に傘を乗せた姿勢を崩さず、かつ顔がよく見える状態を保つ必要がありました。それを考慮して、傘の大きさについて検討し、風の影響を軽減する方法として穴を開けることが考案されたんです。穴があることでほかの傘とは異なるディテールになりますが、一見してはわからないようなデザインになっています。実際には8カ所に穴が開いていて、これは当店の特許であり、他社の傘とは異なる特徴と言えますね。

――今後の新商品や改良のご予定はありますか?
【須藤宰】次については「どうしようか?」というよりも、「次は何をすべきか?」という検討をしています。私は定期的に百貨店の売り場に1週間立ち、直接お客様と対話する機会を設けているんです。そこで聞かれるのは日傘についてなんですよね。うちは透明な傘しか製造していないのに、お客様から「これは日傘として使えますか」と尋ねられることがあります(笑)。「透明なので日差しを遮ることはできない」と説明すると、理解される方もいますが、なかにはそれでもなお質問される方もいるんですよ。それだけ聞かれるということは、現在販売されている日傘に対する不満や疑問があるのではないかと考えられます。このような興味深い質問から、視界が確保できる日傘をつくりたいなと模索しているところです。

須藤さん自らが売り場に立ってお客の声を聞き、傘の開発のヒントを得ている【撮影=オオノマコト】


【須藤宰】考え方は雨傘も同じですが、視界が遮られる雨の日に、目の前にカーテンのようなものを掲げて歩くのは危険です。自転車や最近増えてきた電動スクーターなどが歩道を走行している状況では、事故につながる可能性が大いにありますから。ですから、雨天だけでなく日差しの強い日にも、少しでも前方が見えるといいと思っています。最近の日傘の機能には、UVカットだけでなく遮熱効果も重視されています。そのため業界では、熱をどれだけ遮断できるかが競われています。素材はますます光を通さない暗い生地の方向に進んでおり、表面が白く裏面が黒い素材が好ましいという大学の研究結果も発表されているんです。でも、本来の日傘は麻などでできており、見た目も涼しげな印象を与えてくれていたと思いませんか?暑い日に、風鈴の音を聞いたりするのと同じで、夏の風物として日傘には価値があると私は思います。そういうわけで、今ビニール製の日傘を開発しているので、完成するのを楽しみにお待ちください。

享保6年創業のホワイトローズ。現在の代表取締役は10代目の須藤宰さん【撮影=オオノマコト】

世界初のビニール傘を生み出し、現在日本に残る唯一のビニール傘製造メーカー・ホワイトローズは、過去の栄光に満足することなく、また国内唯一という現状維持に重点を置くわけでもなく、日々「傘を手にした人が安心して外出できるように」を考え、新しい商品開発に挑んでいた。創業は江戸時代の老舗傘メーカーは令和の現代もなお、“挑戦者”の顔をして業界に新風を巻き起こそうとしている。

この記事のひときわ #やくにたつ
・“売るための商品作り”ではなく、“使う人のための商品作り”をする
・デザイン性ではなく、見た目には見えない“使い勝手”や“性能”を求めるコアな客層をつかむ
・顧客の声を耳を傾け、「ビニール製の日傘」という無理難題にも挑戦し、商品開発につなげる
取材・文=北村康行、撮影=オオノマコト

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