40代向けのブラジャー、何が違う?乳がん闘病をきっかけに生まれたランジェリーブランドのこだわり
東京ウォーカー(全国版)
40代で乳がんを患った。闘病中は肌に負担をかけないノンワイヤータイプのブラジャーを着けた。数カ月間の治療が終わり、お気に入りのワイヤー入りブラジャーを着けてみると変化を感じた。「快適な状態を覚えてしまったので、ワイヤー入りのブラジャーが痛くて苦しくて――体が受けつけなくなっていました」
株式会社ウインビー(兵庫県豊岡市)の山本しのぶさんは、自身の経験をきっかけにノンワイヤーブラジャーの開発に挑んだ。ランジェリーブランド「ONUMORE(オンユーモア)」のメインターゲットは、バストに変化を感じ始めた40代の女性。もともとランジェリーが好きだった山本さんは、快適さだけではなく、補正力やデザインにもこだわった。開発の経緯やブランドが目指す未来について話を聞いた。
※正しくはブランド名の「ONUMORE」の「U」は上にマクロン記号が付く
「快適さ」「補正力」「美しさ」を兼ね備えたブラジャーを
日本一のかばん生産量を誇る豊岡で、かばんの生地の卸売業を営む株式会社ウインビー。山本さんは20年以上、経理や総務の仕事をしていた。同社の代表は「女性も積極的に表に出て輝いてほしい」「コア事業のほかに、新しいことにも取り組んでいきたい」と考えていた。山本さんは「新しいことといっても、なかなか思いつくことがなかった」と振り返る。そんななか、病気が発覚した。
「病気がわかる前は、ランジェリー選びはデザイン重視。でも闘病中に負担をかけないブラジャーを探してみると、スポーツブラのようなものしか見つかりませんでした」
闘病をきっかけに、何十年もブラジャーで自分の体を締め付けていたことに気がついた。そこで「快適さ」「補正力」「美しさ」を兼ね備えたブラジャーの開発を代表に提案した。
「年齢を重ねると、体にいろいろと不調が出てきますが、バストも例外ではありません。肉質は柔らかくなり、肌はだんだんと敏感になるので、ずっと使っていたワイヤーブラでは、痛みやかゆみを感じるという40代の方は多くいらっしゃいます。『オンユーモア』は、そういった変化を受け入れつつ、それでも美しさを妥協したくないという女性をターゲットにしています」
開発に2年、“ワガママ”を詰め込んだノンワイヤーブラ
かばんとランジェリーでは、使うミシンも糸も違う。ミシンを卸す地元の企業に相談すると、栃木にある縫製工場を紹介してもらった。工場の担当者とオンラインで顔合わせをすると、「ノンワイヤーは難しいですよ。我々も永遠のテーマ。それでも本当に作りますか」と開口一番に言われた。
「自分の病気のことや、商品を作ってみなさんにお届けしたいという想いを伝えると、ご快諾いただけました。でも、当時の私は下着の知識もなく、好きに毛が生えたようなもの。プロである工場の方や企画の方に、作りたいものをうまく伝えることができませんでした」
下着はパーツも小さく、ほんの数ミリの差でも着用感に違いが出るという。何度も試作とフィッティングを繰り返すものの、納得いくものはなかなかできなかった。
そんな状況を変えるきっかけになったのも「人の縁」と山本さん。当時、ランジェリーに使用するレースを扱う会社とも話を進めていた。開発の話になったとき、壁にぶつかっていることを打ち明けると「いろいろなブランドの開発を手伝ってきた方がいる」と紹介された。
「その方にもやはり『ノンワイヤーは本当に難しいけど、それでもやりますか』と言われました。私が想いを伝えると『じゃあ、やりましょう』と協力いただけることに。それまで言葉ではうまく工場に伝えられなかったことも、具体的な数値に落とし込みながら開発を進めることができ、2年かけてようやく完成にたどりつきました」
できあがったブラジャーの工程数は「一般的なものの倍近く」という。「工場の方に『勘弁してくれ』『もう無理です』と言われても『それではみなさまにお届けできないんです』とお願いしました。私の“ワガママ”を、携わってくださった方々に形にしていただいて、できあがったランジェリーです」
ランジェリーを通して「快適で過ごしやすい社会」に
繊細でエレガントなデザインを実現するためにリバーレースを使用。ワイヤーを使わずに立体的なラインをつくるため、胸の広がりを抑える「三日月パネル」や独自のリフトアップ設計を採用した。さらに自社倉庫にあった余剰在庫を使用し、環境への配慮もなされている。
「廃棄するにもコストがかかるし、環境にも負荷をかけてしまいます。ブランドを立ち上げる際に余剰在庫を活用できないかと考えました。開発業者の方と倉庫を1日中歩き回って見つけたのが、かばんに使うナイロン芯です」
このナイロン芯を使って、カップ容量を調整できる「バナナボート構造」を開発。バストの形は一人ひとり違うが、「バナナボート構造」で調整することでフィット感を高められるという。さらに「体にぴったり合うものを、長く愛用していただきたい」と、購入前・後を問わず、アンダーをカットするお直しに有料で対応している。
豊岡市の本社では、商品を手に取れるサロンを設けている。試着した人は「ノンワイヤーだから期待していなかった」と、補正力やデザイン性の高さに感動する人が多いという。現在の主な販売窓口はECサイト。「ノンワイヤーで大丈夫かな」という不安の声を受けて、試着用サンプルの貸出サービスも開始した。実際の商品を試着用として送るため、サイズや補正力だけでなく、デザインや手触りなど細部まで確認できる。
オンユーモアのコンセプトは「Love my gender. 『喜び』と『嬉しさ』をあなたにONする」。山本さんは「すべての女性が無理することなく、自分のジェンダーを認めて、お互いを尊重し合える。少し大きなことですが、ランジェリーを通して、快適で過ごしやすい社会を実現できたらいいなと思っています」と話す。
「現在はショーツやスリップなども含めて4アイテムの展開ですが、今後はお客様の声を聞きながらアイテム数を増やして、『オンユーモアなら季節やシチュエーションなどに応じたアイテムがすべてそろっている』と思ってもらえるように頑張ります。また、ポップアップや常設店など、気軽にフィッテイングしていただける場所も増やし、みなさまの側にあるブランドになっていきたいです」
この記事のひときわ
#やくにたつ
・壁を乗り越えるカギは「熱意」と「人の縁」
・妥協しない商品づくりがユーザーの感動につながる
・ユーザーの不安に寄り添うサービスを提供する
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