フードロス、貧困の深刻化、誰もがホームレスになり得る現代…パンを焼かない夜のパン屋さんが解決の糸口を探す

東京ウォーカー(全国版)

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パンを焼かないパン屋さんがある。そのお店の名前は『夜のパン屋さん』。パン屋から売れ残りのパンを集荷し、夜に再販売するスタイルの店舗だ。自分たちでパンを焼くことはない。しかし、その店の店頭には、都内のみならず全国各地の協力店舗のパンがにぎやかに並び、会社帰りの人たちをはじめとする客がパンを求めて集まってくる。その背後には、枝元なほみさんの深い社会貢献への想いがあった。

料理研究家としての顔を持ちながら、認定NPO法人ビッグイシュー基金の共同代表も務める彼女は、食を通じて社会問題にアプローチしている。2020年10月16日、世界食料デーにオープンしたこのユニークなパン屋は、フードロスの削減だけでなく、雇用の創出や地域コミュニティの形成にも寄与する。さまざまなパン屋で売れ残ったパンを集め、それを夜に再販売することで、そこに雇用の機会を生み、小さな収入源となって人々を支える一助となっている。今回は、長年、ホームレスだけでなく、生活に困窮する多くの人々の支援に目を向け、彼らが直面するさまざまな問題への対応を模索し続けている枝元さんに話を聞くべく訪ねてみた。そして、誰もがホームレスになり得る現代社会のリアリティや、ホームレスや生活困窮者への支援の現実、さらには『夜のパン屋さん』が人々に与える影響などについて話を伺った。

枝元さん(右から2人目)と、販売スタッフたち【画像提供=夜のパン屋さん】


『夜のパン屋さん』から見た、誰もがホームレスになり得る現代社会のリアル

ーー多くのホームレスや生活困窮者を支援してきた経験から、その数の推移にどのような変化が見られますか?
【枝元なほみ】ビッグイシューが始まったとき、ホームレスの人たちっていうと、やっぱり年配のおっちゃんたちっていうイメージが強かったと思うのね。でも、最近は変わってきました。若い人や女性の方も増えてきていると思います。コロナの影響もあって、表には見えにくいけど、困窮している人が増えている気がする。渋谷ホームレス殺人事件に着想を得たという、映画『夜明けまでバス停で』を見ました。女性の困窮って本当に見えにくいと思う。映画はバス停で寝泊まりするホームレスとなった女性の話なんですが、ふとしたことで誰もがホームレスになり得るのだと思います。

【枝元なほみ】それと、なんだか貧困の形が多様化していると感じます。たとえば、私の周りの、派遣で働いている友達に話を聞くと、賃金が低くて、働き方がすごくブラックなんだって。やはり格差は見えにくいです。だから、ビッグイシューとしては、ただ単にホームレスの方々をサポートするだけじゃなくて、生活に困っている人たちが持つ多様な問題に対しても目を向けていかないといけないんだなって思います。年齢や性別、そしてさまざまな背景を持つ人たちが一緒になって、それぞれの問題に対処できるような、そんな支援の形をこれからも模索していきたい。だって、社会っていうのは、誰もが安心して生きていける場所であるべきだから。

ーー人がホームレスの状態に陥る主な理由は何だと考えられますか?
【枝元なほみ】人がホームレスになる理由って、いろいろありますよね。アメリカだと、家賃の高騰や、仕事を失うことが直接のきっかけになってるケースが多いみたい。でも、それだけじゃないの。ビッグイシューを始めたころ、編集長の水越さんから聞きました。「ホームレスって、その人が他者との関係性を失った結果なんですよ」と。本当にそのとおりだと思いました。たとえば、友達や家族とのつながりがあれば、一緒に住むとか、支え合うとかできる。でも、そういう関係性がなくなっちゃうと、人は孤立していく。だから、ホームレスになるっていうのは、個人の問題だけじゃなくて、社会的な問題でもあるんですよね。特にコロナみたいな大きな変化があると、人とのつながりが希薄になりがちで、そうすると、より一層、人は孤立しちゃう。

【枝元なほみ】この活動を通じて働いてくれているビッグイシューの販売者さんたちは「ロスジェネ」世代です。売れ残ってしまったパンを「ロスパン」と呼ぶんですけど、ロスって食べ物だけの問題じゃなくて、人にも当てはまるんだなって深く考えさせられました。朝焼かれたパンが、一日中華やかに売り場に並んで、「おいしそうね」とほめられても、結局売れ残ってしまったら捨てられてしまう。でも、そのパンを焼いた人は決して捨てるために焼いたわけじゃない。これって、完全に人間の経済の都合。そう思ったら、「冗談じゃないよ」って思えたんです。人の価値も、パンと同じで、時の運や経済的な都合で決まることが多いなんておかしいなって思う。自分がもしも別の時代に生まれていたら、全然違う人生を歩んでいたかもしれないし、バブル時代のように違う経済状況だったらまた違ったかもしれない。人の人生って、本当に予測不可能ですよね。パンにしても人の命にしても、持っているものを、全うしたいと思うんです。

入荷するパンや店は日ごとに違うので、どんなパンが入荷しているかは、来店してからのお楽しみ【画像提供=夜のパン屋さん】


ーーホームレスの方々や生活困窮者に対する『夜のパン屋さん』の影響について教えてください。
【枝元なほみ】若い人たちも「今、貧困問題が深刻で大変だ」と感じていますよね。特にビッグイシューで雑誌を販売したいって言ってくれる若い人たちと話してると、彼らはちょっとしたことで生きる希望を失いやすいみたい。それに比べて、ある程度の年齢の人たちはなんだかんだでたくましいよね。命を軽く感じているような若者たちを見ると、心が痛みます。夜のパン屋って、儲かるわけじゃないけど、もっと大切な何かを探している。私たちは、余ったパンを決して捨てない。食料配布所に持っていったり、誰かの胃袋に届けたりして、絶対に捨てたくない。どんなに小さなものでも、最後まで大切にする。それが、人にも通じることだと思うんです。

【枝元なほみ】このやり方は、大量生産、大量消費、大量廃棄のサイクルから一歩踏み出すことだと思ってる。作られたものすべての命を全うさせるような、食べ物にしても人とのつながりにしても、そういう仕組みを作りたいんです。お金を稼ぐことも大事だけど、それだけがすべてじゃない。人と人とのつながりや、物事を大切にする心が、これからの主流になるべきだって強く思います。私たちのやってることって、工業化されたものと違って、もっと人間味のある部分に触れることができる。たとえば、ビッグイシューの販売者さんも、「こんにちは」って声をかけてもらえるだけで、その1日を乗り越えられるような勇気が湧くって言ったりする。私もそう思んです。みんながちょっとしたことでイライラしたり、利益を追い求めるなかで、「今日はいい天気だね」とか「花粉が多いね」といった些細な会話で、つながりを感じたり、ほっとした気持ちを味わったりするのでは?と思います。

ーー人とのつながりが希薄になっている今だからこそ、夜も開いているパン屋さんは特別な存在になっていますね。購入者からの反響はどうですか?また、パンを提供しているパン屋さんの声についても聞かせてください。
【枝元なほみ】私たちは、パンの「セレクトショップ」みたいなものだと思ってます。たとえば、北海道の小さな人気のパン屋さんの場合、冬になって雪で客足が遠のいたときに、「冷凍して送れますよ」と言ってくれました。それを聞いて、みんなで「雪が降ったら、パンが来るね!」って喜んだの。パン屋さんたちも、自分たちのパンをもっと多くの人に知ってもらえることを喜べるし、お客さんたちも、いろいろな場所のパンを味わえることを楽しんでくれる。リピーターの中には「私はこのパン屋さんが好き」というファンも多いんです。パンを通じて、さまざまな人と人とのつながりを感じられるのは、心がほんわかするうれしい出来事です。

【画像】『夜のパン屋さん』のパンは、店舗ごとに袋詰めされたセットで販売される【画像提供=夜のパン屋さん】


ーーお客さんにはもう、お気に入りのパン屋さんができているんですね。
【枝元なほみ】そう、お客さん一人ひとりが、たとえば「ここのクリームパンが好き」とか、自分の好きなパンを見つけていることが、本当におもしろいですね。

『夜のパン屋さん』から生まれたプロジェクト『夜パンカフェ』が復活。“お福分け券”で実現する、誰もが参加できるコミュニティの構築へ

ーー『夜のパン屋さん』を拡大する予定はありますか?他の地域での展開についても教えてください。
【枝元なほみ】2022年の12月から合計13回開催した『夜パンカフェ』が今度復活します。もともとは、『夜パンB&Bカフェ』として、車のミニクーパーで知られているMINI Japanが開催した『BIG LOVE ACTION』という、社会的な事業をサポートするプロジェクトの一環として選んでもらった企画でした。

昨年(2023年)まで開催されていた『夜パンB&Bカフェ』の様子【画像提供=夜のパン屋さん】


【枝元なほみ】プレゼンをする機会があってね、スティーブ・ジョブズみたいにやってみたのかな?なぁんて(笑)。そのプレゼンには、審査員になんと、ひろゆき(西村博之)さんと成田悠輔さんがいたんだよ。信じられる?それで、私は「絶対に“立て板に水”みたいなジョブズ式はしないぞ!」と心に決めてね。結果、成田さんから「変わっていますね」と言われたけど、サポートの資金も獲得できました。そのとき、MINI Japanから「どんなサポートが必要ですか?」って聞かれました。それぞれの団体にとって必要なものは違うから、すごくいい取り組みだなと思った訳です。通常は賞金や物品で終わるけど、「車は要らない、駐車場代が払えないから」ということもあり。でも、彼らはちゃんと私たちの要望を聞いてくれて。『夜パン』の販売だけでなく、お客さんともっとゆっくりつながりたいって思っていたから、カフェをやりたいと話したんです。それで、MINI Japanからのサポートで月に1回のカフェを1年間やることになりました。カフェすごく“いい場所”になりました。

ーー満を持して、復活されるんですね。
【枝元なほみ】そうそう。2024年4月から再開するんだ。練馬にある築150年の古民家「けやきの森の季楽堂」でやるんだけど(※2024年4月13日に開催)、本当にすてきな場所なの。マルシェを開いて、パンだけじゃなく、お野菜やお花も売る予定で、食べ物も提供する。その古民家では、縁側にみんなが座って、いい時間を過ごせるんですよ。そこにいると、庭でぼーっとしていても、隣の人に「こんにちは」と声をかけたり、子どもたちが走り回っている姿を見たりして、とてもいい雰囲気。庭が土なのも、その場の雰囲気に合っていてね。自然がどれだけ人を癒すかって、じんわりと感じます。

野菜を販売するマルシェも開かれる【画像提供=夜のパン屋さん】


【枝元なほみ】あと、お金がない人でも参加できるように、“お福分け券”というのを用意してるんだ。これは、訪れる人がチケットを買って壁に貼り、お金がない人がそれを使って利用できるようにするシステムなの。MINI Japanからは、このプロジェクトをサポートするトークンも出してもらっていて、いろいろな形でサポートを受けているんです。

もちろん『夜パンカフェ』でも、『夜のパン屋さん』のパン販売は実施される【画像提供=夜のパン屋さん】


ーー舗装されていない、自然そのままの土の床が印象的なんですね。
【枝元なほみ】そう。アスファルトじゃなくて、自然のままの土で、150年の欅が周りを囲んでいるんだ。そこにいるだけで、心が落ち着いて、自分がいてもいいんだって感じられるんだよね。おしゃれなカフェと違って、お金を使わなくても、ただ庭でぼーっとしていてもよくて、それがすごくいいんだよ。鍼灸のマッサージをやってる友達がいて、中二階で15分1000円でクイックマッサージを提供してくれるの。そこには子どもを預けられる場所もあって、お母さんたちがリラックスできる時間を過ごせるんだよ。そして“お福分け券”があれば、お金がない人でもサービスを利用できる。以前、あるお客さんが背筋を伸ばして「お金はありません。これでお願いします」と言って、そのチケットを使ってマッサージを受けたんだ。その姿が本当に凛としていて、こういう場を作りたかったんだよね。お金の有無によって人を判断しない、誰もが卑屈にならずに済むような場所を。

【枝元なほみ】これが、私がやりたかったことなんだよね。お金のあるなしにかかわらず、誰もが「助けて」と言えるような、そんな社会が理想だと思うんだ。たとえ全部の問題を解決できなくても、助け合いの精神があれば、もっと生きやすい世界になるはずだから。毎月第2土曜には、このすてきな場所でイベントを開催する予定だよ。こういう場所があることで、少しでも生きる希望を持ってもらえたらいいなって思っているんだ。そんな場所があちこちにあったらいいなって。そういう夜のパン屋になりたいと思っています。ありがとう、聞いてくれて。

ーー本当に素晴らしい取り組みですね。こちらこそ、ありがとうございました。

再開後も、のんびりと過ごせる憩いの場として期待される『夜パンカフェ』【画像提供=夜のパン屋さん】

ホームレスの増加、貧困の深刻化、そしてそれらが多様化する現代社会。そんななかで、枝元なほみさんは「誰もがホームレスになり得る」という現実を直視し、一人でも多くの人々が「助けて」と言える社会を目指している。長年、生活困窮者たちの支援や、彼らが直面するさまざまな問題への対応を模索し続けてきた枝元さんによると、「近年は、年配のおっちゃんたちだけでなく、若い人や女性など目に見えない形での生活貧困者も増えてきている」という。彼女は、そんな社会の多様性と貧困の深刻さを伝え、単にホームレスの方々をサポートするだけでなく、生活に困っている人々が抱えるさまざまな問題にも目を向けるべきだと訴える。人の価値は経済の都合だけでは決まらず、人とのつながりや物事を大切にする心が重要だという彼女の言葉が心に響いた。きっとこの先、『夜のパン屋さん』から生まれたプロジェクト『夜パンカフェ』が、さらなる支援の場となり、誰もが参加できるコミュニティの構築へとつながっていくだろう。

取材・文=北村康行

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