ニッチな層を狙ったら大反響!教育現場の声から生まれた「マス目フセン」に学ぶ商品価値の作り方とは?
東京ウォーカー(全国版)
昨今、「マス目フセン」がニッチな層に大流行しているという。+teacherがリリースした「マス目フセン"Kaketa!"」は、第32回日本文具大賞デザイン賞を受賞、文房具屋さん大賞2024入賞と快進撃を続けている。さらに、教員や保護者を中心に「こんな商品を待っていた!」「なぜこれまでなかったのか」といった好評の声が上がったという同商品のロングバージョン「マス目フセン"Kaketa!"<long>」が、2024年3月に新規リリース。四字熟語や送り仮名の学習に最適と、こちらも注目を浴びている。
マス目フセンのどういった点が評価されているのか。また、誕生秘話や今後の展開などについて、担当者に話を聞いた。
「マス目フセン"Kaketa!"」とは?
「マス目フセン"Kaketa!"」は、目に優しいカラーペーパーに漢字練習用のマス目が印刷されたフセン。2022年にクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」にて発表、目標額の260%の資金を調達し、商品化された。子どもの集中力が維持できる2×2というマス目の数や、鉛筆やボールペンの「黒」や「赤」との視認性にも配慮したグリーン色の紙を使用するなど、細やかな配慮が使いやすさにつながっている。
マス目フセン"Kaketa!"を利用した保護者からは、「普段は全く漢字練習しないのに、このフセンを使うと取り組んでくれます。魔法みたい!」「漢字の直しがフセンを貼るだけで促せるのは大変助かります」といった声が。小学校教員からは、「漢字のマス目スタンプを使っていましたが、インクのカスレ・補充が面倒くさかったので業務の時短に繋がりました」。特別支援教育支援員からは、「消しゴムを使うことが苦手な生徒に対して文字のやり直しに活用しました」「集中力が続きにくい生徒に利用しています」「子ども・教員ともにストレスが減りました」といった声が届いているという。
ただ、2×2のマス目配置では、「四字熟語や送り仮名、熟語の学習サポートについては困難」という声もあったそう。そこで、さまざまな学習にもフィットすることができるよう、2×5のマス目を配置した「マス目フセン"Kaketa!"<long>」を開発。ロングバージョンには、“貼った”を伝えられるコメントスペースも設けるなど、さらに機能性も増している。
「開発秘話を教えて!」担当者に聞いた
「+teacher」についてや、ありそうでなかったマス目フセンの商品化について、また今回発売したばかりのロングバージョンなどについてなど、さまざまな質問を+teacherの渡利幸治さんにぶつけてみた。
――まず、「+teacher」とは、どういった組織なのか教えてください。
【渡利幸治】現在は法人化をしていないため、ひとつのブランドという立ち位置で経営をしています。組織体としては、コミュニティというスタイルをとっており100名ほどの教育関係者(学校の先生や教育に関心が高い保護者の方など)で構成されています。その方々から困りごとや解決したい課題などをお聞きし、実際に商品の企画開発、販売までを行っています。
――第32回日本文具大賞デザイン賞受賞、文房具屋さん大賞2024入賞、おめでとうございます。マス目フセン"Kaketa!"の開発秘話を教えてください。
【渡利幸治】開発のきっかけは、小学校教員の「漢字練習用ノートに文字のバランスを指導するスペースがない」というひと言でした。さまざまな解決手段があるなかで、フセンであれば気軽に文字の指導スペースを増やすことができます。市場規模の観点では学校の先生という市場に加え、保護者もメインターゲットと捉えることでより大きな市場に価値を届けることができると考えました。
【渡利幸治】保護者が使う視点で考えたとき、子どもは漢字練習用ノートのマス目の多さだけでやる気が削がれてしまうことが見えてきました。その視点で市場調査を繰り返し、4マスのデザインに落ち着きました。4マスであれば、子どもは「自分にもできる!」と取り組むきっかけにもなりますし、保護者の方は子どもがやっている姿をみて、子どもをほめるきっかけが作れます。
【渡利幸治】少し脱線しますが、保護者は「子どもをほめたいけれど、ほめるきっかけがない」というインサイトがあると考えています。本商品は4マスなので、子どもがやり切るたびにほめるきっかけを創造できます。そのインサイトに適切にアプローチができた事例だと思っています。その観点で言うと、漢字練習の課題解決にアプローチした商品ですが子どもと親の信頼関係・自己肯定感を高める商品としての価値もあると考えています。
――今回、ロングバージョンを発売されましたが、要望する声などを受けてのことでしょうか?
【渡利幸治】従来品の2×2マスではカバーできない「四字熟語や送り仮名の練習をもっとスムーズに行いたい」というニーズがありました。四字熟語であれば、2×4マスでもよいのですが、2×5マスにしている理由は、1マス目にナンバリングをし、その下に四字熟語を練習する子どもが多かったからです。開発までのデザイン案はブログに詳細を記載しておりますので、よければご覧ください!
――マス目フセンは、教育関係者や保護者というごく限られた層をターゲットにした商品ということですが、狭い層を狙った商品化に不安はなかったでしょうか?また、狭い層をターゲットにした商品化の際のポイントについても教えてください。
【渡利幸治】まず前提として、マスを狙った市場は大手企業が独占しており、スタートアップがそこに挑戦するのは非常にハードルが高いです。であれば、大手だと小回りが効かないニッチな領域で商品を展開し、ブランドを確立したのちにスケールを検討していくのが定石だと感じています。ニッチな領域であればあるほど、尖った商品価値を作ることができます。
【渡利幸治】一方で、ニッチすぎると市場規模が小さく、スケールしていかないです。その尖った商品価値を丸くすればするほど市場は広がる傾向にあります。マス目フセンは先生からはじまった商品企画ですが、保護者が使うところまでのシーンを想定し、当初の尖ったデザインの価値を少し丸めています。ただ先生が漢字指導の文脈で使用する際のことも想定していたため、保護者にも先生にも商品価値を下げることなく市場を広げたデザインに着地できました。
【渡利幸治】これは一例ですが、ニッチな領域から商品を考えることは重要である一方、作ろうとしている価値を届けるターゲットを不必要に狭めてしまわないようにすることが、狭い層をターゲットにした商品化の際は重要になってきます。
――フセン以外に、今後の商品化・販売の予定はありますか?
【渡利幸治】私たちのミッションは「教育関係者のアイデアで社会を良くする発明を。」です。そのため、よいアイデアが出た際には、フセン、文房具に限らず商品を展開していきます。現在進行中のプロジェクトは、複数あります!
マス目フセンには、ほかにも「計算用フセン"Toketa!"」「英語フセン"Up-lows"<アプローズ>」があり、小学生と中学生の子を持つ筆者は早速、これらがセットになった「【お試しセット】フセンシリーズ」を購入してみた。実際に使ってみると、貼りやすいし、書き込みやすい。小学生の娘は、このフセンを貼るだけで、“いつもと違っていい!”とテンションが上がっている。また、中学生の息子は「特に覚えたい漢字や英単語をこれに書いて貼るようにしてみた」と、すでに使いこなしているようだ。
ちょっとしたアイデアだが、あると“とても便利”なマス目フセン。渡利さんが「子どもと親の信頼関係・自己肯定感を高める商品としての価値もある」と語っていたが、確かにマス目フセンを手にしてから、親子の会話が増えたように思える。これからも、+teacherから教育に役立つアイテムが続々と登場することを、親の立場からも期待したい。
取材=大庭 かおり/矢野 凪紗・文=矢野 凪紗
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