連載第23回 2011年「愛しあってるかい!名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史」

東京ウォーカー(全国版)

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名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史


承知しました。面白いドラマですね。


2011年-。3月11日、日本に未曾有の被害を及ぼした、マグニチュード9.0の巨大地震、東日本大震災が発生する。日本全国が復興を目指し、7月には「FIFA女子ワールドカップドイツ大会」で、サッカー日本女子代表のなでしこJAPANは初優勝した際、彼女たちが震災後の日本を支援してくれた世界へ向けてのメッセージを綴った横断幕『To Our Friends Around the World Thank You for Your Support』を掲揚。

「テレビ放送はデジタルに完全移行した年でもありました。この年は『絆』という言葉が流行語になり、家族や人間関係のつながりを掘り下げた名作が多いですね」。そう語る影山貴彦氏がピックアップしたドラマとは。

父親の迷いをストレートに描いた「家政婦のミタ」の衝撃


―この年は、なんといっても「家政婦のミタ」ですね。最高視聴率40%を獲得しています。

家族の再生をテーマにしたドラマですが、「親と子の関係をこういった形で描くのか!」と驚かされたドラマでした。社会現象にもなりました。母親が亡くなり、崩壊寸前だった阿須田家に三田灯という敏腕の家政婦が派遣されてくる。そして彼女の行動により、家族が向き合うようになる、というストーリー。しかしその行動がすごく型破りで、子どもたちのむちゃくちゃなお願いも「承知しました」と、ロボットのように表情を変えず犯罪ギリギリのところまでやってしまうんです。それを薄いメイクで演じた、ミタ役の松嶋菜々子さんの演技はまさに新境地。衝撃的でした。

彼女もすごかったですが、このドラマのキーマンはなんといっても、長谷川博己さん演じる父親の恵一でしょう。物語とともに成長するとはいえ、序盤は本当に情けないんですよね。家族と向き合おうとしないし、元不倫相手にすがりついたりもする。さらには、幼稚園年長組の娘・希衣が「希衣はパパが大好き。パパは希衣が好き?」とたずねるシーンで、恵一はこう答えるんです。

「わからない」

あのシーンは忘れられませんね。よくこのセリフがテレビで出たと、私は思わず身を乗り出しました。父親として自覚が持てない恵一の姿は、ミタさんというキャラクターの持つエキセントリックさを凌駕していました。いざ家族と見つめ合う時間ができたとき何をすればいいかわからない、という戸惑いは、多くの父親が一度は抱いたことがあると思います。そのモヤモヤとした気持ちを、よくぞあの会話で表現したと思います。

この父親の迷いや弱さを集約したような恵一というキャラクターを、視聴者に嫌悪感を持たせず演じた長谷川博己さんの持つ清潔感はすごいと思います。どんなダメな人間を演じても興味を持たされ、最終的にはいつの間にか役ごと好きになってしまっている、そんな俳優さんです。彼はこの作品の前年、2010年の大ヒット作「セカンドバージン」で一躍名を轟かせ、この2011年は「家政婦のミタ」と「鈴木先生」。まさにブレイクの年だったと思います。そこからの快進撃はみなさんご存知の通りです。2020年は大河ドラマ「麒麟がくる」で主役・明智光秀を演じることが決まっていますね。期待しています!

―「家政婦のミタ」ではもう一人、叔母のうららがキーマンとなっていました。

演じていたのは相武紗季さんでしたね。いつも笑顔で子どもたちの面倒を見ようと奮闘するのだけど、毎回それが裏目に出てしまう。笑わないけど万能のミタさんとは対照的です。子どもたちからは「うららが来るとろくなことがない」と言われる、かなりせつない役回りです。それでも、ミタはうららの正しさや良さを理解して、子どもたちを託すんです。それがとても印象的だったし共感しました。面倒見がいい人は、ときにうるさがられてしまうこともある。けれど子どもたちが「自分たちをずっと気にかけている人がいる」と思う、そんな存在がいるのはすごく安心です。それをなくしてはいけない。「家政婦のミタ」は様々な角度から、家族のつながりを感じさせた素晴らしいドラマだと思います。再放送が見たいですね。

家族のすれ違いを、他人が介入することで再生が始まる


このドラマは2011年の10月から12月放送のドラマです。東日本大震災により「絆」という価値観が、日本中に強く広がっていた時期でした。家族という絆は強くつながっているようであり、実はとても危ういものなのかもしれない、という感覚があったと思います。家族は近すぎて見えないことがたくさんあります。家政婦のミタさんが阿須田家を再生させたように、第三者がもたらす救いや向かい合うきっかけはとても大きいですよね。

―他人の力により家族を再生するというのは「マルモのおきて」もそうでしたね。

そうですね。30代の独身サラリーマン、高木護が、病気で亡くなった親友の子どもを引き取り、本当の家族のような絆を結んでいく、という話です。その関係を取り持つのが、話ができる犬のムック。ファンタジーを盛り込んだ、家族で楽しめるハートフルなドラマでした。双子役の鈴木福君と芦田愛菜さんのかわいさたるや! 特に芦田愛菜さんは、このドラマの1年前に児童虐待をテーマにした「Mother」で壮絶な役を演じていたので、「マルモのおきて」での天真爛漫な笑顔には、こちらまでホッとしました(笑)。番組の終わりのマルモリダンスも、ドラマの認知度を引っ張り上げましたね。

そして、二人に振り回されながら、自身も成長していくマルモ役の阿部サダヲさん。奇才という言葉がこんなにぴったりくる人も、なかなかいません。なにも喋らずとも「一筋縄ではいかないなこの人」と思わせる迫力。その雰囲気と、父親の役目を頑張ろうと奮闘するまっすぐなマルモという役のギャップが、このドラマを面白くしていたと思います。彼の持つ独特の威圧感は、伊東四朗さんと似たものを感じます。NHK大河ドラマ「いだてん」は、彼が演じる田畑政治がメインとなる第2部が6月30日からスタートします。楽しみです!

「マルモのおきて」が放送されたフジテレビ日曜21時枠は、もともと花王名人劇場という、お笑いを中心に支持を得た枠でした。2010年から「ドラマチックサンデー」と銘打ち、ファミリードラマに移行しましたが、同時間のドラマといえばTBSの「日曜劇場」という大人気ドラマがあり、苦戦が強いられていました。そんななか、「マルモのおきて」が素晴らしい健闘を見せたんです。ただ、「ドラマチックサンデー」は2013年、江口洋介さん主演の「dinner」でその看板を降ろしています。

「それでも、生きてゆく」が描く、究極の純愛


この年は「それでも、生きてゆく」も語らねばならないでしょう。幼い妹を殺された洋貴を瑛太さん、その加害者の妹、双葉を満島ひかりさんが演じ、殺人事件の加害者家族と被害者家族の恋愛という重いテーマを描いたドラマです。でも、脚本の坂元裕二さんがもっとも描きたかったのは、純愛だと思うんです。惹かれ合うけれど、届きそうで届かない。それが最終回、一気に溢れ出るんですね。最初で最後のデートのシーン、好きで好きでしょうがいないけれど、そこで止めなければいけない。2人の息が詰まるようなやり取りは、思い出しても泣けます。笑いながら涙する満島ひかりさん、ほとばしる感情をストイックに抑える瑛太さん。ラストはその後の2人の手紙のやり取りを、ナレーションで読みあげる形で進みます。しかもその手紙は、実際は出していなくて、木に結び付けているんです。こんなプラトニックラブの描き方があったとは。 私にとって「それでも、生きてゆく」は平成でトップ3に入るラブストーリーです。

自然体の演技で圧倒する風間俊介・多部未華子と分析力を感じる杏


―この年、注目した俳優さんを教えてください。

「それでも、生きてゆく」の、罪を重ねていく健二役を演じた風間俊介さんの存在感は凄まじかったですね。この人は本当にうまい。好きとか嫌いとかそういったところとは別で、名前が出ると「うまい」と評価が出てくる人です。おおげさな演技感が出ないといいますか。心に闇を抱えた役も多く演じていらっしゃいますが、見ていて、すぐそばにこういう人がいるかもしれない、と思わせる自然な怖さを出せるのはすごいことです。この年「デカワンコ」でゴスロリファッションに身を包み、イキイキと捜査1課の刑事を演じた多部未華子さんも、風間さんと同じく「演じている感」が出ない人。詰め込み過ぎない、だけど中身はしっかりと充実している。そのバランス感覚が素晴らしいです。黒木華さん、樹木希林さんと共演した2018年公開の映画「日日是好日」も素晴らしかったですね。シリアスもコメディもできるので、これからも多くの作品でふんわりとしたその個性を輝かせていくと思います。

また、2011年に頭角を現したのが、「妖怪人間ベム」のベラ役がハマり役だった杏さん。放送前は、どんな仕上がりになるのだろう、と想像できませんでしたが、まさにキャスティングの勝利! どんな役でも真正面から向き合い、成立させるすごい努力と分析力を感じます。この年には「名前をなくした女神」でも主演されていましたが、頑固なくらいブレなさを感じる佇まいは、ママ友から疎まれるほどの「扱いにくさ」まで計算し、演じていたように感じました。ママ友の集まりでありがちなグループ内のいざこざに頑として入らず、自分の意見を通す役でしたが、ドラマとわかっていてもハラハラしたものです。

エンタメの救いの力


「勇者ヨシヒコと魔王の城」も2011年だったんですね。RPGゲームのドラゴンクエストシリーズの世界観を盛り込んだ、とてもユニークな試みのドラマでした。監督・脚本家の福田雄一さんの名を知らしめた作品です。主演のヨシヒコを演じた山田孝之さんは、イメージダウンなどのリスクを考えず、純粋にやりたいドラマチョイスし、ちゃんと結果を出している。そんな自由さと大胆さ、そして遊び心を感じます。小栗旬さんが、くやしいくらい羨ましい俳優として彼の名を挙げていますね。他の俳優さんから見ても「山田孝之のような仕事をしたい」と映る、理想的なキャリアの伸ばし方ができている。日本のドラマ界を変えていく人かもしれません。

2011年は3月に東日本大震災に見舞われ、気が遠くなるほどつらい時期でした。阪神・淡路大震災が起きた1995年の時も語りましたが、あまりにも疲弊している直後に「負けずに頑張れ」と応援の声を出すのは早過ぎる。エンターテインメントはタイミングを間違えると暴力になります。しかし、受け手がそれを求めるようになったタイミングでの、誠実な姿勢を持って制作した作品は、立ち上がる希望を与える威力を発揮します。2011年、こういった名作が数出ているということは、多くの人の心に響くタイミングで発信できたということでしょう。エンターテインメントとは、本当に素晴らしいと思います。

元毎日放送プロデューサーの影山教授


【ナビゲーター】影山貴彦/同志社女子大学 学芸学部 メディア創造学科教授。元毎日放送プロデューサー(「MBSヤングタウン」など)。早稲田大学政経学部卒、関西学院大学大学院文学修士。「カンテレ通信」コメンテーター、ABCラジオ番組審議会委員長、上方漫才大賞審査員、GAORA番組審議委員、日本笑い学会理事。著書に「テレビのゆくえ」(世界思想社)など。

【インタビュアー】田中稲/ライター。昭和歌謡、都市伝説、刑事ドラマ、世代研究、懐かしのアイドルを中心に執筆。「昭和歌謡[出る単]1008語」(誠文堂新光社)。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」連載。

関西ウォーカー

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