“丸シール”を駆使した夜景がすごすぎる!思わず見入ってしまうアートの数々と先駆者が語る魅力を紹介

東京ウォーカー(全国版)

文房具などでおなじみの丸型シールを駆使したドット絵の芸術、丸シールアート。その先駆者であり、多くの受賞作品を持つとともに国内外で活躍しているのが、現代美術家の大村雪乃さんだ。丸シールアートを制作するに至ったきっかけや、ほかのアートジャンルとの違い、魅力などを教えてもらった。

新作のひとつ、「Shunan」2022年制作・写真提供/大村雪乃


映画や本があふれる家に生まれ育って美大へ

――大村さんのプロフィールを教えてください。

【大村】多摩美術大学在学中に文房具の丸シールで夜景を表現する絵画を発表し、2012年には「TOKYO MIDTOWN AWARD」にてオーディエンス賞を受賞させていただきました。これまで、展覧会は銀座三越、高崎市美術館、ウッドワン美術館などで開催し、日本観光庁からの要請によりフランスで個展も開催しています。また、誰でも制作に参加できる観客参加型のワークショップの監修や、毎日放送(MBSテレビ)制作「プレバト!!」の丸シールアート査定の先生役としても出演させていただきました。

「渋谷東急今昔」2020年制作・写真提供/大村雪乃


――現代美術家を志したきっかけは?

【大村】父親が趣味人で、家に映画のビデオや本が数千冊あるような家で育ちました。幼少期はカーペンターズを聴きながらトムとジェリーやバッグス・バニーのアニメを観たり、ガロの漫画を読んで育ったので、幼い頃から触れているものが少し異質だったかもしれません。

「セルフポートレイト」2020年制作・写真提供/大村雪乃


そんな背景もあって大学は美大に行きたいと思うようになり、ある日通っている予備校の特別授業で千住博さんが講演に来ました。そこで初めて生のアーティストを見て、「アートを極める人になりたい」と強い憧れを抱いたのがきっかけです。

丸シールでの制作を始めた当時は異端だった

――丸シールアートを始めたきっかけはなんですか?

【大村】在学中からこの素材で絵を描いてみようと挑戦を始めました。当時は抽象画を学んでいて、なんとなく円に興味があって円を描く抽象画ばかり描いていたところ、丸を描くのがしんどくなってしまい、丸シールを貼ったほうがラクだと気付いたのが始まりです。

「香港」2014年制作・写真提供/大村雪乃


丸シールは当時の素材からすれば当然異端で、絵画学部でもそれを画材として使用する人はあまりいませんでした。ですが、現代アートという分野はどんな素材でも挑戦することに意味があると大学で教わったので、違和感なくこれを素材にすることを選びました。

「東京ホタル」2018年制作・写真提供/大村雪乃


また、当時は絵画を勉強しているというと、周りの人から「個性的だ」とか「才能がある」、「特別な人」という目線で見られることが増えました。しかし絵の勉強をすればするほど、自分は凡庸な才能しかない普通の大学生であることを痛感していました。それでも、「美大生」になった瞬間に「個性的で才能のある人」と分断されることに強烈な違和感を覚えました。

――丸シールアート制作は難しくないですか?

【大村】丸シールアートは、シールを貼るだけで誰でも絵が描ける芸術です。アナログの絵画を制作する場合、絵の具を用意したり場所や着るものを変えたりと準備することが多いのですが、丸シールは誰でも気軽に扱えます。制作するうえでのハードルの低さ、親しみやすさ、扱いやすさは広く受け入れられると思いました。もっと気軽に制作する楽しみに触れられるきっかけを作りたくて、この素材にこだわっています。

「fly」2021年制作・写真提供/大村雪乃


――丸シールアートと、ほかのアートとの違いはどういったところですか?

【大村】まずは、先述したように年齢や性別や障がいの有無も問わず、広く誰でも気軽に始められる親しみやすさがあるところ。また、原色カラーの丸シールが多いので、パリッとした絵がすぐ描けるのも利点です。

「ヤコブの梯子」2019年制作・写真提供/大村雪乃


――丸シールアートならではのおもしろさ、難しさはどんなところでしょうか?

【大村】作り手の目線でいえば、シールを貼るという行為自体が楽しいので、制作をする楽しみを存分に味わえるところ。私自身の目線でいうと、丸シールだけでどこまでの表現(空は描けるか、山は表現できるか、など)が可能かと頭をひねるときが一番楽しく、またそこが最も難しいと思う点です。

「Neon Hong Kong」2020年制作・写真提供/大村雪乃

「銀座午後七時二十五分」2017年制作・写真提供/大村雪乃


観る方の視点では、シールだけでできているという素材の異質感はぜひ生で観てほしいです。パソコンなどで画像を見るだけでは決して味わえない、違和感とおもしろさを体感できると思います。

難しさでいえば、シールを貼り続けたり、頭の中で表現したいものをその通りに描き出すことの困難さを、パッと絵を観ただけで理解することは難しいかと思います。簡素で誰でも作れると思えるものほど、実はとても技術を必要としますが、そのことには気付かれにくかったりします。

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