高級食材としても知られるワタリガニ。その姿を見て「おいしそう!」と真っ先に思ってしまう人も、このカニを見たら「かっこいい!」と思うのではないだろうか?つややかに光る甲羅、ギザギザと尖った部分はいかにもするどく、力強いハサミはどんなものでも持ち上げられそうだ。生きているかのような迫力のあるカニだが、実は陶製。しかも、関節などを動かせるというから驚きだ。この“青いワタリガニ”はTwitterで5万以上のいいねを獲得した(2022年5月時点)。
作ったのは陶芸家の岡村悠紀さん(Twitter:@0kam)。岡村さんは「陶磁器における“自在置物”の実現をテーマ」に、可動する陶磁器作品を数多く手掛けている。そのきっかけや、創作の原点などを聞いた。
ビスクドールの技術を参考に、独自で作り上げた動くカニ
岡村さんがテーマにしている“自在置物”とは、本来は鉄や銅などの金属を使って関節などを動かせるように作った動物の置物のこと。日本の金属工芸の一分野だが、これを陶磁器で行っているのが岡村さんの作品の大きな特徴だ。
「可動式の作品は大学の卒業制作で初めて手掛けました。きっかけは、それまで作っていた無可動の作品だと、関節の継ぎ目などが陶器の特性上壊れやすいということが気になったからです。逆に動くようにしてしまえば壊れなくなるのでは、と考えました。西洋の磁器人形、ビスクドールを参考に、独自の手法で作り上げています」
関節を動かすためには、数多くのパーツが必要になってくる。青いワタリガニは50以上のパーツで構成されているそうで、その制作工程も複雑だ。設計したあと、発砲スチロールの一種で原型を制作し、それに合わせて石膏型を作る。石膏型に合わせて実際のパーツを成形し、釉薬(ゆうやく)を付けて焼き上げる。球体関節やテンションゴムを使用してそれぞれのパーツを組み立てていく、といった具合だ。
細かいところまで神経の行き届いた造形がリアルさに繋がっているが、岡村さんによると一番大事にしているのはリアルさではないそうだ。
「リアルさについては、初めの一瞬だけ本物に見えるくらいを心がけています。それよりも、モチーフの生き物を人間がどのように文化や伝承の上で捉え、どう解釈してきたかを見つめた上で、造形に落とし込むことを大事にしています」