人気バンドsumikaの片岡健太さんが初の書き下ろしエッセイ本『凡者の合奏』(ぼんじゃのがっそう)を2022年6月23日に発売した。音楽との出会い、挫折の繰り返し、人との出会いや別れ、声を失った原因不明の病など、ミュージシャンとしてだけでなく、一個人としての“片岡健太”の半生が赤裸々に綴られた1冊だ。初の著書となる本書に込めた思い、執筆をきっかけに感じたことなどについて語ってもらった。
――まずは、ご自身の反省を綴るエッセイを書こうと思ったきっかけから聞かせてください。
漠然とではありますが、「いつか自分の半生みたいなものを振り返ることができたらいいな」ということは以前から思っていたんです。でも、音楽をやっているとそれで手一杯になってしまって、結局できないまま月日が流れていきました。きっかけは、去年、今回の表紙や巻頭に載っている写真を撮ってくれた写真家のヤオタケシ君がKADOKAWAさんの編集の方を紹介してくれて、「ご自身の半生を書いていただくというのはいかがでしょうか?」と言っていただいたんです。sumikaが結成10周年イヤーに突入したところで、「このタイミングで振り返れたらいいな」と思っていたので、お声がけいただいたことで漠然と思っていたことが実現できることになりました。
――いいタイミングで、いい出会いがあって。
はい。やりたいと思ってはいましたが、音楽制作の経験はあっても本の制作の経験はありませんし、自分ひとりでは0から1にする作業はできなかったと思いますので、お声がけいただいたことは本当にありがたいなと感じています。
――このエッセイ本で伝えたかったことは?
今回、特に伝えたいと思ったのは「とにかくいっぱい失敗してきた」ということです。バンドという屋号を抱えると、良いところも悪いところ含め、パーソナルな部分にそこまで深く入り込まなくても、言葉は悪いですが、割と表層的な部分でごまかせているのかもしれないなって思うんです。バンドで活動していると個人の失敗は見えづらいところがあって、事務所やレーベルは失敗してないように見せるのが仕事だったりするので、一個人として「失敗もちゃんと大事なものだったよ」っていうことをアウトプットする機会がありませんでした。過去のことを語る本だからこそ、それができましたし、アウトプットしたことによって本当の等身大、身の丈が見えた感じもしています。
――序章的な「はじめに」で、“気づけば周りにいる人は「失敗したから出会えた人」ばかり”と書かれていますが、失敗を失敗で終わらせず、次に生かしてきたことが今に繋がっているのですね。
そうですね。声が出なくなって活動休止したのも、なんだかんだ7年ぐらい前だったりするので、その後でsumikaのことを知ってくれた人の方が圧倒的に多いんです。バンドを結成した2013年頃と比べると、“失敗”に対する風当たりが格段に強くなっているような気がして、一度失敗するともう終わりというか、“傷モノ”リスト入りしてしまってもう上がってこられない。そんな風潮になっているんじゃないかと。なので、あえてこのタイミングで「多くの失敗があって今があります」とアウトプットしたいと思ったんです。sumikaを知らない方、僕が何をやっているのかを知らない方であっても、この本を手に取って読んでいただけたら、何らかプラスになる部分があるんじゃないかと思っています。
――ご自身の半生を振り返る作業は、良いことも悪いことも記憶の引き出しから出すことなので、大変だったりしたのでは?
書き始める前に、編集の方を含めた今回の制作チームの皆さんと「どういう本にしていこうか」という話し合いをしました。確かに、これまでの半生を振り返ると本当にたくさんの出来事があるので選択が難しくなります。なので、今の自分に繋がっていることだけをピックアップして、“今の自分はこうして作られた”とか“その瞬間に自分の心が動いた”ということだけを書き下ろしていこうと決めました。でも、心が動いたり、自分が変化する瞬間って、大体が傷ついた時だったりするんですよね(笑)。そういう傷や失敗はトラウマでもあったりしますし、普段だと、ふと思い出したりしても“嫌だな”って思いながら考えないふりをして終わっていました。
しかし、この本を書くにあたって言葉にしなければいけないということで、それと向き合って、「こういうことがあったから今の自分があるんだ」と結びつけることで、今まで僕自身がグレーな状態だったり黒歴史にしてしまったりしていたことも、ちゃんと白に浄化させることができました。失敗したことは変えようのない過去ではありますが、“強み”だったり、他の方から“これ良いね”って言われる部分は実は元々マイナスだった部分から生まれてきてたりするんですよね。それが分かったので、傷や失敗には意味があるし、過去に対して自信を持つこともできました。これは本を書かなかったら分からなかったことだと思います。
――大きな壁を乗り越えたような達成感がありそうですね。
はい。あと、サポートしてくださったライターの方がいるんですが、書き始める時に、「事象ではなく心象を書いてください」っていうアドバイスをいただいたんです。それはすごく大きなヒントになりました。事象だけを並べてしまうと、それはただのバイオグラフィーになってしまいます。でも、どこにもまだアウトプットしていない自分の心の中にしかなかった言葉が必ずあるはずで、それを自分が咀嚼して言語化する必要があったんです。ライターさんに「そこに価値があります」と言ってもらえたことが僕にとってすごく大きな発見でした。
――それぞれの専門家からの言葉ってヒントになりますし、一気に視野が広がる時がありますよね。
そうなんです。編集者やデザイナーの方、カメラマン、マネージャーはもちろん、いろんな方に関わってもらって出来た本だと自覚していますし、それが『凡者の合奏』というタイトルにもつながっています。僕は天才ではなく凡人なので、誰かに生かされて今の自分がいます。今回の本の執筆にしても、自分ひとりで答えを導き出せていたら『天才の独奏』になっていたと思います(笑)。
――いろんな人との関わりが描かれている本なので、読み終えてみると、このタイトルがすごくピッタリだなと感じました。
ありがとうございます。タイトルに関してはリアルに二転三転しました。たとえば、バンドのアルバムのタイトルであれば、この1、2年の間での経験を音楽にするという流れでキーワードとなる言葉も浮かびやすいのですが、僕が30数年経験してきたこと、何を思ってきたかを集めたものなので、このボリュームの情報をひと言で表すのは難しかったですね。人生のキャッチコピーをつけるような感じですから、かなり悩みました。