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東京・中目黒にあるスターバックス リザーブ(R) ロースタリー 東京(以下、ロースタリー東京)とスターバックス オンラインストアにて展開する「JIMOTO Made+」に、2023年4月26日(水)、新たな仲間が加わる。熊本県の伝統工芸品・小代焼のマグカップと香炉だ。
スターバックスでは日本各地の工芸や産業を用いた商品を開発し、その地域の店舗のみで販売する「JIMOTO Made」を展開している。「JIMOTO Made+」では、それをさらに発展させ、商品を通じて日本各地の工芸に携わる人々の技術や想いをロースタリー 東京から発信している。
小代焼は熊本県北部で約400年前から焼き続けられている窯元。今回、スターバックスとコラボレーションする「たけみや窯」を訪ねた。
江戸時代に肥後藩の庇護のもと繁栄した小代焼
小代焼は寛永9(1632)年に豊前藩・細川忠利の熊本移封に際し、陶工が小岱(しょうだい)山麓に窯を開いたことに始まる。小岱山でとれた土を用い、素朴で力強い作風と深い色合いが特徴で、色により青小代、黄小代、白小代に分けられる。茶道用の陶器が作られたほか、熊本では「五徳焼き」と呼ばれ、生活用品としても重宝された。五徳とは、「腐敗しない」「生臭さを移さない」「湿気を呼ばない」「毒を消す」「健康寿命が得られる」を指す。
明治維新後、藩の庇護がなくなり一時衰退するが、それを再興したのが「たけみや窯」の初代・近重治太郎(ちかしげじたろう)さんだ。2003年に国の伝統工芸品に指定され、現在は治太郎さんの弟子を含む11の窯があり、春の陶器市など小代焼の普及に力を合わせている。
たけみや窯は、遠くに阿蘇山をも望み田畑に囲まれた上益城郡嘉島町にある。現在、窯を守るのは治太郎さんの孫で3代目の近重眞二さん。材料作りから焼成まで、ひとり手作業で行う。ろくろの前に座ると、「必ず使う人の身になって作れ」という祖父の言葉を思い出すそう。
「使い勝手のいい器をまごころ込めて作れば必ず響くから、どんな商品でも手を抜かずに心を込めて作っています」
窯の外には釉薬の入った甕(かめ)が並び、併設されたショップには器や湯飲み、一輪挿しなどのほか、マグカップやパスタ皿、ワインクーラーなど現代的な器も並ぶ。ひとつひとつ表情の異なる色合いが美しく、素朴な温かみのなかにしっかりとした存在感があり、つい手に取りたくなる。
「小代焼のいちばんの特徴は藁灰釉(わらばいゆう)ですね。現在日本で使っているところは少ないんですよ」と近重さん。藁灰釉とは炭になるまで焼いた藁をメインに、木灰、長石を混ぜて作る釉薬のこと。釉薬から自身の手で作っている、制作現場を見せてもらった。
原料作りから真摯に作陶に向き合う
近重さんは藁灰の原料となる藁を納屋で1年間乾燥させ、自ら田んぼで炭の状態になるまで焼く。それを水に浸し、目の細かいザルで3回ほどに分けて濾して滑らかにしてく。この釉薬作りに、なんと1か月もの間つきっきりになるという。
「藁は沈殿するのに時間がかかるので、甕1つ分で何日もかかる。濾して滑らかにしないと釉薬として使えないですからね。藁灰は業者からも仕入れられますが、納得のいく釉薬を作ろうと思うと、自分でやるのがいいんです」
この藁灰釉に鉄などを混ぜ、異なる色の釉薬を作る。濾し終えた藁灰釉を見せてもらうと、それが炭であったことがわからないほどに滑らかだ。
県内3か所の土を混ぜた粘土をろくろで成形し、乾燥、素焼きを経てこの釉薬を施すが、「流し掛け」という釉薬のかけ方も小代焼の特徴だ。全体に釉薬を施した後、柄杓でさっと別の色の釉薬を上掛けする。流し掛けた釉薬が模様となり「鳥に見えたり、魚に見えたり、見え方によって変わる抽象的な模様になるんです」と近重さん。
施釉後に本焼きを経て完成するが、焼成温度や炎の当たり方によっても発色が異なるので、すべてが、唯一無二。手に取り、好きな模様をじっくり選ぶのも客の楽しみだ。それはJIMOTO Made+に登場する2商品も同じ。ひとつずつ見ていこう。