近年、注目を集め静かなブームとなっている“クラフトジン”。コンビニやスーパーの店頭で見かけたことがある人も多いのではないだろうか。2010年ごろから世界各地でじわじわと流行し、日本では2016年ごろからクラフトジンを製造する蒸留所が全国で増え始め、今や北から南まで各地で固有のジンが盛んに作られている。
そんななか、製造業によって栄え工業地帯として発展してきたものづくりの街、東京・八王子にも2021年、新たに「東京八王子蒸溜所」が誕生した。ここで生み出されるクラフトジンは、その名も『トーキョーハチオウジン』。2022年1月に2種類のジンを発売し、同年の『東京ウイスキー&スピリッツコンペティション2022 洋酒部門』にてそれぞれ金賞・銀賞を受賞している。
製造・販売を手がける東京都八王子市の合成樹脂製品メーカー・株式会社大信3代目であり東京八王子蒸溜所代表の中澤眞太郎さんに、『トーキョーハチオウジン』の魅力、そして国内のクラフトジン市場について話を聞いた。
新たなメイド・イン・トーキョー『ハチオウジン』。目指すのは“新しいスタンダード”
ジン・トニックをはじめ、さまざまな有名カクテルに用いられるジンだが、もともとはヨーロッパで薬酒としてスタートしたのが起源とされている。ジュニパーベリーという、日本語でいうと「セイヨウネズ」の実やさまざまなボタニカル(香草・薬草類)を使って味付けをした蒸留酒のことをジンと呼び、各メーカーが独自に配合しているため味や香りは非常に幅広い。
ジンの定義として、EU(ヨーロッパ連合)では以下のように定められている。
1.ジュニパーベリーの香りを主とする
2.農作物由来のアルコールをベーススピリッツとする
3.瓶詰アルコール度数は37.5%以上
さらに、「ジン(Gin)」「蒸留ジン(Distilled Gin)」「ロンドンドライジン(London Dry Gin)」の3つのカテゴリにわけられ、最も条件が厳しいのがロンドンドライジン。「トーキョーハチオウジン」はこのロンドンドライジンのスピリットや製法を継承し、東京発でしか表現できないジンとして、“トーキョードライジン”と謳っている。
「主要のボタニカルと呼ばれるハーブとスパイスを独自にブレンドしてそれで味をつけていくのですが、どのボタニカルで作るかというのは作り手が自由に選択できるんです。それをロンドンドライジンというスタイルにのっとり、古き良き時代のジンをちゃんとリスペクトした形で作ったのがこの『ハチオウジン』という商品です」
このボタニカル選びがひとつ大きな特徴を作っていくが、その前の状態にも千差万別あり、ベースに何のアルコールを使用するかも大きく味に影響するという。これも定義は決まっておらず植物由来のアルコールであればいいため、穀物系では小麦・大麦・ライ麦・米・とうもろこし、フルーツ系でもりんご、葡萄など選択肢はさまざまだ。その中でも『ハチオウジン』はコーンスピリッツと呼ばれるとうもろこし原料のお酒を使用している。
「今、クラフトジンというと奇抜な発想や特徴的な味付けで差別化を図るパターンが多いのですが、そうしていないというのがうちの特徴です。バーテンダーさんが自分のお店のお客様にカクテルを作る際に使いやすいかどうかを特に重視しています。そのまま飲んでおいしいというのもうれしいのですが、『カクテルにしやすい』と言われるのが一番うれしいですね」