近年、数多くのオーラルケア商品が登場しているが、よく理解せずに購入している人も多いのではないだろうか。そこで、歯みがき剤や歯ブラシの選び方、歯のみがき方など正しいオーラルケアについて、“歯みがきマニア”として知られる歯ブラシ専門店「メガデント銀座店」店長・酒向淳さんに、そして、近年悩む人が増えているという知覚過敏について、若林歯科医院院長・若林先生に話を伺った。
夏は口臭がきつくなりがち!?
酒向さんいわく、「夏は口臭がきつくなりがち」なのだとか。その理由は、夏はたくさん汗をかくため身体の水分量が少なくなり、唾液の分泌も減少。その結果、口内が浄化されにくくなり、虫歯菌や歯周病菌が増殖しやすい環境になるそう。
「長いマスク生活で隠されていた鼻が出ることで、これまで感じなかった他人のにおいが気になるという“敏感鼻(びんかんはな)”の人が増えてきていますので、しっかりオーラルケアを」と酒向さん。
口臭ケアに!歯みがき剤の選ぶ際のポイントとは?
「口臭の原因のひとつには、歯周病があります。歯と歯ぐきの境目の清掃が行き届かないと細菌が繁殖して炎症が引き起こされ、歯周病が進行します。この菌の棲み処がバイオフィルム(歯垢)です」と酒向さん。
このバイオフィルムの中に口臭の原因となる菌が棲んでおり、バイオフィルムは粘着質なのでうがいでは除去できないため、毎日の歯みがきでしっかり落とし、さらに殺菌剤を配合した歯みがき剤の使用が効果的とのこと。そこで、酒向さんから歯みがき剤の選び方についてアドバイスしてもらった。
【選び方 その1】殺菌成分の違いをチェック
歯みがき剤によって、配合されている殺菌成分はいろいろ。まずは、その成分の違いをチェック!
●IPMP(イソプロピルメチルフェノール)…バイオフィルムに浸透して殺菌し、口臭を防止
●CPC(塩化セチルピリジニウム)…浮遊菌を死滅させ、口臭を防止
●LSS(ラウロイルサルコシンナトリウム)…浮遊菌を殺菌し、口臭を防止
【選び方 その2】清掃剤の作用も知っておこう
歯の表面に付着した歯垢やステイン(着色汚れ)などをブラッシングすることで落としてくれるのが、清掃剤。リン酸水素ナトリウム、無水ケイ酸、炭酸カルシウムなどが使われているが、「最近は、重曹(炭酸水素ナトリウム)が配合された歯みがき剤も注目されてきています」と酒向さん。
「IPMPと重曹の両成分が入っている商品の代表として『カムテクト』(医薬部外品 6歳以上用)などがあります。重曹配合の独自成分で歯垢をやわらかくし、IPMP(殺菌剤)がバイオフィルム内部を殺菌、歯周病由来の口臭も予防します」
ちなみに清掃成分「重曹(炭酸水素ナトリウム)」は、キッチンなどの清掃にも使われるほど汚れを落とすことで知られているが、カムテクトは約70%重曹配合の独自処方で、バイオフィルムに浸透し構造をやわらかくして、ブラッシングで除去しやすくしているのだそう。
※歯磨き剤に使用している重曹は、歯を傷つけにくいものを使用。台所などの掃除用で販売されているの重曹はそのままでは歯みがきには使えません。
若年層で「知覚過敏」に悩む人が増加中!?
ほかにも、最近注目を浴びているのが知覚過敏用のオーラルケア商品だ。2023年6月29日に結果が公表された「令和4年歯科疾患実態調査」では、“歯がしみる”ことを気にしているのは20代が最も多いということが判明したそう。
日本歯周病学会理事で、歯科ドッグなども実施している若林歯科医院の院長若林先生によると「『知覚過敏』とは虫歯や歯の神経の炎症などの病変がないのに、歯ブラシの毛先が触れたり、冷たい飲食物、甘いもの、風にあたったときなどに歯に感じる一過性の痛みの症状のことです。通常、歯はエナメル質で覆われています。エナメル質は神経に通じていないため、刺激や痛みを感じることはほとんどありません。しかし、エナメル質の下にある象牙質は、表面に無数の穴が開いていて、その穴は中心部分にある神経に通じる管の入り口となっています。象牙質に冷たいものや熱いものなどがあたるとこの管を通って神経に刺激が伝わり、しみるような歯の痛みが起こるのです」
また、知覚過敏の原因については主に3つあるということで、詳しく聞いた。
1.酸や虫歯の影響
エナメル質はpH5.5以下になると溶け始めるそう。暑い時季によく口にするスポーツ飲料はpH3.8、ビールはpH4.3、また、近頃人気の炭酸水などもpH4.6と、エナメル質を溶かしてしまう危険が。長時間かけてダラダラと飲まずに時間を決めて飲み、飲んだあとは歯みがき剤をつかって歯を磨くことを心がけよう。
2.食いしばり
食いしばりや歯ぎしりの影響で歯のエナメル質が砕けてしまうそう。すると象牙質がむき出しになり知覚過敏を生じてしまい、ひどい場合は、歯と歯ぐきの境目がえぐられる“くさび状欠損”というトラブルを発症することも。食事中以外も上下の歯が当たっているという人は、無意識に歯を食いしばっているかも…。
「歯科衛生士200名に聞いた調査によるとコロナ以前と比べて“歯ぎしり、歯の食いしばりに関する患者さん相談が増えた”と感じている歯科衛生士は54%いらっしゃいました(※)。コロナによるリモートワークなどからくるストレスも関係しているように思います。20代で“歯がしみる”と訴える方は、生活の変化によるストレスからくる食いしばりで知覚過敏になっているのかもしれません」と若林先生。
※日本フィンランド虫歯予防研究会 2021年10月調査 調査対象歯科衛生士 n=200
3.歯周病
歯周病が進行すると、歯ぐきが後退してエナメル質に覆われていない歯根が露出し、知覚過敏になってしまうことも。
知覚過敏の箇所を放置していると、虫歯や歯周病につながることもあるという。また、知覚過敏をおこしてしまうと冷たいものなどが楽しめなくなってしまうため、「早めの対策を」と若林先生。
「歯科医院での治療としては知覚過敏用の薬を塗布する、歯科治療用のプラスチックなどでえぐれてしまった部位を埋める治療などの対策が可能です。家庭でのケアとしては、知覚過敏専用の硝酸カリウムが配合された歯みがき剤を使用するとよいでしょう」とのこと。
「知覚過敏用の歯みがき剤はカリウムイオンが象牙質の細い管から神経に到達し、神経を鎮め感度を抑えることが臨床的に証明されています。やわらかめの歯ブラシを使用して丁寧に磨きましょう。1日に2回、継続的に使うことで効果が現れてくるでしょう」