夏になると目にする機会の増えるお化け屋敷。ここ数年のコロナ禍においては、集客で苦戦を強いられていた印象だが、今夏は「浅草花やしき」のお化け屋敷リニューアル、「ハウステンボス」の期間限定大型ホラーイベントの開催決定など、さまざまなトピックスが世間をにぎわせている。この記事では、夏からハロウィンにかけて一層盛り上がるお化け屋敷について、そのトレンドの潮流やコロナ禍での変化、そして今後の展開などを、7年以上にわたり日本全国、世界各国のお化け屋敷に足を運んでいる“お化け屋敷マニア”の大原絵理香さんに語ってもらった。
70カ所以上に足を運んだ“お化け屋敷マニア”が考えるお化け屋敷の魅力とは
――まず、お化け屋敷を好きになったきっかけを教えてください。そもそも人は「怖い」ものを回避したい生き物だと思うのですが……。
【大原絵理香(以下、大原)】もともと遊園地に行くとお化け屋敷には必ず入るくらいで、好きだけど、怖いものは怖いし……でもそれがいい!という感覚で、ジェットコースターなどの延長でドキドキするアトラクションのひとつ、という感覚でした。それでも、旅行先のアメリカやイギリスでもお化け屋敷があったら入っていたので、他の人よりは好きという気持ちは強かったと思います。
【大原】しかし、2015年に「情熱大陸」でお化け屋敷プロデューサーの五味弘文さんが紹介されていて、「あ、お化け屋敷ってアートなんだ」と思ってからどっぷりハマってしまい……。いまでは、お化け屋敷のために全国を旅行をするほど大好きになってしまいました。
――「お化け屋敷はアート」というワードも出ましたが、お化け屋敷の魅力を教えてください。
【大原】登場するお化け自体はもちろんのこと、大道具や細かい装飾物、そのすべてに意味や背景があり、それらは完成されたアートだと思っています。例えば、なぜこの古時計はこの時間で止まっているんだろう、とか、なぜこの人はこの方向を向いて苦悶の表情を浮かべているんだろう、とか。
【大原】その意味や背景をじっくり見て考えていくのが大好きなんです。最近はクリエイターごとに独自の進化を遂げていたり、大型の仕掛けも増えてきたりしていて、より“アートみ”が増していると思います。
――普通の人は「怖い」でしかないと思うので、なかなかマニアックな楽しみ方だと思いますが、今までに行ったお化け屋敷のなかで、一番好きなお化け屋敷を教えてください。
【大原】お化け屋敷にハマりはじめた翌年2016年から「おばけやしきブログ」というものを書いていて、まだまだレビューが追いついていないものもあるのですが、現在55カ所の記事を公開しています。
【大原】書けていないものが15カ所くらいあるので、訪れたのは70カ所以上、でしょうか。お化け屋敷にハマる前に遊園地ついでに行ったところを合わせるともっと多いと思いますが……。
――お化け屋敷ってそんなにたくさんあるんですね!
【大原】そうですね。お化け屋敷は遊園地などのいわゆる常設されているところと、ポップアップ的に期間限定で開催されるものがあり、夏とハロウィンのタイミングに日本全国で増える印象があります。そのため、先ほどご質問いただいた一番好きなお化け屋敷、について、もちろんいくつかあるのですがご紹介してもすでに終わってしまっているものも多く…それが悲しい部分ではあります。そのうえで、この記事が公開されるタイミングでまだ楽しめるお化け屋敷は、東京都杉並区方南町の「畏怖咽び家」と静岡県袋井市の「呪われた僧侶宿舎」でしょうか。
【大原】方南町の「畏怖咽び家」は、古民家をお化け屋敷にしたというかなり尖ったもので話題となっていたので知っている人も多いと思いますが、殺人鬼が徘徊する一軒家から脱出を画策するものです。殺人鬼は同じようなルートで行動をしているので、ホラーゲームのような臨場感を味わうことができます。一章から四章まであり、ストーリーやミッションなどが異なっていて、四章の最後は本当に素晴らしかったです。どうしてこの古民家だったのか、がわかると思います。
【大原】静岡県の「呪われた僧侶宿舎」は、本物のお寺で行われるお化け屋敷で、さらに本物のお坊さんが登場するという斬新なもの。お坊さんならではの演出にグッときますし、そもそもお化け屋敷自体が怖い場所だと思うのですが、本物という加点要素は恐怖レベルを大きく引き上げていると思います。
【大原】ちなみにこれを作ったのが、まさに冒頭でお伝えした五味弘文さんなのですが、ただ歩いて怖がらせる、という元来のお化け屋敷に、ミッションを追加した元祖。リアル脱出ゲームほどのミッションではなく、最初に渡されるアイテムを決められた場所に置くというものなのですが、シンプルな分、謎を解くプレッシャーから解放され、ストーリーのひとつとして楽しめます。
【大原】五味弘文さんはまさに大型の仕掛けを編み出し続けている方でもあるのですが、すごいスピードで追いかけてくるお化けや、机の下を這って移動する際に、机の上でお化けが暴れる演出など、とにかく斬新で怖い仕掛けを毎年発表していらっしゃいます。
【大原】また、最近では積極的に新しい技術ともコラボをしていて、数多くのデジタルアートを手掛ける「チームラボ」が映像演出を手掛けていたり、アートイベントで大人気のアート作品を作る志茂浩和教授とともに、すりガラス越しにお化けが見える仕掛けを作ったりと、積極的にお化け屋敷をアップデートし続けていらっしゃいます。