「カガクでネガイをカナエル会社」のキャッチコピーで、化成品から機能性樹脂、発泡樹脂、食品、ライフサイエンス、エレクトロニクス、医薬品、医療機器といった幅広い分野で事業を手掛ける株式会社カネカ(以下、カネカ)。業界をリードする大手総合化学メーカーとして、日本をはじめ世界中の企業や消費者に化学のチカラで貢献している。
そんなカネカが近年力を入れているのが乳製品事業だ。およそ5年前の2018年に参入して以来、ついに2022年8月には待望の新商品「わたしのチカラ(R)Q10ヨーグルト」(以下、Q10ヨーグルト)を発売。他企業が販売するトップクラスのヨーグルトと並ぶ売り上げを達成し、さらには『日経トレンディ』の「2023年ヒット予測100」にて最高評価の三つ星を獲得するなど、今最も勢いのある商品のひとつとなっている。
しかし、大手総合化学メーカーのカネカがなぜヨーグルトを開発することになったのだろうか。今回はカネカ Foods & Agris Solutions Vehicle 乳製品開発 Strategic Unit 販促企画チーム チームリーダーの天川隼人さんに、Q10ヨーグルトの誕生秘話やヒットの理由などについて話を聞いた。
乳製品事業参入のきっかけは「酪農家を救いたい」
カネカは1949年創業の老舗の化学メーカー。発足当初は塩化ビニル樹脂、発酵法ブタノール、モダアクリル繊維、ビーズ法発泡ポリスチレン樹脂などを扱っており、高分子と発酵技術による基盤事業を続々と企業化していった。また、同時期にはマーガリンやショートニングなどの食品事業についても積極的に強化していき、多角的な事業展開を行っていった。
「実は、弊社の売り上げの4分の1ぐらいは食品なんですよ。パン屋さんやお菓子屋さん、ケーキ屋さんの扱う原料がメインですね。具体的には、イースト菌やホイップクリームとか、マーガリンなどですね。特にパン屋さんについては、小麦粉以外のものはすべて弊社で手配できると言われるほど、多くの商材を取り扱っています(笑)」
創業当時より食品事業の強い地盤を持っていたカネカ。製パンや製菓を中心とした食品事業の次の一手として、白羽の矢を立てたのが乳製品だった。乳製品への事業展開が始まった理由には、近年の酪農家たちの苦しい状況を少しでも良くしたいという、カネカの強い想いがあった。
「私たちが乳製品事業を始めた背景に、国内の酪農業が後継者不足や労働力不足などにより、厳しい環境にさらされ、離農が加速するなどの問題が存在することがあります。乳製品事業を通して、国内の酪農業を応援するために、地元の酪農家と共に牧場を運営するなどの川上側にチャレンジすることに加え、付加価値のある乳製品を自分たちで開発・販売するという川下側も作っていくという、生産から商品製造、消費までの食のプラットフォームを作ることになりました」
「女性の抱える悩みに寄り添いたい」
事業開始から5年以上の月日が流れ、ついに完成した商品が、わたしのチカラ(R)Q10ヨーグルトだった。このヨーグルトの特徴は「睡眠の質の向上」、「起床時の疲労感の軽減」そして、「一過性のストレスの軽減」という3つの機能が備わっていること。これらの悩みを解決するための秘訣が、ヨーグルトに入っている還元型コエンザイムQ10だ。
コエンザイムQ10とは、人が生きるために必要なエネルギーを細胞の中のミトコンドリアが作るために必要不可欠な成分。これが体内に十分にあれば、エネルギーを作り出す力が活発になり、細胞が元気な状態になる作用を持っている。また、コエンザイムQ10には「酸化型」と「還元型」があり、還元型は直接的・間接的に抗酸化作用を発揮して細胞のダメージを軽減し、細胞が元気な状態を維持してくれるのが特徴だ。
「もともと、コエンザイムQ10は心臓の薬から始まっていて、そこからサプリメントや食品に広く使われるようになったりと、年々用途が広がっています。弊社としてはコエンザイムQ10をより多くの人に気軽に摂取いただきたいという想いがありました。特に、女性が抱えることが多い睡眠やストレス、疲労感という問題を解決したいという願いを込めて、日常的に食べやすいヨーグルトとして開発することになりました」
業界初のコエンザイムQ10が入っているヨーグルトの開発に成功したカネカ。だが、開発の途中は苦労も絶えなかったそう。特にヨーグルトとコエンザイムQ10を混ぜ合わせるのが難しく、開発当初はなかなかうまく行かずに粘度の高いドロッとしたヨーグルトになってしまったこともあったとか。これまで薬やサプリメントとしての使用がメインだったこともあり、食品として口当たりよく食べやすい状態になるまでに、長い年月がかかったという。