ルネサンス期の思想家であるデジリウス・エラスムスが遺した言葉に、「節約はかなりの収入なり」というものがある。節約すればより多くのお金が残るのだから、それは収入が増えたことと同じだという意味だ。至ってあたりまえの思考ともいえるが、この言葉に賛同するのは、経済にも明るいお笑い芸人のパックンことパトリック・ハーランさん。一方で、「収入を増やすことも大切」だという。
得点以上に失点してしまえば、お金の勝負に勝てない
お金を手元に残すには、ふたつの手段があります。なるべくたくさんのお金を稼ぐという「攻める」手段と、そうして得たお金を節約によってなるべく多く残す「守る」手段です。
そのふたつの手段によりお金を残すことができるわけですが、僕自身は後者から考えるようにしています。理由は明白で、どんなにたくさんのお金を稼いだとしても、あればあるだけ使ってしまえばお金を残すことができないからです。
スポーツにたとえるとわかりやすいかもしれません。野球にしろサッカーにしろ、攻めて点を取ることはもちろん大切ですが、どれだけたくさん得点しても、それ以上に失点してしまえば勝負には敗れてしまいます。だからこそ、お金の勝負に負けないよう守ることが大切だというのが僕の基本的な考えです。
お金の使い方に関して、僕はまさに「勝負事」のようにとらえているところがあります。以前、ある家具店で超かわいいソファを見つけました。虹よりも輝いているようなイタリア製のソファで、触り心地も座り心地も最高。「これが家にあるだけで幸せだろうなあ」と妻とふたりで話していたのですが、値段はなんと120万円……(苦笑)。
とりあえず一旦、保留にして「よく考えて明日また来よう」ということになりました。でも、僕は翌日にわざと別の予定を入れて、結局その店に行かなかった。すると、3日ほど経つうちに、「うちにはネコもいるし、ポテチが大好きなおっさん(僕)もいるし、汚す条件がそろっているではないか」「そんな状況では、120万円のソファを守ることができない」と、熱が冷めてきたのです。
これは、余計な出費を防ぎ、まさに僕がお金の勝負に勝った瞬間です。今でも、その家具店の近くを通るたびに、「ここは僕が勝利を収めた現場だ!」と思っています。僕の出身地であるコロラド州の野球場でノーヒットノーランを成し遂げた野茂英雄さんも、メジャーリーグ通算3000本安打を達成したイチローさんも、そのクアーズフィールドに行くたびに僕と同じような気持ちになっているかもしれませんよ(笑)。
商品としての自分を売り込み、「給料交渉」をする
しかし、残念ながら節約には限界があります。たとえ生きていくために必要な最低限の支出になるまで節約したとしても、収入が低ければ低いほど手元に残るお金は少なくなります。スポーツだってそうでしょう?しっかりと守って相手を無得点に抑え込んだとしても、自チームも無得点では、負けないまでも勝つことはできません。
ですから、将来に向けてお金を残したいのであれば、普段の支出をなるべく抑えてお金を守ることを大前提としつつも、できるだけ収入を増やしていく「攻めの手段」も考えなければならないのです。
そうするためにはどんなことが必要でしょうか。一般のビジネスパーソンのみなさんに僕からアドバイスしたいのは、「自分を商品としてとらえる」ことです。この認識が、アメリカ人と比べると日本人には欠けていると感じています。「給料交渉」に対して日本人は消極的に見えます。もちろん、日本人の謙虚さは長所でもありますが、もう少し積極的になってもいいかもしれません。
今でこそ成果主義の会社も増えてきているようですが、日本で長く続いた年功序列制度の名残なのか、「昇給は勝手にするもの」「勤続年数が増えたら給料も上がる」というイメージを持っている人が多いようです。
しかし、給料とは会社への貢献度に応じてもらうものだと僕は考えます。それこそ年功序列制度が崩壊したともいわれるようになった今であれば、商品としての自分の価値を上げてなるべく高く売り込む必要があります。
もちろん、入社したときに比べて進歩がないなら、給料も変わらなくて当然です。でも、たとえ上から頼まれた仕事でも以前よりうまくこなせるようになっていたり、新たなスキルを身につけていたり、コネクションを増やしていたり、なんらかの事業の開発に携わったといった実績を残していたりするのなら、それらをアピールして給料交渉すべきでしょう。