多くの料理に使用する調味料。とりわけ塩は使用頻度が高く、気がつくと容器の中で固まってしまい思うように出てこなくなることもあるのでは?これは湿気が原因で、湿気により塩の表面に水分が付着すると、湿度が下がったときに周りの塩と結晶をつくり、この結晶がどんどん大きくなって塊になっていくことに起因するようだ。
塩に限らず、多くの調味料で同様の現象は起こる。そうしたとき、スプーンなどで削り出したり、思いきり振ったりして解決しようとするものの、一度固まってしまうと簡単には元に戻らない。料理中に余計な手間が増え、面倒な経験をした人も多いのではないだろうか。
こうした不快な出来事を防いでくれる「カタマラーーン」という商品が、シリカゲル乾燥剤を企業向けに販売している山仁薬品株式会社(以下、山仁薬品)から発売されている。容器にひとつ入れるだけで調味料が乾燥して固まることなく使えるという優れモノだ。
山仁薬品は長らく医薬品用の乾燥剤の製造販売を製薬メーカー向けに行ってきた企業で、2024年で創業70周年を迎える。その山仁薬品がなぜ一般消費者向けにカタマラーーンを発売したのか、開発のきっかけやその苦労について代表取締役関谷康子さんに話を聞いた。
何気なく起こした行動から生まれたカタマラーーン
創業者である関谷仁朗さんは塩野義製薬で働いていたころシリカゲルの存在を知り、「日本は高温多湿な地域だから、絶対に必要としている人がいる」と考え、西日本でいち早くシリカゲルの販売をスタートした。これが現在の山仁薬品の創業のきっかけなのだそう。はじめはシリカゲルを布で包みミシンで縫い合わせたものを販売していたのだとか。
2代目となった関谷仁宏さんはアイデアマンだったそうで、工場生産への切り替えやタブレット型、シート型といったさまざまな形状でのシリカゲルを生み出した。その結果、多くの販路を開拓したのだそう。現社長である関谷康子さんも先代の想いを受け継ぎながら、医薬品メーカーや一般消費者へニーズに合わせたシリカゲル乾燥剤を開発し、販路を拡大していっている。
「世の中にある『不』を『快』にするという想いを持ってシリカゲルの可能性を探っています。湿気によって調味料が固まるとか、汗や匂いで服が傷むとかは、仕方ないことだと多くの人があきらめてしまっていると思います。ですが、そういった小さな不快をなるべく取り除いて気持ちよく生活できるようなものを私の経験も踏まえながら作りたいと思っていたんです」
シリカゲルという名前を知っていて、食品や医薬品の容器の底に入れられているものという知識を持っていたとしても、そもそもどのような素材なのか、なぜ乾燥を防いでくれるのかといったところはよく知られていないのではないだろうか。実はシリカゲルはガラス似た成分で、酸やアルカリと反応しないので、誤飲しても安全性が高い素材となっている。山仁薬品では輸入したシリカゲルをタブレット型やシート型に加工する技術を持っており、タブレット型に加工している企業はほかにはないのだとか。
こうした技術を用いて開発された調味料用の乾燥剤「カタマラーーン」は、関谷さんが何気なくシリカゲル乾燥剤を使った際、その効果に驚いたことがきっかけだったのだそう。
「15年くらい前のことなんですが、錠剤の乾燥剤を家に持ち帰って、何気なく調味料に入れてみたんです。どれくらいの効果があるものなのかなと試してみる狙いも込めて。私、それまで調味料を最後まで使い切れたことがなかったんです。途中で固まってしまって。でも、この時生まれて初めて調味料を最後まで使い切ることができたんです。これはすごいと思って商品化の可能性を感じました」
しかし当時は、医薬品メーカーへの販路開拓に集中していた時期であったため、日用品のようなものを開発する余裕がなかったそう。しかしその後、新型コロナウイルスが流行し、おうち時間が増えたことで料理をする人が増加。さらに、ソーシャルディスタンスを保ちながら友達と食事ができるという理由からBBQの人気が高まり、料理への関心が上がったことで調味料自体の市場が大きくなったのだそう。こうした変化を受けて、関谷さんは「今ならできるんじゃないか」と考え、調味料に使えるシリカゲル乾燥剤の開発に2021年から本格的に乗り出したのだそう。
「ゼロからイチを作り出すのはすごく難しいんですが、今あるものを工夫して作るならコストも少ないんです。先代が生み出した錠剤タイプの乾燥剤の技術を応用して、見た目や名称を工夫することで開発することができました」
消費者向けに1万人アンケートを実施した際には、67%が「調味料が固まった経験がある」という回答が得られ、乾燥剤のニーズが存在することを強く感じたのだそう。シリカゲルのパイオニアだからこそ気づけた潜在的ニーズだったのかもしれない。