2024年6月に首都圏・関信越の1都9県で発売されたアサヒビールの「未来のレモンサワー」。フルオープンのプルトップを開くと、ふわりとレモンスライスが浮いてきて、本物のレモンスライスならではの香りや味が楽しめる。6月に販売された分はあっという間に完売。8月27日(火)に2回目の販売がされることになった。RTD(Ready to Drink、フタを開けてそのまま飲める飲料のこと)に旋風を巻き起こした「未来のレモンサワー」がどのようにして生まれのか?開発の苦労やこだわりをアサヒビール株式会社マーケティング本部新ブランド開発部担当課長の山田佑さんに聞いた。
生ジョッキ缶で生まれた技術を利用するも、さまざまな壁が立ち塞がる
未来のレモンサワーの缶はフルオープンタイプだが、この缶は2021年4月に発売された「アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶」と同タイプのものだ。缶のフタが全開し、泡が自然発泡する同商品は、驚きを持って迎えられ、爆発的なヒットを記録。国内外でさまざまな賞を受賞した。
「生ジョッキ缶の誕生は、今までのプルタブのビールを缶から直接飲むときになかった“泡を楽しむ”という要素が缶ビールに加わった出来事でした。お客様のワクワク感、期待感を高揚させられる、新しい市場を作れたと自負しています。生ジョッキ缶で得た技術をチューハイなどの他のRTD商品に応用できないかというのが開発のスタートでした。RTDは市場として大きなものですが、当社としてはこのカテゴリで大きなシェアを獲得できるような商品がまだない状態で苦戦していたというのもあり、生ジョッキ缶の技術応用によって、シェアを獲得できる強い商品を作り出したいという目標がありました」
マーケティング部、研究開発チームとアイデアを出し合うなかで、「居酒屋の生搾りチューハイを缶で再現したらおもしろいのでは」という着想から、本物のレモンを入れた商品開発を目指すことになった。
「スライスにするのか、櫛形にするのか、レモン以外の果物にするのか……形状や種類を決めたあとも、今まで固体物を入れるような商品がなかったので、ありとあらゆる部分でこれまでにはない壁がありましたね。まず、レモンスライスの原料となるレモンをどこから得るのかも大きな課題でした」
世界各地のレモン産地を巡り、農家やサプライヤーをあたっていったそう。
「そして見つけたのが中国四川省のレモンでした。四川省は中国におけるレモンの一大産地なのですが、量・品質と我々の基準に合うものがありました。ポストハーベストといって、収穫後に農薬を散布することがあります。輸出農産物は、運送中に害虫やカビによって品質が下がってしまうことがあり、それを防ぐためのものでレモンではそうした処理をされているものが多いんです。しかし、ポストハーベストをされていないものを確保しました。そのうえで、中国現地で乾燥と糖づけをして日本に持ってくることで、高品質のレモンスライスを用意することができました」
レモンスライスの供給源が確保できればそれで問題解決かといえば、違ったという。
「レモンを入れたあと、ドリンクとして品質を安定させるのも難しかったですね。賞味期限である12カ月の間にレモンが中でぐちゃぐちゃになってしまわないか、微生物系の検査など、今までにない商品なので、スキームをゼロから構築して品質検査をしていきました。未来のレモンサワーは、缶を開けたときにレモンが浮き上がってくる様子が見えるのも魅力のひとつなんですが、レモンが浮き上がってくる厚さを決めるのにも実験を繰り返しましたね。あとは、レモンスライスをどうやって缶の中に入れるのかという課題もあり、ロボットもイチから作りました。そうした問題をひとつずつクリアしていくことで、味も品質もよい商品を作れたと思っています。特にレモンスライスについては輸入レモンを使用しているということで、農薬の心配されるお客様もいらっしゃるかもしれませんが、全く問題ありません。サワーを飲むだけではなくて、中に入っているレモンスライスも召し上がっていただきたいです」