「吉沢亮がいなければ『国宝』は立ち上がらなかった」監督が明かす映画誕生秘話、横浜流星との“心中”覚悟も告白

東京ウォーカー(全国版)

興行収入162億円(※2025年10月13日時点)を突破し、世界50以上の国と地域での公開が決定した映画『国宝』。第98回米国アカデミー賞国際長編映画賞の日本代表作品にも選出され、まさに日本から世界へと羽ばたく作品となった。この歴史的大ヒットを生み出した李相日監督が、吉沢亮さんへの絶対的な信頼と、横浜流星さんを起用した際の覚悟、そして15年にわたる歌舞伎映画への想いを詳細に語った。

李相日監督。15年前から温めていた歌舞伎映画への想いを『国宝』で結実させた


15年前から温めていた歌舞伎映画への想い

「もう15年くらい前になりますか…『悪人』が公開された頃、歌舞伎の女形を中心とした映画を撮りたいと思ったことがありまして」

李相日監督はそう振り返る。自分なりにリサーチをするなどして歌舞伎に触れていったが、今にして思えば、それが『国宝』の“卵”だったのかもしれないという。実在する人物をモデルにしたストーリーを考えていたが、なかなか手がかりをつかめず、ハードルの高い題材であると実感することになった。その後、吉田修一さんが歌舞伎を題材にした新聞の連載小説をスタートさせると聞いて、どのように歌舞伎を描かれるのか純粋に楽しみにしていたという。

女方の舞踊の名作『二人藤娘』を演じる喜久雄(吉沢亮)と俊介(横浜流星)。可憐な舞台姿は息をのむ美しさ


「小説が刊行されてすぐに『国宝』の映画化に動き出したわけではないんです。以前の企画が難航した経験もあって、様子を見つつ…何となく『映画にしてはどうか』という気配が蒸溜されていく中で、少しずつ慎重に実現化を探っていったという感じでした」

“吉沢亮ありき”から始まった映画化

芸に身を捧げる覚悟を決める喜久雄(吉沢亮)

「ただ、一つだけ確かだったことがあって。それは『国宝』の主人公・喜久雄を演じるのは吉沢亮しかいない、ということでした」李相日監督はそう断言する。

彼が演じる喜久雄が物語の軸・幹となるのは必然で、その半生を描くにあたってエピソードを満遍なく選定すると、単なるダイジェストになってしまう。紆余曲折、山あり谷ありの半生を経て喜久雄がどこにたどり着くのか、その軌跡をたどる流れが作れれば映画としてカタチになると監督は考えた。

「となると、やはり筆頭になるのは俊介との関係性であり、花井半二郎をはじめとする大垣家の一族、そこに絡んでくる春江といった存在がクローズアップされてくる。そして、何よりも歌舞伎という題材と正面から向き合う必要があるわけです」

横浜流星との“心中”覚悟のキャスティング

才能と嫉妬、尊敬と競争心――、正反対の出自を持つ喜久雄と俊介の関係性が、この物語の重要な軸となる

ストーリー的には血筋の呪縛や、極道の息子である喜久雄が歌舞伎の世界に飛び込んでくるといった要素が織り込まれているが、光と影のように表裏一体の2人=喜久雄と俊介が、どうやって互いの魂を“交歓”させていくかを舞台上で見せていくことに、本質があると監督は考えていた。

「そのためにもどの演目を選び、その演目の中でどこを抽出し、どのように2人が『ともに歩む』姿をセットアップしていくか、脚本を開発しながら同時に考えていって。さらに俊介を誰に演じてもらうかが非常に重要な要素で、プロットの時点で人選を進めていきました」

俊介は、主役を務める吉沢さんと並び立つほどの存在感を持った俳優でなければならない。そういう意味でも一番キャスティングに悩んだ役でもあったという。

結果的に横浜流星さんに演じてもらったが、『流浪の月』で組んだから引き続きというものでもなくて、候補に挙がった役者の中から絞りに絞って、プロデューサー陣とも相談をしながら、「流星のひたむきさやストイックな姿勢に、もう一度懸けてみよう」と、心中するような気持ちもありつつ、彼に白羽の矢を立てた。

喜久雄の親友でありライバル・大垣俊介役の横浜流星さん


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