全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。
関西編の第110回は、和歌山市の「茶豆」。一見、小さなスーパーのようなフロアに、焙煎所とスタンドを構えるユニークな一軒だ。実は「茶豆」は、店主・石井聡さんと妻の佳奈さんが立ち上げたグロサリー、フードセンターイワセに併設してオープン。当初からフルーティーな浅煎りに特化して、ときに希少な豆も提案している。とはいえ、専門店の敷居の高さとは無縁のフランクさが、この店ならではだ。石井さんは店に立つ傍ら、地元ロースターのつなぎ役として、和歌山コーヒーシーンの盛り上げにも力を入れている。
Profile|石井聡 (いしい・そう)
1991年(平成3年)、和歌山県生まれ。高校卒業後、和歌山市内の建設関連会社に就職。仕事の合間に方々の喫茶店に立ち寄るなかで、コーヒーに関心を持ち、自らも喫茶店主を志す。約7年の会社勤めを経て、飲食店などで経験を積み、市内の老舗・喫茶ピュアで修業。この間、修業先の自家焙煎の立ち上げに携わったのを機に、ロースターでの独立を目指し、2020年から週1回のコーヒー屋台「茶豆亭」を2年間出店。2022年、ケータリング専門店・ozz kitchenを営む奥様・佳奈さんと共にフードセンターイワセを開業し、店名を「茶豆」に改称。2023年から、和歌山のロースターを巡るスタンプラリーイベント・COFFEE ROASTER HOPPINGを企画・運営している。
スーパーで買い物ついでにコーヒーブレイク
和歌山市の東の郊外にぽつりと立つ、一見、スーパーと思しき店構え。店先から中をのぞくと、野菜や食料品が並ぶフロアの奥に、目を引く青い焙煎機。スタンディングのカウンターでは、買い物客がカップ片手に談笑する姿も。「はじめのうちは“何屋さん?”とよく聞かれました(笑)」とは店主の石井さん。ケータリング専門店を営む奥様の佳奈さんと共に立ち上げたここは、地元食材に特化したグロサリーにして、コーヒーロースターでもある。夫婦の生業を合体させて生まれたユニークな一軒だ。
さかのぼると、石井さんがコーヒーに興味を持ち出したのは、建設業の会社に勤めていた頃。仕事の休憩などで喫茶店に入ることが多くて、市内の自家焙煎コーヒー店・ファイブに通うようになったのがきっかけだった。「上司に連れて行ってもらったのが最初で、ブルーマウンテンとか、その頃、高級とされた豆を置く店として知られていて、訪れたコーヒー店の中でもコーヒーに明らかな違いがあった。そこから、自家焙煎にスポットを当てて店を巡るようになると、和歌山ではほとんど深煎りしかないことに気づき、他府県にも足を延ばしたことで、浅煎りのコーヒーにも出合うことができました」と振り返る。
この頃は、会社で溶接の職人を目指していたが、次第に喫茶店の仕事に惹かれていった石井さん。「コーヒー飲んでくつろぐ時間が好きで。歳を取っても続けている店も多く、生涯現役でできるのがいいなと思っていました」と、25歳にしてマスターを目指して転身。経験を積むべく、喫茶・飲食店での仕事を渡り歩く中で、さまざまな偶然が重なって縁を得たのが、老舗の人気店・喫茶ピュアだった。「当時は喫茶店をやるなら、ランチやモーニングが必須だと考えていて。フードメニューが人気の喫茶ピュアに入れたのはラッキーでした」
広いフロアと多彩なメニューを備える喫茶ピュアでは、皿洗いから始まり調理補助、イベント開催、自家栽培の米作りまで、見習いとして喫茶店のあらゆる仕事を経験。どちらかというと料理を目的にしていた石井さんだが、思いもよらない転機が待っていた。