コーヒーで旅する日本/関西編|スーパーの中に焙煎所が出現? 気取らぬ雰囲気で多彩なコーヒーの楽しみを発信。「茶豆」
東京ウォーカー(全国版)
修業先で見出したロースターへの可能性
石井さんの先々の思惑を大きく変えたのは。ひょんなことから喫茶ピュアが自家焙煎を始めたこと。「とにかくマスターの決断と行動が早すぎて、怒涛のスピード感で始まった(笑)」という通り、手網や手回し焙煎機で始めて、半年も経たずに1キロの焙煎機が導入された。「マスター自身も焙煎は初めてだったので、手伝うというレベルではなく、一緒に一から取り組んで、試行錯誤できたのは大きかったですね。手網から始めて、データ計測とか真似して、一からやれたのは貴重な経験。その中で、1つのことを集中して追求する姿勢を見て学んだ気がします。自分が店をするのはまだまだ先で、現実味が湧かなかったですが、ここで、コーヒーの仕事をぐっと身近に感じられました」。このときの経験から、先々のロースターという選択肢が増え、さまざまな豆を焼き、試してきた中で、がぜん浅煎りのおもしろさに惹かれていった。
これを機に、手回し焙煎機で自分の豆も焼き始めた石井さん。喫茶ピュアで過ごした5年のうち最後の2年ほどは、休みを1日増やしてもらい、週1回、市内でコーヒーの屋台「茶豆亭」を出店。今の屋号はこのときから続くものだ。この頃には、佳奈さんも独立してケータリングozz kitchenを始めていたが、コロナ禍によりケータリングが減り、屋台では弁当の販売も一緒に行った。同時に、佳奈さんのアイデアを取り入れ、レモン、ミカン、ジンジャーなど和歌山の食材を使ったアレンジドリンクや、現在、店の名物になっている米粉ドーナツなどメニュー提案も広げた。また、並行してイベント出店も参加するなかで、地元のコーヒー文化を伝え、新たな取り組みを広げようと、仁尾さんの協力を得てワカヤマコーヒーマーケットの企画も実現。折しも若手コーヒー店主が登場し始めた時期でもあり、コーヒーシーンの変化を体現した。
その後、屋台で野菜の販売もしていたことにヒントを得て、2022年に夫婦でフードセンターイワセを開店。屋号も「茶豆」とあらため、ロースターとしての拠点を構えた石井さん。和歌山では初となる、ディードリッヒ製の焙煎機を導入し、スーパーとロースターが同居する、ユニークな店のスタイルで、オープン当時から話題を呼んだ。
和歌山を訪れるコーヒー好きの窓口に
「茶豆」は、開店当初から浅煎りのスペシャルティコーヒーを前面に推してきた、和歌山でも先駆け的な存在。「浅煎りは自分の好みでもあり、今までは飲みたいと思っても、県外に行くしかなかったので」と、自店では、石井さんお気に入りのアフリカのナチュラルプロセスを中心に、スペシャルティの中でも特にユニークな果実味を持つ銘柄を厳選する。専門店では少々腰が引けるかもしれないが、スーパーの中とあって、買い物ついでに気楽に飲める雰囲気はここならでは。修業時代から焼き続ける定番のタンザニア、エチオピア、ケニアなどフルーティーな風味が際立つコーヒーは、130ccのスモールサイズでも提供。飲み比べするのも一興だ。
一方、店に立つ傍ら、同時期に開業したロースターと焙煎の勉強会も開催。「ここ何年かで、和歌山のコーヒーシーンも世代交代が進み、横のつながりが広がったのが大きい。逆に自分の勉強にもなるし、一人で技術を磨くのも限界があるから、周りの店で誰かが課題を持っているときに集まったりしています」。ここから、2023年には和歌山初のロースターを巡るスタンプラリーイベント「COFFEE ROASTER HOPPING」も企画・開催。自分達の技術向上とお客さんにもそれが伝わるように、以前から集まって勉強会をしていたメンバーを中心に、初回が9店、次年度は11店が参加。スタンプラリーのお客だけで1日40人を数える日もあるほど盛況を博した。「自分たちの思っていた以上に反響があり、コーヒーを飲み歩く楽しさに気づいてもらえ、たくさんの自家焙煎店があることに気づいてもらえて自分がコーヒーにハマり始めた頃を思い出しました」と振り返る。
さらに2023年は、チーム和歌山として東京で焙煎競技会に参加。「結果よりも和歌山のロースターを認知してほしい思いが強かった」と石井さん。地元ロースターのつなぎ役として労を厭わず、普段から、自店のお客の好みに合う近隣の店を紹介するなど、エリア全体の盛り上げにも腐心。2024年には、勉強会のメンバーから、若手焙煎士の競技会でチャンピオンを輩出するなど、和歌山のコーヒーシーンの盛り上がはを年々増している。
「全国に和歌山のコーヒーを知ってほしい。逆に地元でもおいしい多彩なコーヒーが飲めることも知ってほしい。そのときに、コーヒー好きの窓口にここがなれればと思う。専門店は敷居が高いけど、ここなら誰でも気兼ねない (笑)。これ以上入りやすい店もないので、ここからコーヒー好きの裾野を広げていきたい。自分もお店の方の紹介でいろんな店を巡っていたので、続けていかないとかっこつかないですよね」。もとより、生涯現役のつもりで始めたコーヒー店。開店から3年目、先はまだ長い。「最終的には喫茶店をやりたい。元々は定年後にできればと思っていたくらいなので、今もまだその途中のつもりです(笑)」
石井さんレコメンドのコーヒーショップは「喫茶ピュア」
次回、紹介するのは、和歌山市の「喫茶ピュア」。「喫茶店での開業を考えていたときに、充実したランチ・モーニングで人気の喫茶ピュアは理想的な修業先でした。元々はフードメニューの修業のつもりで入ったんですが、店主の松本さんが自家焙煎を始めて、一緒に試行錯誤するなかで、先々ロースターで開業するという方向性に現実味を持てました。喫茶店の運営や焙煎の経験はもちろん、自家栽培の米作りも学んで、ここでの経験が自分の店作りの土台になっています」(石井さん)
【茶豆のコーヒーデータ】
●焙煎機/ディードリッヒ 2.5キロ(半熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(フラワードリッパー)
●焙煎度合い/浅~中深煎り
●テイクアウト/ あり(560円~)
●豆の販売/シングルオリジン5~6種、60グラム480円~
取材・文=田中慶一
撮影=直江泰治
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