近年は映画『劇場版 アナウンサーたちの戦争』(2024年)や『雨の中の慾情』(2024年)、舞台 『台風23号』(2024年)、『ヴォイツェック』(2025年)、『砂の女』(2026年)などの主演を務め、さまざまな作品で活躍を見せている森田剛さん。
最新主演作となる映画『見上げてごらん』では、巨匠マンガ家のアシスタントを長年務める42歳の土屋輝一を演じている。
インタビューでは、撮影秘話や“人間臭くて魅力的”だったという役柄について、さらに劇中に登場するセリフにまつわるご自身の考えなどを語ってくれた。
夢を捨てきれないまま仕事をしてきた主人公「相手によって見せる顔が違うところが演じていておもしろかった」
――最初に脚本を読んだときの感想を教えていただけますか?
【森田剛】お話をいただいた当初の脚本は、タイトル含めて完成版とは違っていて、そこからどんどん変化していったのですが、最終的にはキャラクターそれぞれが悩みを抱えて生きていて、誰もが共感できる物語になったなと。切なさもユーモアも盛り込まれた、二人の監督のセンスが光る珍しい作品だと思いました。
――巨匠マンガ家のアシスタントを長く勤め、人気声優の妻と別居して娘と暮らす42歳の主人公・土屋輝一という役柄を、森田さんはどんな人物だと捉えられたのでしょうか?
【森田剛】ちょっと面倒くさいところもありますが、愛を持っていて、“ちゃんと傷付く”という繊細さもあって、すごく愛おしいキャラクターというか…人間臭くて魅力的な役だと感じました。
――“愛おしい”と感じた部分はどんなところでしたか?
【森田剛】本作は森本晶一さんと佐藤快磨さんのお二人が監督を務めているのですが、脚本を担当した森本さんがとってもチャーミングな方で、そこがすごく土屋と重なるんです。森本さんの人柄がそのまま反映されたキャラクターだからこそ、土屋を“愛おしい”と感じたんだと思います。
――そんな土屋を演じてみていかがでしたか?
【森田剛】相手によって見せる顔が違うところがおもしろかったです。特に家族とのシーンは、言いたいことがたくさんあるはずなのに、ついつい押し殺してしまう。そこにすごく優しさを感じたのですが、観る人によっては“なんて焦れったい奴なんだ!”と思うかもしれませんね。
優しい一面を覗かせることもあれば、拗らせ感情を前面に出して周りを変な空気にしたり(笑)。そんな土屋を演じるのは、とても新鮮で楽しかったです。
――先ほど土屋について“面倒くさい”“人間臭い”と仰っていましたが、確かに“夢を叶えた人”に対する嫉妬心から、面倒臭い部分を見せて周りをドン引きさせた場面もありました。一方で、早瀬憩さん演じる娘・ひかりちゃんには父親らしい態度で接していますよね。
【森田剛】土屋は娘に対して“嫌われたくない”と思っている部分ももちろんあるのですが、うそはないというか、本音で向き合っていると感じました。だから娘と一緒にいるときは、土屋の本心が見えるシーンになっていると思います。
土屋がアシスタントとして働く職場「学生時代の青春っぽさや懐かしさが感じられて、“なんか、いいな”と思ったんですよね」
――監督がお二人いる珍しい現場だったかと思いますが、印象に残ったことを教えていただけますか?
【森田剛】通常の現場だと監督と1対1の対話をしますが、本作では監督お二人と三人で相談することが多かったので、単純にアイデアが2倍になるというか、選択肢が広がった感覚があってすごくよかったです。
――常にお二人とも現場にいらっしゃったのでしょうか?
【森田剛】現場では森本監督と佐藤監督それぞれがお一人で演出をされることもありましたし、二人一緒に演出されることもありました。
――森本監督と佐藤監督は映像制作集団「分福」の先輩後輩という関係性だそうですが、それぞれ違った演出をされることも?
【森田剛】そうですね。お二人が違う視点で物事を見ているのがわかるというか、意見がぶつかるからこそおもしろくなるんだなと感じる瞬間はたくさんありました。僕はお二人と個人的な話をするというよりは、役や作品をとおしてしか会話をしていないのですが、柔らかい空気を纏っていて接しやすかったですし、やりたいことがそれぞれ明確にあるのが伝わってきました。
お二人とも“芯”がしっかりしているので、その分本作への熱意や力強さみたいなものを感じて、いい影響を受けながらお芝居していたように思います。
――土屋の職場である吉住プロは古いマンションの何もなかった部屋に吉住プロのセットを創り上げたそうですが、美術や小物などでお芝居にプラスの影響を与えたものがあれば教えていただけますか?
【森田剛】仕事机に置かれていたガムとティッシュはお芝居で結構使いましたね。ティッシュでペンを拭うとか、“土屋ならこれを使ってこんな動きをするかな?”とあれこれ想像しながら演じるのはおもしろかったです。吉住プロだけじゃなく、土屋の住むマンションの部屋も丁寧に作り込まれていて、本当に素晴らしかったです。
――吉住プロで土屋がほかのアシスタントの方々とコミュニケーションを取っているシーンは、和気藹々としていて和みました。
【森田剛】恋バナをしたり、職場恋愛っぽい雰囲気もあったりしましたよね。でも土屋としては…ちょっと居心地が悪かったというか(笑)。
――恋バナとか興味なさそうですもんね(笑)。
【森田剛】はい(笑)。吉住プロでの撮影で印象に残っているのが、出前で頼んだ料理が届いたシーン。入り口近くにいた川上友里さん演じる山田ぽてとが「麻婆丼です!」ってほかのアシスタントに渡して、そこからバケツリレー方式で次々と料理を運んでいくっていう無駄なやり取りをしていて(笑)。
でも、そういうのって学生時代の青春っぽさや懐かしさが感じられて、“なんか、いいな”と思ったんですよね。すごく楽しい撮影でした。
――巨匠マンガ家・吉住はるをを演じた武田鉄矢さんとの撮影はいかがでしたか?
【森田剛】武田さんとのお芝居は勉強になりましたし、楽しかったです。土屋はほかのアシスタントよりも先生との付き合いが長いぶん特別な思いがあって、オフィスの中にある先生の部屋に入ることの重みをいまだに感じているんです。それなのに、森川葵さん演じる編集者の潮田は、軽い感じで先生の部屋に入っていくので、土屋は“なんだあいつ?”と思っていたんじゃないかなって。
武田さんが部屋にいないときも、(部屋の)前を通るだけでちょっとした緊張感がありました。それは武田さんが先生を演じてらっしゃったからこそというか、存在感がすごくありましたね。