いよいよ2020年の東京オリンピック・パラリンピックへ本格的に動き出した日本。しかしその中でも、パラリンピック競技への認知度は決して高いとは言えない。
この連載では、日本のトップパラアスリートに直撃し、競技者から見る競技の魅力や、普段あまり語られることのない素顔までをインタビュー。第1回は女子車いすテニスの二條実穂選手。2020年に向けての想いを聞いた。
「やるからには負けたくない」
――車いすテニスを始めたきっかけを教えてください。
二條「もともと大工をしていたのですが、23歳の時に仕事中に高所から転落してしまい脊髄損傷で車いす生活になりました。中学高校とソフトテニス部で、社会人になってからもテニススクールに通ってずっとテニスを続けていたので、夢だった大工という仕事と大好きなテニスの両方ができなくなってしまったことに入院中すごくショックを受けました。
そんな中、一日だけ外泊許可が出たのですが、夜中に目が覚めて寝付けなくなったのでテレビをつけたんですね。そこで車いすテニスのドキュメンタリー番組を見て、車いすになった自分でもコートに戻ることができると思ったことが車いすテニスとの出会いでした」
――その頃は今よりも車いすテニスの認知度は低かったのでしょうか。
「私がはじめて数年が経った頃、日本人の選手がたくさん活躍されてメディアでも取り上げられるようになったのですが、それまでは今よりは低かったと思います」
――趣味としてではなく競技者として活動しようと思ったのはどうしてなのでしょうか。
二條「車いすテニスをはじめてすぐの頃、ヨーロッパへ海外遠征に行きました。そこで世界のトップ選手を目の当たりにして、この選手に近づきたい、いつかこの選手を超えたいと思うようになったんです。
それからは、やるからには負けたくないし、自分も世界のトップを目指していきたいと思うようになりました。2007年には地元の旭川を離れるという大きな決断をして、パラリンピックを目指すために横浜に拠点を移しました」
読みと予測、駆け引きがより重要な競技
――二條選手から見た車いすテニスについて教えてください。
「車いすテニスのルールはツーバウンドまで認められている点以外は通常のテニスと変わらないんです。コートの大きさ、ネットの高さ、ボールやラケットもすべて一緒で、見ている方にとってもルールが分かりやすいのが魅力だと思います。ソフトテニスとは細かいルールがまた違うんですが、自分がやっていたことを、同じ場所でまた戦えるというのは私にとって大きな喜びでした」
――車いすだと視線の高さで見え方が大きく変わるかなと思うのですが。
「立ってテニスをしていた時の目線とはやはり見え方が違いますね。私が一番違うと思ったのが、コートのサービスラインからサーブを打つ時の相手のコートの見え方ですね。
違いと言えば、車いすテニスを始めたばかりの頃、健常な時は簡単に取れていたボールが車いすではなかなか取れなかったんです。なのでボールを打つ練習と同じくらい、チェアスキルが大切になってくる競技ですね。今の自分にとっても課題です」
――チェアスキルは車いすテニスならではの見どころと言えそうですね。
「車いすテニスではターンの方向をひとつ間違えるだけでボールを返せず致命的なミスにつながってしまいます。なのでチェアスキルは重要ですし、相手の癖を読んだり、セオリーから返球の位置を予測したりといった駆け引きがより大切になってくるので、そういったところは見どころだと思います」