近ごろ、コンビニやスーパーの棚でよく見かけるようになった透明なドリンク。パッと見は普通の水に見えるものの、コーヒーや紅茶、炭酸飲料など種類はさまざまで、透明化の波はとどまるところを知らない。
そんな中、国内大手ビールメーカーのアサヒビールが“究極のすっきり”を目指した透明なビール「クリアクラフト」の開発を発表。8月まで計3回のテスト販売を行っている。
今回、テストマーケティングの一環として登場した「クリアクラフト」。他の酒類と比べてアミノ酸の含有量や種類が多く、満腹感やあと味がやや重く感じられる一般的なビール類と比べ、無色透明ですっきりとした味わいがこのビールの特徴だ。
ビール造りでもっとも重要とされる、酵母によるアルコール発酵。発酵前の麦汁にアミノ酸や糖、その他の成分をしっかりと加え、酵母を増殖させることで、アルコールのほか、発酵由来の香りや酸味などをビール類に付加している。
一方で、アルコール発酵の際に酵母が食べなかった栄養分はビール類に残るため、味に深みを与える代わりに重たく感じる要因となってしまう。また、栄養が不足すると、アルコール発酵がうまくいかないばかりか、硫黄の不快な香りが生じるとのこと。
そこでアサヒビールは、麦汁中の栄養分を“減らす”のではなく、“極力なくす”という新たな発酵方法を編み出した。これは、麦汁に含まれる栄養分、特にアミノ酸を極力なくす代わりに、酵母を増殖させずにアルコール発酵をさせる新技術。これにより、発酵由来の味わいはそのままに、不快な香りは出さず、すっきりとした味わいを実現した。
また、ビール類の色や深い味わい、香りは、仕込工程中にアミノ酸と糖が熱によって起こるメイラード反応によって生み出されるが、栄養を極力なくしたことでその反応がほとんど起きなかったという。
そのため、もともと無色透明の「クリアクラフト」は、脱色によって味わいや香りを失うことなく、ビールらしい美味しさを保ったまま透明化を実現した。ちなみに、この点についてアサヒビール酒類開発研究所の大橋巧弥氏は「狙ったものではなく偶然の産物」と語っている。
さらに通常のビール類は醸造された原酒だけで製造されるが、“究極のすっきり”を目指す「クリアクラフト」は、蒸留酒やRTD(Ready to drinkの略語。「すぐ飲めるもの」という意味で、栓を開けてそのまま飲める酒)で製造される複数の原酒や成分をブレンド。このハイブリッド製法によって夏にピッタリのすっきりとした爽快な口当たりを実現した。
「クリアクラフト」は1回約3000杯限定で計3回、都内3店舗と大阪1店舗のグループ直営店でテスト販売を行っている。6月25日から実施された1回目のテスト販売では、わずか2日でそのほとんどが売り切れるという人気ぶり。
2回目の販売を7月21日(土)から予定しており、1回目で得たさまざまな意見を踏まえて、よりビールに近づけた味わいに調整していく方針だ(※3回目は8月下旬を予定)。
現状ではまだ販売の計画が立っていないため、今回のテスト販売が試飲する唯一の機会となる可能性大。この機会にぜひとも味わいつつ、今後の新たな展開を期待したい。
安藤康之