連載第9回 1997年「愛しあってるかい!名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史」

東京ウォーカー(全国版)

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1997年「名作を作りたかったら、強くなれ!」


名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史


サッカー日本代表チームがW杯への初出場を決めた一方、大手金融機関が立て続けに破綻し、神戸児童殺傷事件、ダイアナ妃の交通事故死、東電OL殺人事件など暗いニュースが立て続けに起こった1997年。「私が子どもの時に流行った五島勉さんの『ノストラダムスの大予言』で1999年世界が終わるという予言が、もしかして本当になるかも? というくらい絶望的な空気が漂っている時でしたね」と影山貴彦氏も振り返る。しかし、そんなムードを跳ね除けようとしたのか、ドラマは粒ぞろい。その中には社会現象となったあの大人気作品が!

刑事ドラマの流れを大きく変えた「踊る大捜査線」


―1997年は「踊る大捜査線」が放送開始した年です。

待ってました、と言いたいですね! 「踊る大捜査線」は刑事ドラマのエポックメイキング的な作品です。それまで刑事ドラマといえば逮捕劇、推理劇がメインでしたが、「踊る~」は刑事もサラリーマンである、という切り口が新鮮でした。制服の採寸や、「スリー・アミーゴス」と呼ばれる署長・副署長トリオが捜査本部の名前を決めるために一日中揉めるシーンなど、警察を社会見学しているような感覚になる小ネタが散りばめられていました。柳葉敏郎さん演じる室井は、警察庁長官官房審議官というキャリアでありながら、東京大学出身ではないという強烈な学歴コンプレックスを持っている設定。観ながら「(室井の卒業した)東北大学もじゅうぶん素晴らしいのだから、もっと胸を張れ」と思ったものですが、そういったヒエラルキーが描かれていたのもリアル感を倍増させていました。深津絵里さん演じる恩田の「警察はアパッチ砦じゃない。会社よ」という有名なセリフがありますが、まさに組織としての警察の内情と、事件解決が並行して絶妙に絡んでいたのが「踊る~」の面白さでしたよね。しかも、ふざけ過ぎず、かといって暗くならない絶妙なバランスは脚本家・君塚良一さんの力です。君塚さんは萩本欽一さんの放送作家集団「パジャマ党」に所属し、「欽ちゃんのどこまでやるの!?」などにも携わっていた人です。コントで培ったユーモアセンスは、このドラマにおおいに生きていると思います。

青島を演じた織田裕二さんのパワーは本当に感動します。「東京ラブストーリー」の大ブレイクでイメージを固定化させることなく、再び「踊る大捜査線」で社会現象を巻き起こすのですから。青島は回を追うごとに熱血刑事になっていきましたが、最初はとても事務的だったんですよね。そのコミカルな演技が本当にうまい。「東京ラブストーリー」や「振り返れば奴がいる」などとは別のベクトル。現在放送中の「SUITS」でも発揮されていますが、硬派なんだけれどユニークな個性を演じさせたら、ニクいほど決まる俳優さんです。

また、このドラマでは和久を演じたいかりや長介さんが、素晴らしい味を出していました。和久のセリフ「正しいことをしたかったら、偉くなれ」は、今聞いても涙が出てくるほど。和久と同期の警視庁副総監・吉田は、立場は変わってもお互い理解していることを感じさせるシーンもありましたね。いかりやさんと吉田を演じた神山繁さんとの間には、ドラマさながらの友情が芽生え、プライベートでも交流を深めたといいます。そういう裏話もたまらないです(涙)。

「踊る大捜査線」が始まった1997年は、お台場はまだ本当になにもない地域で、ドラマの中でも、お台場にある湾岸署は東京の僻地扱い。「空き地署」と揶揄されています。そこにちょうどフジテレビが移転したわけです。フジテレビは、お台場をすべての番組に全精力と多額の費用を使って盛り上げようとしていたんですね。その後お台場は順調に人口も増え、2008年には本当に湾岸署(正式名称は東京湾岸警察署)が設置されます。フジテレビがここまで予想していたかどうかはわかりませんが、こういったドラマとリアルの順序の逆は、なかなかありませんよね。いろんな意味で、平成を代表する作品だと思います。

「ビーチボーイズ」の奇をてらわない爽やかさ


―フジテレビといえば、この年は月9も華やかですね。

「ビーチボーイズ」は「カタログドラマ」とも揶揄されましたが、私は好きでした。反町隆史さん、竹野内豊さんというイケメンが出て、美しい景色があって、しかも男の友情がテーマです。恋愛ドラマや濃厚なラブシーンが多いドラマが乱立する中、「ビーチボーイズ」の明るさ、美しさに振り切った感じが清々しく感じたのだと思います。主役の反町さんと竹野内さんが、男性に反感を抱かせないタイプの俳優なのも大きかった。問題提起が含まれたドラマももちろん大切ですが、伏線だらけで意味を持たせたがるものばかりだと疲れます。「ビーチボーイズ」のように深刻に考えることなく、「いいドラマだったなあ」という後味だけが残る。それも一つの名作ドラマの有り方ですよね。

―月9は「ラブジェネレーション」も人気でした。

松たか子さんは、これで人気スターの仲間入りを果たしましたよね。上手というよりも「引き出しがまだあるのか!」と驚かされる人です。私は映画「告白」が大好きで、彼女のアップのシーン、「どっかーん」のセリフを聴いた時はゾクッとしました。素晴らしかったです。同じ魅力を感じるのが草彅剛さん。1997年「いいひと。」で初主演をした時は表情の作り方に感動しましたが、見るドラマごとに顔が違う。また改めて語りますが、2003年の「僕の生きる道」の死に向かう演技は、見ていて怖くなるほどでした。松さんも、草彅さんも凄みがある俳優さんだと思います。

「失楽園」が火をつけた不倫ドラマブーム


―1997年は、不倫とストーカーを扱ったドラマが多いのも大きな特徴ですね。

ストーカーのドラマは「ストーカー 逃げ切れぬ愛」と「ストーカー・誘う女」ですね。ストーカーという言葉が日本でも使われ出したのが1996年ごろからで、テレビ局が早速手をつけた感じだったと思います(ストーカー規制法が施行されるのは2000年)。不倫ドラマは「失楽園」「不機嫌な果実」「青い鳥」と数多く制作されましたが、映画「失楽園」の大ヒットの影響なのは間違いありません。映画は役所広司さんと黒木瞳でしたが、ドラマ版は古谷一行さんと川島なお美さん。テレビが映画の何倍も生々しかったです(笑)。しかし、「不倫は文化だ」発言で石田純一さんが大バッシングを受けたのは1996年。その1年後に「失楽園」が大ヒットし、「失楽園する」という言葉まで流行るわけです。不倫はよくないとわかっている。けれど、失楽園の世界みたいな不倫なら芸術的に思えるのかな? ドラマから夢や希望をもらうことができる、というのは何度も話していますが、必要以上に美化するのは危険です。

20年の時を経てDVD化される問題作「ギフト」


そういった現実と創作物との同一化は、ドラマを追いこんでしまうこともあります。1997年のドラマ「ギフト」は、「起こってしまった現実」に巻き込まれてしまった作品でしたね。脚本が井上由美子さんと飯田譲治さん。飯田譲治さんは独特の世界観を放つ脚本家で、青光りする怖さといいましょうか。「NIGHT HEAD」や「紗粧妙子最後の事件」なども彼で、「ギフト」も社会派でハードボイルドな異色作として話題を集めました。ところが1998年、主人公を演じる木村拓哉さんのバタフライナイフをあつかうシーンが、当時起こった殺人事件に影響していると問題視され、長年DVD化もされませんでした。私も諦めていたんです。しかし20年が経ち、ついに2019年1月9日発売されることが決定したとのこと! 「逃げるは恥だが役に立つ」「獣になれない私たち」の脚本家、野木亜紀子さんも「わーーーーー!!!待ってた!!!!!!前にちらっと飯田さんがつぶやいていたのはやっぱりギフトだったーーーーー!ブルーレイ買います!!!」とツイートされていました。待ち遠しいです!

そして最後に、「総理と呼ばないで」。「踊る大捜査線」の後番組だったのですが、ヒットメーカーの三谷幸喜さんが珍しく視聴率に苦しんだ作品です。三谷さん自身も、インタビューで大きなトラウマになったと語っています。ところが私はこれが大好きでした。「支持率がなんで落ちんの~」とぼやく田村正和さん演じる総理と、それを盛り立てようとするブレーンたちの右往左往は本当に面白かったです。

観る時代で評価がガラリと変わることは「ドラマあるある」。また、昔の名作が再度ブームを巻き起こすこともあります。「ギフト」もそうなるかもしれませんね。ドラマとは本当に不思議で、それを鑑賞する時の気分や年齢で、同じ作品なのに違う感じ方をさせてくれる。まるで生き物のようだと思います。

元毎日放送プロデューサーの影山教授


【ナビゲーター】影山貴彦/同志社女子大学 学芸学部 メディア創造学科教授。元毎日放送プロデューサー(「MBSヤングタウン」など)。早稲田大学政経学部卒、関西学院大学大学院文学修士。「カンテレ通信」コメンテーター、ABCラジオ番組審議会委員長、上方漫才大賞審査員、GAORA番組審議委員、日本笑い学会理事。著書に「テレビのゆくえ」(世界思想社)など。

【インタビュアー】田中稲/ライター。昭和歌謡、都市伝説、刑事ドラマ、世代研究、懐かしのアイドルを中心に執筆。「昭和歌謡[出る単]1008語」(誠文堂新光社)。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」連載。

関西ウォーカー

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