今夏フェス中止200件超。専門メディア代表が語る「生存のカギはハイブリッド化」

東京ウォーカー(全国版)

今や日本の夏に欠かせない存在となった音楽フェス。近年順調に成長を続け、各方面への経済波及効果を生み出してきたフェス市場だが、新型コロナウイルスの影響により大きな変化を迎えつつある。誰もが想像していなかった“フェスの無い夏”となる今年、業界やアーティストにもたらされる変化や影響、そしてウィズコロナ時代における、フェスの楽しみ方や在り方はどうなっていくのか。国内最大級の音楽フェス情報サイト「Festival Life」の代表を務める津田昌太朗さんに、現状や国内外の業界動向、今後について話を聞いた。

2020年7月時点で、200件を超える夏フェスが中止に「GREENROOM FESTIVAL」


市場規模300億円に迫る勢い!好調に推移を続けてきたフェス市場


2019年6月にぴあ総研が発表したデータによると、2018年の音楽フェスの動員数は前年比減の272万人となったものの、平均単価の上昇により、市場規模は前年比増の294億円に。市場規模300億円に迫る勢いで、年々拡大を続けていた。

「いわゆる4大フェス(※)と呼ばれる大規模なものからローカルフェスまで、さまざまなタイプが存在し、開催地域との結びつきが強いものも多い。いずれも野外、もしくは大人数が収容できる屋内でのライブが中心となるため、そういった環境や施設が整っている会場に行くまでの“交通”、複数日程や夜まで開催されるものに参加する際の“宿泊”、会場やその周辺での“飲食”など、多方面への経済効果があります」

※=「フジロックフェスティバル」(新潟)、「サマーソニック」(千葉・大阪)、「ライジング・サン・ロック・フェスティバル」(北海道)、「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル」(茨城)の4つを指す。

地方発のローカルフェスも近年増加中。写真は福井県初の本格野外フェス「ワンパークフェスティバル」「ONE PARK FESTIVAL」

また昨今では、地域活性化の視点からフェスを支援しようとする行政や自治体の動きもあり、行政主催や行政の協力を得たものも存在するのだという。地方を舞台にした新興フェスの実例として、2019年7月に福井県で開催された、県内初の本格野外フェス「ワンパークフェスティバル」がある。延べ1万人の観客が訪れ、その経済効果は約6億4000万円にも上ると発表された。

「定量的な面だけでなく、『福井でのライブは数年ぶり』『初めて福井に来た』といったアーティストのMCも現地で多く聞かれ、単独公演は難しい場所でも、フェスでならライブを行い、新たなファン層を開拓できるというような効果も感じられました」

“フジロック”以降、各地で多彩なフェスが誕生。客層やニーズは多様化


そもそもの音楽フェスの先駆けと言われているのが、1997年に初開催された「フジロックフェスティバル」だ。一時的な東京開催を経て、新潟県・苗場スキー場に会場を移してからは右肩上がりに来場者数が増加。“アウトドア”や“環境配慮”といった文脈とともに、現在に続く日本のフェス文化が形成されたと考えられ、“フジロック”の後を追うように各地で特色あるフェスが次々と誕生した。

「“新しい音楽に出会う場所”という根幹的な価値を維持しつつも、フェスが一般化するにつれ、“フェスのレジャー化”という言葉も聞くようになりました。黎明期にはコアな音楽ファンが集まる場所でしたが、コアファンからライトファンまでもが楽しめる場所へと次第に変化していったように思います」

「グリーンルームフェスティバル」の過去開催の様子「GREENROOM FESTIVAL」


家族にフォーカスを当てたフェスやインバウンド需要に応えたものなど、一概にフェスと言ってもそれぞれに異なる進化を遂げ、その役割や観客の客層・ニーズは多様化している。もちろん観客だけでなく、アーティストにとってもフェスの存在はとてつもなく大きい。特に、グッズ販売や新規ファン獲得の面で重要視され、作品のリリース時期を始めとする年間スケジュールを、フェス中心に組むアーティストも多いのだそう。

「海外でも同傾向で、世界的に注目が高まるフェスへの出演前後には作品のリリースが相次ぐ。そこをプロモーションの場所と捉え、新作の初披露、アーティスト同士のコラボ作品の披露が行われる場合も多いですね。また、ブレイクの登竜門という側面も大きく、過去には“フジロック”のルーキーステージには、くるりやサンボマスター、最近だとKing Gnuといったアーティストも出演しました」

さらに、くるり主催の「京都音楽博覧会」や氣志團主催の「氣志團万博」を始め、アーティスト自身が開催するフェスも年々数を増やし、人気を博している。アーティストにとってのフェスとは、プロモーションや収益面、知名度向上におけるメリットが大きいと同時に、音源や単独公演以外でファンとのコミュニケーションを楽しむことができる場所でもあるのだ。

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