「ぼくの名前はヤン坊、ぼくの名前はマー坊」というフレーズに馴染みがある人も多いだろう。1959年から2014まで放送されていた「ヤン坊マー坊天気予報」のテーマソングだ。そして、番組の顔として活躍していたのが双子のキャラクター「ヤン坊マー坊」。2人は発電機、農機、建機、小型船舶の製造販売を行うヤンマーの企業キャラクターとして長年親しまれてきた。ところが、この2人のデザインが2024年1月に大幅刷新し、SNSを中心に話題を呼んだ。企業の顔であるマスコットキャラクターやロゴを変更することは、賛否を生みやすい。ヤンマーはなぜこの決断に踏み切ったのか?ヤンマーホールディングス株式会社ブランド部コミュニケーション部PRグループの南口奈央さんに話を聞いた。
時代に合わせてリニューアルを重ねたヤン坊マー坊のデザイン
そもそも、ヤンマーが長年、天気予報番組を制作していたのはなぜなのだろうか?
「1950年代、農業や漁業にとって、天気は重要な情報でした。ヤンマーが深く関わってきた農家・漁師のみなさまに役立つ情報を届けるため、天気予報を1959年から開始しました。番組を作るにあたって、堅い企業のイメージを払拭して、広く親しんでもらいたいという想いで、天気予報のキャラクターとしてヤン坊マー坊が誕生しました」
番組開始当初のヤン坊マー坊を見ると、等身が高くてスリム。多くの人がイメージするヤン坊マー坊よりも“お兄さん”な印象を受ける。その後、時代のトレンドに合わせてヤン坊マー坊のデザインは徐々に変化。等身は低く、子どもらしいはつらつとした表情が印象的なキャラクターになっていった。
「55年継続してきたCMは、ライフスタイルの変化や、天気予報などに求められるものが変わってきたため、2014年3月末で終了しました。一方、ヤン坊マー坊は、CM終了後も滋賀県長浜市にある『ヤンマーミュージアム』や、お客様向けのノベルティでも継続して活躍していました」
2019年にはヤン坊マー坊生誕60周年を記念し、CGを取り入れた立体的なデザインが“8代目”ヤン坊マー坊として登場している。しかし、短い黒髪のスタイル、少年らしい服装という基本コンセプトは初代から変わらず、人々が持つヤン坊マー坊のイメージは保たれていた。それをなぜ、このタイミングで大幅リニューアルへと踏み切ったのだろうか?
「当社は、人の可能性を信じる、人の挑戦を後押しする価値観のもと、世の中の声に耳を傾け、ともに“A SUSTAINABLE FUTURE”を創り出すことをパーパス(企業の社会的意義)に掲げています。これを実現すべく、ヤン坊マー坊をより幅広い層や国・地域において『心を動かし、未来を動かす』キャラクターとして活躍させるためにリニューアルを実施しました。日本において天気予報で親しまれてきたキャラクターであることを知らない世代や、ヤン坊マー坊を通じたグローバルでのヤンマーの認知拡大も目的のひとつです」
リニューアルにあたっては、3つのデザイン案を作成したうえで、一般投票で決定。9代目にして初の一般投票でのデザイン決定ということになる。
「2023年6月にヤンマーオリジナル商業アニメ『未ル』の制作を発表したのですが、このとき、国内外で大きな期待が寄せられるとともに、SNSを中心にヤン坊マー坊に改めて注目が集まりました。また、当社は世界各地に53の拠点を持っており、海外を中心とした社内においても、ヤン坊マー坊のさらなる活用についての期待と要望が高まってきていました。これら社内外での反響を受け、国や地域を問わず幅広い世代の声や想いを反映し、未来の可能性に一緒にチャレンジするキャラクターを目指し、一般投票という形でヤン坊マー坊のデザインリニューアルに至りました」
一般投票は2023年11月16日から12月7日に開催。結果、総得票数は7万6568票。そのうち4万9628票がB案に集まり、9代目ヤン坊マー坊の誕生に至った。